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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
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閑話1 新人執事はメイドに謝罪する

※3月28日に更新しました。


「すまなかった」

「……いきなり何よ」


 急に頭を下げられ、シルフィアは怪訝な表情を浮かべる。

 謝罪しているのはヴァンだ。

 先日の一件で部下と共にカルヴァドス男爵領に受け入れられた。

 部下たちはテキラ村にて生活を始めたが、ヴァンだけはその実力を買われてカルヴァドス男爵家に執事として雇われた。

 といっても、平民出身の彼は執事としての仕事は勉強途中で、今は護衛としての側面が強い。


「君を怪我させてしまった。しかも、放って逃げちまった」

「あなたのせいじゃないわ。怪我をさせたのはあなたの部下でしょ?」


 謝罪の理由を聞き、シルフィアは否定する。

 だが、ヴァンはそれでも引かなかった。


「部下の責任は俺の責任でもある。だからこそ、謝りたいんだ」

「気にしなくて良いわ。そもそもあなたは私のことを助けようとしてくれたんでしょ?」

「なっ⁉」


 ヴァンは驚く。

 まさかバレているとは思っていなかったようだ。


「グレインとリュコ先輩に聞いたわ。私に魔力を与えて、死なないようにしてくれたのよね?」

「……部下に殺人をさせるわけにはいかなかったからだ」


 ヴァンは顔を背ける。

 もちろん、それだけが理由ではない。

 だが、自分で言うのは憚られた。


「【精霊】に言われたんでしょ?」

「……気付いていたのか?」


 シルフィアの指摘にヴァンは驚いた。

 その反応にシルフィアは呆れた表情になる。


「私は【ハーフエルフ】よ? 【精霊魔法】は私の領分なんだから、気付いて当然よ」


 魔法の中には通常の型にははまらない、特別な魔法が存在する。

 その一つが【精霊魔法】である。

 精霊という存在と結びつくことで、その属性の魔法を使うことができる。

 普通の魔法より使いづらいが、精霊と信頼を築くことでより強力な魔法を使うことができる。

 この【精霊魔法】はほとんどエルフしか使えないが、人間の一部も使える。

 ヴァンもその一人だった。


「たしかにそうだな……だが、俺はもうほとんど使えないさ」


 ヴァンは自嘲する。


「異常に精霊が少ないことが理由かしら?」


 シルフィアは彼の周囲を見て、質問する。

 ハーフエルフの彼女だからこそ、見える景色がある。


「ああ、そうだ。子供の頃から精霊に好かれていたおかげで、俺は他の奴より魔法の扱いが上手かった。そのおかげで平民でも聖騎士になれた」

「……」

「だが、そこからだな。聖光教は敬虔な信徒には優しいかもしれないが、それ以外にはきつく当たる。その役目を任されるのは聖騎士──異端尋問官みたいなもんだな。その仕事をしているうちに精霊たちは俺の元からどんどん離れていった」

「それで?」

「精霊ってのは純粋な存在だ。俺が悪いことをしているとわかれば、近くにいたくなかったんだろう。人間関係と同じだな」

「でも、あなたのそばには部下がいたじゃない」


 シルフィアは慰める。

 精霊が離れたことは悲しいかもしれないが、それはヴァンが酷い人間だからではない。

 そんな人間なら、人間すら残らないからだ。


「あいつらには他に居場所がなかったからな。俺が守るしかなかったんだ」

「でも、見捨てなかった。それはあなたが優しいからでしょう?」

「……ただの偽善だ。俺のせいで誰かが苦しむのは見たくなかっただけだ。聖騎士をしていた俺が言うことでもないがな」


 ヴァンは乾いた笑みを浮かべる。

 今までの自分の所業に後悔しているようだ。

 彼のおかげで救われていた者もいれば、苦しんだ者もいる。

 その事実は変わらないのだ。


「偽善でもいいじゃない。そのおかげで彼らが救われたんだから」

「……そう言ってもらえるだけありがたいな」


 シルフィアの言葉にヴァンは微笑む。

 自分の行動を認めて貰えたことで、少し救われた気がした。


「認めているのは私だけじゃないみたいよ」

「ん?」


 言葉の意味がわからず、ヴァンは首を傾げる。

 だが、すぐに周囲の変化に気がつく。

 彼の周りに薄い緑の光が集まっていた。


「っ⁉」


 懐かしい感覚に驚いた。

 自然と涙がこぼれた。


「戻ってきてくれたのか?」


 ヴァンの問いかけに周囲の光が肯定するように点滅する。


「あなたが言ったことじゃない。精霊は純粋な存在だって。あなたが良いことをしたから、純粋な精霊は戻ってきてくれたのよ」

「双子の嬢ちゃんたちを誘拐したがな」

「そこは上からの命令で仕方なくじゃないかしら? とりあえず、総合的に良いと判断されたからこそ精霊たちが戻ってきたのよ」

「……なるほどな」


 ヴァンは優しげな表情で光を撫でる。

 撫でられた光は嬉しそうに点滅した。


「今後は精霊に見捨てられないよう頑張りなさい」

「ああ、そうするよ」


 シルフィアの言葉にヴァンは笑みを浮かべる。

 そんな二人を囲った精霊たちは嬉しそうに点滅し、幻想的な光景を作っていた。

 それを見た周囲の人間によって一気にとある噂が広がったが、二人の耳には入らなかった。

 ただ周囲の反応が生暖かいものを見るような目立ったので、おかしいとは思っていたが……







ヴァンがグレインとリュコスと戦ったときはかなり実力が落ちていました。

聖騎士に抜擢されたときが全盛期でAランク冒険者並の実力でしたが、Bランク上位──下手したら、下位にすら負ける可能性がありました。

それも聖騎士の仕事のせいで精霊に距離を置かれていたせいです。

ちなみに、精霊たちは距離を置いていましたが、すぐに戻れる程度にはいました。

いつか更正してくれるとヴァンを信じていたのかも……


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