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17.体育でうっかり目立ってしまう

17.


 俺と咲耶さくやのクラスに、ももかが転校してきた。

 改めて……ももかを見やる。


 桃色のつややかな髪。それをツインテールにしている。

 背はかなり低い。だが……不釣り合いなくらい胸が大きい。ロリ巨乳ってやつだ。


 気の強さを表すようなつり目。

 そして……とんでもなく小顔。


 咲耶さくややアイラに負けないくらい、ももかも美少女だった。

 で、そうなると、どうなるかっていうと……。


「浅間さん、どこから来たの!?」「この時期に転校ってどういうこと!?」「浅間さん、おれとデートしようぜ!」


 休み時間、ももかの周りにはたくさんの男子たちがいた。

 隣のクラスからも噂を聞きつけ、男子たちがももかを見に来ている。


 ……で、そんなももかはというと……。


 椅子に座り、ふんっと鼻を鳴らしている。

「悪いけど、アタシ……質問には答えられないわ。守秘義務があるの」


 おお、なんだ偉いぞ。ももかの家は秘密を抱えている(妖刀使い)。

 ももかはバ……幼卒なので、しゃべらせると家の秘密までべらべらしゃべってしまう。


 それゆえ、質問には答えないように言われているのだろう。主に葛葉くずのはから。

「守秘義務だって」「かっけー!」「くぅう!」「氷の令嬢派だったけど、おれ浅間派に乗り換えようかなぁ」


 男子たちには、ももかの素っ気ない態度が逆に良かったらしい……。わからん……。


 咲耶さくやのほうがいいだろうが。ったく……見る目のない連中である。


「…………」


 一方、我が妹はというと、興味なさそうにそっぽを向いている。


「ねえ悠仁、次体育だってっ。速く着替えて外行きましょ♡」

「お、おう……」


 他の男子たちへは塩対応するももかは、しかし俺に笑顔を向けてくる。


「……畜生! またあのクソ陰キャかよ!」「……陰キャが美女と話してるんじゃあねえよ!」「……てめえは教室の端っこでラノベでも読んでろ」


 ああ、男子たちの視線が……痛い。呪詛が聞こえてきて辛い……。

 咲耶さくや……助けて……。


「…………」カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ


 ……咲耶さくやはシャープペンをカチカチしていた。何本も、ペンの外に芯が出てるんですが……?


 え、何怒ってるのん……?


『わははは、愉快じゃ~♡』


 魔王は脳内でケラケラ笑っていやがった。畜生。見世物じゃあねえぞ。


 ややあって。

 俺たちは校庭にやってきていた。


 今日の体育は野球である。

 何チームかに分かれて試合をしている。咲耶さくやとは別チームになった。


 一方で……。


「悠仁悠仁っ♡ 体育がんばろーねー♡」


 ……ももかは俺にひっついて、ベタベタしてくる。


「あの……浅間さん?」

「ももか」

「え?」


 ずいっとももかが顔を近づけてくる。うわ……ほんと顔、整ってるな。


「ももかでしょ?」

「いや……」

「昨晩はももかって呼んでくれたじゃん?」


「「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」


 ……俺たちの会話を聞いていたらしい男子たちが、俺に殺意のまなざしを向けてきた。

 男子の前でなんつーこと言いやがるんだ、ももかのやろう! 女だけど!


「昨晩だと……?」「こいつ夜に浅間さんと!?」「朝まで浅間でってことか!?」


 どいうことだよ……。


「ももか。ほら、呼んでよ悠仁。ももかって……」

「いやその……あ、あー! 俺の番だな!」


 次のバッターは俺だった。俺はいそいそとその場を後にする。


「……呪」「……殺」「……呪殺……」


 男子たちから、とんでもなく恨まれてました……。ですよね……。


 ピッチャーにはクラスの男子が立っていた。


「呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺」


 ひいぃ、恨まれてる……!


「霧ヶきりがみねぇ……! 死ねごらぁああああああああああああああああああああああああ!」


 ピッチャーが俺めがけてボールを放ってきた。

 ……あいつ野球部のエースじゃあなかったか? 一年生でレギュラーに選ばれたやつ……。


 そんな野球部レギュラーのボールは、おいおい、俺の頭めがけて飛んできてるんですけど!?


 これ……どーっすかな。もちろん、避けるのはたやすい。元勇者の俺にとって、人間が投げるボールなんて、ハエが止まって見える。

 今もボールがのろのろとした動きで近づいてるようにしか見えない。

 頭直撃のボール。避けるのはたやすい。しかし避けたら、それはそれで『このスピードのボールを見切って避けたなんだあいつ』ってなりかねない。


 なら……どうする?

