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16.ももか、転校してくる


 ……突如現れた新たなる妖刀使い、ももか。まあ……あれだ。


「ももか」

「なぁに♡」

「男は……赤ちゃん産めねえぞ……?」


 こいつ、まっすぐ俺の目を見て、「アタシの赤ちゃん産んで欲しい」って言ってきたのだ。


 俺は男であり、当然、子供を産むことなんてできない……!


「え……? アタシなんか変なこと言った……?」

『ごめんなさい、坊や』


 子狐が苦笑しながら言う。


『この子……ちょっとアホの子なの』

「あ、なるほど……アホの子なの」

『ええ。幼い頃から妖刀使いになるためだけに生まれ、訓練されてきたから』


 一般教養的なところが抜けちゃってるんだ……。


「ちなみにおまえ、赤ちゃんの作り方知ってる?」

「はぁ? なぁにあんた。アタシのことを馬鹿にしてるわけ……?」

「あ、いや……そうだよな。さすがに……」

「思い合ってる男女が同じベッドに入って、天井のシミを数えていると、赤ちゃんがおなかから這い出てくるんでしょ? 男の子の赤ちゃんなら男から、女の子の赤ちゃんなら女の腹から」


「怖っ……!」


 ふつうにホラーだった!


「式神の子狐ちゃんよ……」

葛葉くずのはよ、坊や♡』


「……じゃあ、葛葉。まじでこの子の教育どうなってるの……? 高校生くらいだろ、この子」

『ごめんなさいねぇ。この子、幼卒だから』


「幼卒?」

『最終学歴が幼稚園なの』

「OH……」


 なんてこった……。見た目はJK、中身は幼稚園児。それなんて逆コ●ン君……?


『それにしても、坊や』

「坊やはやめてくれよ。俺は霧ヶ峰(きりがみね)悠仁ゆうじ。咲耶の兄貴だ」


『まあ……ゆーくんってば』


 ゆーくんって……。


『咲耶ちゃんのお兄さんだったのね。でも……変だわ。咲耶ちゃんのお兄ちゃんって、たしか……非術師だったはずじゃ?』


 ……すっ、と葛葉が目を細めてくる。


『探られとるの』


 ま、そうだろうな。咲耶さくやは世界に十二本しかない妖刀所持者の一人だ。

 その家庭環境は、妖術総監部が把握してないわけがないだろうし。


「悪いが、あんま詮索しないでもらえると助かる」


 総監部に俺の正体がばれて、いろいろ追求されたら面倒だからな。

 まあ、そう言われて、はいそうですかとは答えないだろうから、記憶を魔法で……。


『わかった♡』

「え? いいの?」

『ええ。あんまり詮索して欲しくなさそうだったから』

「……すまん、助かる」

『ううん♡ 気にしないで。助けてもらったのはこっちだし。ありがとう、ももかちゃん助けてくれて。ゆーくん♡』


 話が通じる式神で助かった。


「ちょっと葛葉」


 しまった、この話、バリバリももかに聞かれてた……。


「なにサクサクって?」

「……………………」


 サクサクて……。

 詮索をサクサクて……。


『今度お礼に、お茶でもご一緒しない、サクサクの美味しいスコーンを焼いて、オウチで待ってるわ♡ ってこと』

「! ナイスよ、葛葉!」


 わー……これで納得するんだ……。


『想像以上に頭が残念な幼卒じゃのう……』


 さすが幼卒……。

 ももかは近づいてきて、ぐいっと俺の手を引く。


「じゃ♡」

「じゃ……? ばいばい……」


 もう用事も終わったしな……。


「ちがうわよ。アタシの家にいこいこ♡」

「ああ、そういう……って、もう夜も遅いんだけど」


 それに早く帰らないと、親父や咲耶さくやが心配するしな。


「そっか」

「おう」

「じゃあホテルいこ♡」

「おぃいいいいいいい! 大丈夫かこの幼卒!?」


 こんな頭残念なやつが、刃物振り回して大丈夫なの!? 妖術界!?


『ももかちゃん。あんまりゆーくんを困らせないの。それに、まだお役目終わってないでしょ。壊れた建物治さないと』


 あ、そういやそうだったな。


「わかってるわよ、葛葉。」


 言って、ももかが指を立てる。


「此の地、此の時、此の空を解く。外界の目と耳、声と足を戻し、我らが戦場を――理より解放せよ。封絶界・【閉】」


 ここら辺に展開されていた結界が、じわじわと消えていく。

 結界が消えると、そこには戦いの傷跡が一切消えていた。


「どーなってんだこりゃ?」

『封絶界を消去したの』


「結界の消去で、どうして建物の傷がなおるんだ?」

『封絶界は、妖術で構築された仮想空間なの』


 と葛葉。


『なるほどの。我らは現実そっくりな仮想空間に飛ばされておったのじゃな。そして、仮想の空間でいくら暴れようが、関係ない。元の空間は無事ってこと』

『そういうことよ、ゆーくんの式神ちゃん』


 葛葉のなかで、魔王は俺の式神って思ってるようだ。まあ使い魔なので間違いではないから、訂正しないでおこう。


「つか、よく覚えられたな。呪文」


 幼卒なのに……。


『大変だったのよ……それは、もう……』


 葛葉が遠い目をする。……ずいぶんと覚えさせるのに苦労したようだ……。


「悠仁」


 と、ももかが俺の名を呼ぶ。


「なんだ?」

「今日のところは、帰るわ」

 

