4-28 小さな転生貴族の父は悩む
※3月25日に更新しました。
「下がっていなさい、クロネ。お前にはまだ早い」
いきなり現れたクロネにアレンが告げる。
まだ三歳の彼女は戦闘に参加するどころか、この戦場にいること自体がまだ早すぎる。
今回の場合は彼女も誘拐されたから、ここにいるだけだ。
しかし、クロネも言い返す。
「ハクアとアウラをたすけないといけないの。だったら、わたしもたたかう」
「駄目だ。いくらそのドラゴンがいても、お前に危険が及ぶのは見過ごせない」
アレンは全く聞く耳を持たないが、俺も同意見ではある。
おそらくクロネは黒い龍──シュバルがいるので戦闘に参加できると思ったのだろう。
というか、なんであんなに大きくなっているんだ?
さっきまで毛玉だったはずだが……
この世界のドラゴンにはそんな変身能力あるのだろうか?
何の情報もないので生態が謎である。
アウラは暴走し、シュバルは制御できている──もしかすると、精神状態や魔力の使い方などが関係しているのかもしれない。
「でも、アウラのぶれすにたいこうできるのは、このシュバルだけ」
「だが、お前を危険にさらすわけには……」
「わたしはしゅばるがまもってくれるからだいじょうぶ。おとうさんたちはアウラを止めてあげて」
「いや……」
アレンはなかなか頷かない。
解決するためには猫の手も借りたい、だが自身の子供を危険にさらしていいものか、と。
そんなアレンに叱責が飛んでくる。
「アレン、もたもたするな。今はその娘の手を借りた方が良い」
「リオン」
「お前もさっきの相殺を見ただろう。あれならその娘が傷つくことはないはずだ」
「う……」
リオンの指摘にアレンは反論できない。
アレンも認める戦闘のプロであるリオンの言葉──それは大抵正しい。
受け入れるべきだが、アレンの父親の部分が許さない。
アウラが再びブレスの体勢に入る。
「くるぞっ」
「ぐっ」
リオンの言葉にアレンが回避行動をとる。
自分では止められないことが分かったので、即座に行動をとることができた。
だが、俺は魔力の膜を張るだけでそれ以上のことはしなかった。
なぜなら──
「シュバルっ、ぶれす」
『ぐるあっ』
(ブワッ)
シュバルとアウラのブレスが相殺される。
体格は圧倒的不利なはずなのに、なぜかシュバルはブレスを相殺できている。
しかも、消耗度合いは明らかにアウラの方が上である。
これは一体どういうことだ?
「もしかして……」
俺はあることに気が付き、それぞれの魔力の流れを視てみる。
アウラの方は明らかに魔力が少なくなっていた。
暴走で消耗するのが激しいのだろうが、これはまずいかもしれない。
このままアウラが暴走した状態で魔力を無くせば、命を落とすことになりかねない。
「父さんっ!」
「なんだっ?」
俺はアレンに呼びかける。
「ブレスの防御だけでもクロネたちに任せよう」
「何を言っている。クロネを危険にさらすわけには……」
「このままじゃ、アウラがまずい」
「なんだと?」
俺の言葉にアレンの表情が変わる。
状況が深刻であることを察したのだろう。
「アウラの魔力がだいぶ消耗している。なくなったら、どうなるかわからない」
「……わかった。防御だけならクロネに任せよう。だが、それでは解決にはならないぞ」
ようやくアレンもクロネの参加を受け入れた。
だが、アレンの言っていることももっともだ。
こちらがやられる可能性が低くなっただけで、制限時間が無くなったわけではない。
むしろシュバルが現れたことでアウラがより暴走しており、制限時間がより短くなった。
だがこれはチャンスかもしれない。
「父さん、リオンさん」
「「なんだ?」」
「どこでもいいから、アウラに傷をつけてくれ」
「「?」」
俺の指示に二人は首を傾げる。
これだけで理解できないのは仕方がないだろうが、今はそれを説明している時間はない。
正直この作戦は賭けで、俺の命も危ない可能性がある。
しかし、今は手段がどうとは言っていられない。
「とりあえず、傷をつけてくれたらいいから。死なない程度に」
「あ、ああ……わかった」
「手加減はあんまり得意じゃないが、頑張るわ」
俺の指示に戸惑いながらも、二人はアウラに立ち向かった。
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