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13.レベルアップした妹の無双、そして新たな妖刀美女

 俺は分身妹と授業を受けた。……まあ、授業の合間の休み時間は、ひたすら質問攻めだった。


(氷の令嬢と陽気妃とどういう関係なんだってな……。いや、アイラはともかく、咲耶とは兄妹だろ。知らないのかおまえら……)


 そして放課後。


「ゆーじくーん♡」「……お兄ちゃん」


 隣のクラスのアイラと、眠りから目覚めた咲耶がやってきた。


「一緒に帰ろう~♡」「わたしと帰りましょう」


 やめてくれ二人とも……。


「チッ……なんだよあいつ……」「まじでアイラ様とどういう関係なんだ……」「うらやましすぎるぞ、ちくしょう……」


 ほら、クラスメイトの視線がビシバシ刺さってくる……。


「咲耶ちゃんも一緒に帰ろう! 三人でデートだっ!」


 アイラが屈託のない笑みで言う。


「こ、駒ヶ根さん……からかうのはやめてくれよ」

「ほえ? からかってないけど? さ、かえろーかえろー!」


 アイラは俺と咲耶の手をつないで廊下へ出た。

 教室を出ても、道行くやつらの視線が突き刺さる。


「アイラたんと一緒にいるやつ誰……?」「さぁ……」

「氷の令嬢もいる」「なんだあの両手に花やろう……!」


 ……三人で居れば目立たないかと思ったが、普通に目立ってた。そりゃ美女二人をはべらせた陰キャがいたらこうなる。


 視線を浴びながら外へ出る。……が、外でもアイラがついてくる。


「あの……いつまでついてくるん……?」

「……そうです。邪魔です」


 アイラは「ほえ?」と首をかしげる。


「だってデートするんでしょ~?」

「「……いえ、結構です」」

「大丈夫! わたしは結構じゃあありませんのでっ!」


 ……この人、話を聞かないタイプだな。

 てか大人気アイドルが変装もせず歩くなよ……!


「おいアイラたんじゃない?」「ほんとだ……!」「なんでここに……?」


 外でもめちゃくちゃ見られてる。


『む……? 勇者よ。妖魔が引き寄せられておるぞ、アイラに』


 魔王に言われて振り返ると……虫っぽいのと魚っぽいのがぞろぞろとアイラに寄ってきていた。


虫怪ちゅうかい魚妖ぎょようだよ』


 と咲耶。


『魚妖って?』

『虫怪と同じく低級の妖魔。……前のわたしなら苦戦したけど、今のわたしなら……』


 どうやら咲耶がやるらしい。


『お兄ちゃん。見てて……どれだけ強くなったのか』


 妹の意思を尊重しよう。


「アイラ、ちょっと二人きりになりたいな」

「! うんっ! いいよー!」


 俺はちらっと咲耶に目をやり、アイラの注意を引く。

 そのすきに咲耶が戦闘態勢へ。


「【此の地、此の時、此の空を隔つ。外界の目と耳、声と足を退け、我らが戦場を理で封ぜよ】」


 咲耶が詠唱を終える。


「【封絶界】」


 瞬間、咲耶を中心に結界が広がり、一般人は無意識に避けて通る。


『ほぅ、認識阻害の結界じゃな』

『だな。あれなら中で暴れても問題ない』


『そういえば、勇者が初めて咲耶の戦闘を見た時も、この結界を張っていたな』


 そういやそうだったか。


『というか、なんでおまえたちは普通におねえさまを認識できてるんですの!?』


 帰蝶の声が念話で飛んでくる。


『【遠見ファーサイト】って魔法だ。自分の視界を飛ばし、遠距離を鮮明に観察できる』

『ほんともう何でもありですのね!?』


 結界内の咲耶は二十匹ほどの妖魔の前に立つ。

 魔法袋から妖刀・血刀【桜】を取り出す。


「一の型……【血湧肉躍】!」


 血流を早めて身体能力を向上。地面を蹴って妖魔の間を駆け抜ける。

 刀を納めると、妖魔たちは一瞬で消えた。


『す、すごいですわ……おねえさま!』

『レベルアップの影響が出てるんだ……』


 咲耶は嬉しそうだ。うむ、鍛えた甲斐があった。


『正直、我らと比べればまだまだトロいがの』


 魔王、やめろ。妹の頑張りを馬鹿にすんな。


『!? おねえさま、大変ですの! さらに虫怪が集まって……変化しますの!』


 変化……?


『妖魔は集まって進化することがある。それが変化』


 なるほど。気づけば虫怪がさらに集まっていた。


『駒ヶ根アイラのせいですわ。とんでもない生命力を持ってますの!』


 魔王も同意する。……あれ、俺が元気づけたせいでもある?


 虫怪は巨大化し、咲耶へ腕を振り下ろす。

 俺は【飛翔フライ】で飛び、前に出て受け止めた。


「お兄ちゃん!」

「怪我はないな?」

「う、うん……」


 押し返すと、虫怪は無様に倒れる。


『チャンスですわ、おねえさま!』

「うん! 帰蝶、首の場所にマーキングして!」


 帰蝶が首に止まる。咲耶は目印に走り出す。


「血湧肉躍……三倍!」


 三倍?


『重ねがけできるようじゃな』


 強化した咲耶が妖刀を振るう。


 ズバァアアアアアアアアン!


 斬撃が虫怪の首を吹き飛ばし、周囲の建物すら切り裂く。


「…………」


 咲耶は呆然。


『なんて威力ですの』

「……レベルアップの影響、やっぱり出てるんだ」


 咲耶が俺を見て笑う。


「ありがとう、お兄ちゃんっ」

「おう。よかったな」


《???Side》


 霧ヶ峰兄妹が変化虫怪を討伐した数時間後、一人の少女が戦闘跡地に立っていた。


葛葉くずのはこれどう思う?」


 少女は、肩に乗ってる小さな狐の式神に尋ねる。


『咲耶ちゃんの匂いがする。そして……変化虫怪ちゃんの匂いも』


 狐はぴょんと肩に戻る。


「つまり?」

『咲耶ちゃんが倒したってことでしょ~』


 少女が歯ぎしりする。


「あんな凡骨が……このアタシでも骨が折れる敵を?」

『一人でってわけじゃないかも』


「どういうこと?」

『そばにもう一人、咲耶ちゃんに似た匂いの男の子がいた。その子……咲耶ちゃんの何倍も強い』


「!? 妖刀使いよりも……?」

『そう。不思議よねぇ、妖刀の匂いは全くしなかったのに』


 少女は顔をゆがめる。


「……ねえ葛葉。そいつ、アタシより強いとかないでしょうね?」


 葛葉は『さぁどうでしょう』とごまかす。

 否定しないのはつまり――。


「へえ……このアタシより強い妖術師がいるんだ。……許せない」


 少女は妖刀を抜く。


「葛葉、そいつの匂いをたどって」

『あらあら……何をするの?』


「決まってるでしょ? 戦うのよ。このアタシ――【浅間 ももか】様より強いやつなんて……許せないんだから」


 新たなる妖刀使いはそうつぶやいた。 

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― 新着の感想 ―
『血湧肉躍』って、『界王拳』?
脳筋ツンデレちゃん登場デス!
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