15.強大な妖魔をワンパンして新キャラから求婚される
その日の夜、咲耶が珍しく、妖魔退治を休むと言ってきた。どうやら体調が悪いらしい。
【……死にたい……鬱……あんな恥ずかしい姿見られた……死にたい……】
とのこと。恥ずかしい姿? まあ、人間生きていれば、仕事へのモチベーションが上がらないときもある。しょうがない。
なので、俺は一人で妖魔退治に行くことにした。
魔力を感知できる魔王曰く、『あんま強いやつはおらんのぅ……』とのことだった。てきとーにぶらぶらしていると……。
同じく妖刀使いらしき少女と、バッティング。少女が妖魔にやられそうになっていたので、とっさに助けに入ったのだった。
『やさしいのぅ~』
『いや、だって妖刀使いってことは咲耶の同僚ってことだろ。なら兄として見過ごすわけにゃいかんだろ。後日、妹が職場で肩身の狭い思いをさせたら大変だし』
で、だ。
「大丈夫かい?」
少女は結構な大けがを負っていた。両腕を切断されている。
「……これで……大丈夫に見えるんだったら、あんたおかしいわよ」
「え? いや、大丈夫だろ」
「………………はぁ?」
少女に不審そうな目を向けられた。そうかな?
『なんじゃ、こやつら命がけで戦っておるくせに、腕吹っ飛ばされただけで大事だと思ってるのか? 異世界じゃとこんなの普通じゃろうて』
俺もそう思ったが、まあ違うんだろう。
「元となる腕があるんだ。大丈夫、すぐ直せるよ」
俺は落ちている腕を触る。……魔法見せても問題ないかな?
まあ一般人じゃあないし、咲耶の同僚だしな。総監部にチクられると面倒だけど、黙っておいてくれと言えばいいか。最悪、記憶を消せばいい。俺は落ちている腕を持ち上げ、彼女の元に近づける。
「【中回復】」
「なあ……!?」
少女が目をむいていた。みるみるうちに腕が元通りになっていく。
「ほい、治療完了だ。どうだ、動かせるか?」
「う、うん……」
にぎにぎ、と少女が指を開いたり閉じたりする。
『すごいわ……! まるで魔法みたい!』
と、小さな狐が叫ぶ。あんだこいつ……?
『この魔力の感じ、式神じゃろ。帰蝶とかと同じで』
なるほど……。まるで魔法みたいっていうか、魔法そのものなんだけどな。
「うっし、無事だな。ほら、大事なもんなんだろ」
落ちていた妖刀を拾い上げてさやに納め、彼女に渡す。
「あ、あり……がと……」
おずおずと少女が妖刀を受け取る。彼女は自分の胸を押さえていた。
「どうした? 他にも怪我したのか?」
「ち、違う……わ。だ、大丈夫……大丈夫だから……」
「なんなん……?」
すると、少女の式神が近づいてきて、ペコッと頭を下げる。
『どこのどなたか存じませんが、うちの子を助けていただき、ありがとうございました』
「いえいえ」
子狐が丁寧に頭を下げる。
『あなたは命の恩人です。ぜひ、お礼させてくださいまし』
「あー、いや、いいよ。たいしたことしてないし」
『そうはいっても……』
と、そのときである。俺は感じ取った。俺の命を取ろうとするやつの……殺気ってやつを。
「あぶねえ!」
俺は少女を押し倒す。
「ちょぉ!? んななな、なによぉお!?」
ガオォンッ!
少女の立っていた場所が、空間ごとえぐり取られていた。
「そういうのは手順を踏んで……まずは両親の挨拶からしょの……」
『ももかちゃん、しっかりして!』
こいつ、ももかっていうのか。
『妖魔よ!』
「また別のやつ!?」
ももかが妖刀を構える。……咲耶の使うのより、ちょっと短い。小太刀ってやつだろう。
『いや……さっきの鎌鼬と同じ匂いがするわ!』
と子狐。攻撃してきたほうをみやると……。
なるほど。無駄にでけえイタチがいた。
「ど、どこ……どこなの!? 鎌鼬は!?」
あれ、ももかは見えていないようだ。つまり高位の妖魔ってことだな。うちの咲耶も、たまにこうなる。
『ももかちゃんでも視認できないほどの高位妖魔……。あの鎌鼬、力を隠してたんだわ!』
かたかた……と震える子狐。ももかは妖刀にしがみついて震えていた。ははん……?
まあ、しゃーない。咲耶もそうだが、この子も普通の女子高生だもん。(だよな? 制服着てるし)。
平和な日本生まれの女子高生が、急に刀もって敵と戦えって言われても無理なもんだ。まして相手はモンスター。おびえてしまうのはしょうがない。
「ここで見ときな。俺がやる」
「あ、あんたが……」
ももかは俺を止めようとしない。さっき妖魔をぶっ倒したところを見ているからだろう。
『殺す……! てめえはぜってぇえ殺してやるぅううううううううううううううううう!』
見上げると、五メートルくらいのイタチが空を浮いている。その爪、尻尾は日本刀の刃のようにとがっており、鈍い色をしていた。
『なんて……恐ろしい姿……』
と子狐が震えている。そうかぁ……? 魔王の真の姿の方がまだ怖かったような……。
『そうじゃのぅ。それにかわゆい見た目しておるしな、こやつ。なにせイタチじゃもの』
「たしかになー」
ぎり、と鎌鼬が歯がみする。
『このおれを畏れないどころか、雑談する余裕すらあるだと……!?』
「おう。じゃ、やるか?」
鎌鼬は右手を振り上げる。
『もう出し惜しみしねえ! 最初から……霊力全開だ……! しね! 風刃!』
ん……? 風刃……? あいつも魔法を使うのか……?
