4-32 小さな転生貴族は魔王の実力に慄く
※3月26日に更新しました。
「どうやら全員無事だったみたいだね」
「まあな」
建物から出ると、ルシフェルさんが声を掛けてきた。
無事かどうか聞いてきたが、心配した様子はまったくなかった。
アレンも気にせずに答える。
「それはドラゴンかい?」
「わかるのか?」
「もちろん。二人と違って過去の本を読んでいるから、挿絵でドラゴンの姿は見たことがある。流石に本物は初めてだけどね」
ルシフェルさんは笑みを浮かべる。
伝説の存在がいることに驚かないのは様々な経験をしているからだろうか?
普通なら、驚いて腰を抜かしてもおかしくはないが……
「まさか外に魔王がいるとは……部下たちが逃げなくて良かったな」
ルシフェルさんを見て、ヴァンが安堵の声を漏らす。
俺たちが攻めてきたとき、彼は部下の命を守るために逃げる命令をしていた。
結局は逃げなかったが、もし逃げていたらとんでもないことになっていたかもしれない、と。
「一番の重傷はグレイン君ですか。予想外ですね」
「色々と予想外なことがあったんですよ」
アレンの背中から俺は答える。
しかし、体を動かすことができない。
まるで全身が筋肉痛のように痛いのだ。
「無茶なことをするからですよ。まあ、そうしないといけなかったんでしょうが……」
「わかります?」
「それはもちろん。君の魔力の流れが乱れているのも、見慣れぬ属性と見慣れた属性があるのも理由ですよ」
「見慣れぬ属性と見慣れた属性?」
ルシフェルさんに思わず聞き返してしまう。
どういうことだろうか?
「どういう状況かわかりませんが、【聖属性】と【闇属性】の魔力を取り込んだんでしょう? 建物の中の状況から察するに【聖属性】の方が先でしょうか?」
「えっと……それがどんなことに?」
「その二つの属性を使うことができるはずです。あと、無理矢理取り込んだ影響か、髪の毛の一部の色が変わっています」
「本当に?」
ルシフェルさんの指摘に俺は驚く。
新たな属性を使えることより、髪の毛の色が変わっている方が驚いてしまった。
まだ鏡を見ていなかったので、気付かなかった。
「ええ、一房ずつですけどね。帰ったらリズとクリスさんから質問攻めされると思いますが、頑張ってください」
「えぇ……」
嫌な未来を想像させられ、嫌な顔になってしまう。
ただでさえ無茶なことをしてきたのに、さらに怒られる要素が増えてしまったわけだ。
体を動かすこともしんどいから、免除してくれないかな?
「さて、そろそろ帰るか」
「ええ、そうですね」
アレンの言葉にルシフェルさんは話を切り上げる。
そして、建物に意識を向けた。
俺が上級魔法を使うより十倍近い膨大な魔力が集まってくる。
「闇の渦よ すべてを喰らい 飲み込め──【混沌の闇】」
ルシフェルさんが呪文を唱え、両手を広げる。
その瞬間、彼から膨大な魔力が解放される。
それが周囲に準備していた魔方陣に連鎖していき、建物全体を囲んでいく。
そして、一周すると魔法が放たれた。
(シュワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ)
「「「「「っ⁉」」」」」
目の前の出来事にその場にいた人間は目を見開いた。
ほとんど者は信じられず、何度も目をこすっていたぐらいだ。
城かと見紛うほど大きな建物が一瞬にして消滅したのだ。
驚いていたのはアレンとリオンさん──元パーティーメンバーだけである。
「相変わらずルシフェルの魔法は迫力がすげえな」
「というか、前より威力が増してないか? たしか魔方陣をもっと使っていたような……」
リオンさんとアレンが感想を口にする。
やはり以前から使っていた魔法のようだ。
巨大な建物が消滅したのに、普段とさして変わらない。
「「「「「……」」」」」
そんな三人を残りの人たちはなんとも言えない表情で見ていた。
全員が同じ感情を抱いているはずだ。
絶対に逆らわないでおこう、と。
ルシフェルはこの準備のために戦いには参加していませんでした。
ちなみに、これは彼の最大魔法ではありません。
中の上ぐらいでしょうか?
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