 しょうがない、当たったふりをするか。


 ボールがヘルメットにぶつかると同時に、俺は後ろに倒れる。

 ぶつかる寸前に倒れた。一般人から見ればぶつかったように見えただろう。


 だが、実際にはぶつかってないのでノーダメだ。まあ、勇者の防御力を持つ俺は、頭直撃のボールを受けてもダメージゼロなんすけどね。


 ドサッ。


「悠……」「お兄ちゃん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ……え?

 咲耶さくやが、いつの間にか俺の前にやってきていた。


 隣のコートに居ませんでした君……?


『血湧肉躍で強化して、一瞬で飛んできたようじゃな』


 おいいいいいいいいいいいいいいいいい。

 封絶界も張ってないのに、異能使うなよぉ~……。


 この距離を一瞬でだと、さすがにばれるだろうがっ。異能者ってことがっ。


『わたくしが、幻覚を見せましたの』


 ひらひらと帰蝶が咲耶さくやの隣で待っていた。


『幻覚?』

『そうですの。おまえがボールの直撃を受けて、おねえさまが一般人と同じ速度で走ってきた……そう見えるように、周囲の連中には幻覚をかけておいたですの』


 なるほど……。

 てか、帰蝶も術が使えるのか。葛葉くずのはが匂いでいろいろ探ることができるように。


 ただ飛んでるだけの蝶々じゃなかったんだな。


『無礼千万ですの、このクソ兄貴!』


 さて……。

 咲耶さくやが泣きながら、俺の頭をさすってくる。


「大丈夫お兄ちゃん!? 死なないで!」

「だ、大丈夫だって……」

「無敵のお兄ちゃんがこんなか細い声で! ああ、お兄ちゃん頭に大ダメージ食らったんだわ!」


 頭の直撃を受けてピンピンしてたらやばいでしょうが逆にっ。

 察しろよ! 演技してるって!


『念話で語りかければよかろうに』

『しまった! 咲耶さくや! お兄ちゃんは大丈夫だからね!?』


 すると咲耶さくやは、俺を横たわらせる。

 ゆらり……と咲耶さくやが、ピッチャーの方へと歩き出す。


「……許せない」

咲耶さくやさん!?』

「殺す……」

『ももかさんまで!?』


 二人の美少女が、怒り心頭といった表情でピッチャーの元へ向かう。

 やばい……。


「殺……」

「キル……」


葛葉くずのは! ももかを止めろ! 帰蝶は咲耶さくやをぉ!』

 

 だが式神たちは、諦めたような雰囲気を醸し出しながら言う。


『ごめんね、ゆーくん。ももかちゃん……完全にぶち切れてるわ。こうなると手がつけられないの』

『おねえさましっかり! こいつまだ死んでませんの!? おねえさま異能を一般人に使ったらやばいですわ!』


 ああもう……!


「いやぁ、今の間一髪だったわー!」


 俺は……起き上がることにした。


「いやぁ、ぎりっぎりで避けられたわー! 頭にぶつかってねーわー! ちょー元気だわー!」


 と……元気アピールする俺。


「悠仁……!? 大丈夫なのっ!?」

「お兄ちゃん無事!?」


 二人が踵を返して、こちらに近づいてきた。

 ……君ら、一応異能者なんだよね?

 さっきのやりとり(ボールの直撃を受けたように見せただけ)、見抜けないんだろう……。


『それは、勇者の演技が完璧だったからじゃろう。ボールがぶつかるほんの刹那のタイミングで、回避して見せたのじゃからな』


 そうか……。俺の速さに、彼女らもついて来れていないってことか……。


「おいおい……まじかよ……」

 

 はっと俺は気づく。


「完全にデッドボールだったぜ……?」「それを避けた……?」「どんなスピードだよ……」


 ああ、しまった……。他の生徒たちにも、俺の速さがばれてしまった……。


「しかも氷の令嬢から心配されててうらやま」「ちくしょう……クソ陰キャめ……!」

「霧ヶきりがみねさんとどういう関係なんだよあのクソ陰キャ!」


 ……おい、最後の奴。俺と咲耶さくや名字一緒だろうが。もしかして、兄妹って思われてないのん……?

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― 新着の感想 ―
>『このスピードのボールを見切って避けたなんだあいつ』ってなりかねない 殺気剥き出しだったら身構えるし例えプロのでも距離あるから避けれる時は避けれるでしょ?そして『この』スピードのではなく『あの』スピ…
殺人予告しながら言い訳出来ないレベルの危険球投げたピッチャーには先生や一般生徒の誰も突っ込まないんだなw
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