ビョォオオオオオオオオオオ!
「なんて突風なの!?」
『地面がえぐり取られてる……なんて破壊力! だめよ、逃げてぇ!』
うそ……だろ……。そんな……。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
『ぬはははははぁ! どうだぁ! 塵も残さず木っ端みじんにしてやったわぁ!』
「なってませんが?」
『なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?』
鎌鼬が驚いている。深夜にこんな大声や大爆発を起こして大丈夫か……? と思ったら、封絶界が張られていた。多分ももかが張ったものだろう。良かった。
『ば、ば、バカな!? お、おれの風刃の直撃受けて、なぜそんな無傷なのだ!?』
「? 対魔法障壁が自動展開されて、それに防がれたんだろ」
『しょ、障壁!? 自動展開だとぉおお!?』
あら……? 鎌鼬のやつ、何驚いてるんだろう……。
『障壁って……。け、結界が、自動的に……発動したってことなの……?』
子狐に尋ねられたので、俺はうなずく。
「しんじられない……」『前代未聞よぉ……』
あら? 二人もなんか驚いてる。うーん……なんでだろうね。
俺は妖術師じゃないので妖術のことはわからん。魔法のことならわかるんだがな。
『自動で相手の術を防ぐ障壁を展開したということなのか!?』
「だからそう言ってるだろ」
『くそ……し、しかし貴様! おれの風刃を見て呆然としていただろう!? まさか、とか!』
ああそれ……。
「いや、俺も似たような奴使えんだけど……まさかこんな弱っちい威力だとは思ってなくてな」
『なにぃい!?』
風刃って言えば、たしかに初歩の風魔法だ。しかしそれにしても、あんな威力しか出せないなんて……。
『おれのことを馬鹿にしよって!』
「馬鹿にしてねえよ。事実を伝えてるだけだし」
『黙れ! 死ねぇえええええええええ!』
やつが風刃を連発してくる。んんっ?
なんで連発するんだ……?
『風の刃を連射するなら、風裂刃など使えばよいのにのー?』
「なー?」
俺は飛んでくる刃を、ひょひょいのひょいっとよけてみせる。
『なぜだぁ!? なぜ当たらん!』
「いや、わかるだろ。どこ狙ってくるかなんて」
まあほっといても障壁が展開して俺の体を守ってくれる。でもこの程度なら、障壁で防ぐまでもない。
「相手の殺気を読めば、だいたいどこ狙ってくるかわかるだろ?」
『はぁ!? 殺気を読むだぁ……!? なんだ殺気って!』
「相手の命を獲るってやつからは、独特の呼吸や空気感を感じられる。それが殺気だ。それが読めるようになれば、相手がどこ狙ってくるのかわかるだろ?」
目の前にそいつがいれば、100パーセントよけられる(呼吸を読んで)。目の前にいなくても、空気の変化を読めば、大抵よけられる。
『残念だったな、妖魔よ。こやつは長い時間、地獄のような場所で命がけの戦いをしてきた男』
魔王が鎌鼬にも念話を届ける。
『貴様のような、一方的に弱者をなぶるような弱いモノいじめしかしてこなかったやつが、かなう相手じゃないのじゃ』
さて……と。
「もう終わりか? ほいじゃ……最後に見せてやるよ。本物ってやつを」
俺は右手を前に出す。
「風刃」
ずばぁああああああああああああああああああああああああん!
三階建てくらいの大きさの風の刃が地面を走る。地面を、そして周囲の電柱もなぎはらいながら刃が走る。
……そして、刃が通った跡には、何も残らない。そう、何一つ……だ。
「………………」
ももかはその場で固まっていた。
『すご……すぎる……』
子狐も同じく固まっている。
「…………」
ももかは立ち上がり、俺に近づいてきた。……ふと、思い出す。そういや咲耶も最初は、俺の戦いを見て、やばい妖魔だと思って斬りかかってきたな。それは困るなぁ……。
「かぁっこいい~♡」
「……………………え?」
ももかは目を♡にして、俺に抱きついてきた。
「かっこいいわっ♡ あなたっ♡ すっごくかっこいいっ♡」
「お、おう……」
あれ……? おびえてない……? 敵意も感じられない。
『ももかちゃん……強い男の人すきだもんね……』
「ええっ♡ ね、ね、貴方♡ おねがいがあるんだけどっ♡」
「な、なんすか……?」
ももかは俺を見上げて言う。
「あんた……♡ アタシのお婿さんになってくれない♡ アタシの赤ちゃん産んで欲しいなっ♡」
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