 あら、おとなしく帰ってくれるようだ。助かる……。


「やけにあっさり下がるんだな」

「葛葉が帰れっていうから」


 素直……。


「今度おうちデートね。約束だからね!」

「ん、まあ……いけたらいくよ」

「やくそくね……!」


 といって、ももかが手を振りながら去って行く。

 葛葉はペコッと頭を下げた。


『ありがとう、本当に。このお礼は……ちゃんとするわね』

「いや、まじ気にしないでくれよ。俺は妹の代わりに妖魔退治やってるだけ。あんたらを助けたのも、ついでだしな」


 くんくん……と葛葉が鼻をならす。


『本当にそう思ってるのね。すごいわ……そんなに強いのに。全然偉ぶってない。とても希有な……素敵な男性。ももかが惚れるのもわかるわ』

「お、おう……」


 なんかめちゃくちゃに褒められて、照れてしまった。


「ちょっと葛葉ぁ! 帰るって言ったのあんたでしょー!」

『じゃあね、ゆーじくん。また♡』


 どろん、と葛葉が煙になって消える。


「またね、悠仁っ!」


 ぶんぶん! と手を振って……幼卒さんは帰って行った。


「妖刀使いは変なのしかいないな……」


 なんかふつうに妖魔やっつけるより、憑かれたわ……。


『我らも帰るかの』

「だな」


 で、だ。


 その翌日のこと。


「えー……転校生を紹介する」


 学校にて。教壇の前には……見覚えのある女が立っていた。


 黒板には、「あさま ももか」とひらがなで書いてあった。


「今日からこの学校に通うことになった、浅間ももか、よ……!」

「…………」


 俺は手で顔を覆う。またね、とは言ったけどさぁ……!

 速いんだよ! 会うのが……!


「悠仁!」


 ももかは教壇から降りると、俺のそばまでやってくる。


「よろしく!」

「お、おう……」


「アタシ、悠仁の隣に座るわ」


 と、ももかが担任に向かって言う。

 いやいや……さすがに横暴すぎんだろ……。先生もNOって言うよな?


「YES。お好きに」

「な!?」


 なんでだよっ!


『ごめんね、ゆーくん』


 どろん、とももかの肩の上に、葛葉が出現する。


『浅間の家って、とってもお金持ち、かつ権力持ってるの』


 ……ああ、そうですか……。

 権力ですか。


「…………」


 咲耶さくやがこっちをにらみつけていた。痛い……痛いよぉ……咲耶さくやぁ……。


「あら、凡骨。居たの?」


 ふんっと逆側から、ももかが咲耶さくやをにらみつける。


「存在感が薄くて気づかなかったわ~」

「……うるさい黙れ幼卒」

「へーん。……ん? 幼卒ってなに?」


 ……そのあだ名、咲耶さくやも使ってんのかよ……。


「幼卒が高校の勉強になんて、ついていけないでしょ? なに通ってるの?」

「悠仁が学校に通ってるっていうから、アタシも通うことにしたのっ! ほら、将来結婚したときに学生時代を振り返る的なことしたいし~?」


 ぴくぴくぴくっと咲耶さくやの額に、怒りマークが浮かぶ。


「なにぃいい?!」「霧ヶ峰(きりがみね)と結婚だとぉ!?」「どういうことだクソ陰キャぁ……!」


 男子どもが立ち上がり、俺をにらみつけてくる。ああ……針のむしろ……。


「文字通りよ! アタシ、浅間ももかは、将来悠仁と結婚するの!」

「「「結婚ぅううううううううううううううう!?」」」


「そんで……悠仁にアタシの赤ちゃん産んでもらうんだから!」

「「「出産ぅううううううううううううううう!?」」」


 おいそっちには突っ込めよお前ら……!


「……ほんと、馬鹿ばっか」


 咲耶さくやが冷たく、そう言い放つのだった。

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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

― 新着の感想 ―
そのうちオモイカネという名の統括システムが出てきたりして。 その場合、妖術師協会本部の通称はナデシコになったり・・・
たしかに魔王に憑かれる
主人公の隣の席に座ってた人、とばっちり
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