4-26 小さな転生貴族は伝説の存在に出会う
※3月23日に更新しました。
「あれってドラゴンじゃねえのか?」
「そうだろうな」
目の前に現れた化け物を見て、リオンさんとアレンがそんな会話をしている。
その言葉に俺は驚く。
「あれがドラゴンなの?」
「ああ、そうだ。まあ、俺たちも直接見るのは初めてだ」
「なんせ伝説の存在だからな。前に現れたのも俺たちが生まれるより何十年も前のはず」
「それぐらい珍しいんだね」
二人の説明に俺も思い出した。
この世界にはいくつかの伝説の生き物が存在し、その一種がドラゴンである。
とても強力な魔物であり、過去に現れたときは一晩で大都市が消滅したそうだ。
といっても、物語のため本当の話かわからなかったし、挿絵も入っていたが見たことがない人が書いた想像上の生き物だった。
実物とは全然違う。
「まさかあの毛玉がドラゴンになるとはな」
「こっちの毛玉もドラゴンなんじゃ……」
リオンさんとアレンが慌ててクロネの方に視線を向ける。
「きゅるぅ」
「だいじょうぶ。わたしがまもってあげる」
怯えた様子の黒い毛玉とそれを必死に守ろうとしているクロネの姿があった。
その光景を見ているだけでなごんでしまう。
ドラゴンが現れた危機的状況なので、なごんでいる時間などないが……
「はははっ、まさか伝説の聖獣──【聖光龍】をこの目で見られるとは思わなかった」
「むっ!」
この状況を一人喜んでいるのがガフ伯爵だ。
どうやら白い毛玉は【聖光教】にとっては象徴となる存在だったらしい。
まあ、【聖属性】の適性を持っているだけでハクアを【聖女】にしようとしたのだから、当然かもしれないが……
ガフ伯爵は不用意にドラゴンに近づいていく。
「まさか聖獣様とは……しかも、覚醒したのであれば、都合がいい」
「おい、あぶな……」
「聖獣様、我らをお助けください。あの忌々しき異教徒どもに制裁を──(ドゴッ)っ!」
横薙ぎに振るわれた腕がガフ伯爵を吹き飛ばす。
石の壁を何枚も貫通していったようで、遠くまで破壊音が聞こえてくる。
何というパワーだろうか。
俺は目の前の出来事に恐怖を感じてしまう。
『グルアアアアアアアアアアアアアアアッ』
(ブワッ)
アウラは雄叫びを上げる。
その様子は明らかに正常ではなかった。
一言でいうならば、「暴走している」だろうか?
アウラの魔力の流れがおかしいということに俺は気付いた。
普通なら体内に魔力の潤滑な流れと魔法を使用する際の魔力の塊がある。
しかし、アウラの中では明らかに異常なスピードの魔力の流れがあり、明らかに体に負荷をかけてしまっている。
このままでは確実に自滅する、簡単に想像がつく。
(ガシッ)
「きゃっ」
「「「っ!?」」」
いきなりアウラの大きな手で掴まれ、ハクアが悲鳴を上げる。
アウラの突然の行動に全員が驚く。
(ボウッ)
ハクアの周りを覆う尾白い球体が現れた。
一瞬、何が起こったのかがわからなかったが、すぐにその行動の意図が分かった。
あれはハクアを守るためだ。
おそらくアウラは暴走している状態でもハクアを守らなければいけないことを本能で理解している。
だからこそ、このような行動をとったわけだ。
アウラは白い球体を自身の懐に抱え込む。
これで俺たちはうかつに攻撃をできなくなった。
そんなアウラの行動を見て安心したのか、アレンとリオンが会話を始める。
「まさかドラゴンと戦うことになるとは思わなかったな」
「今度は【龍殺し(ドラゴンスレイヤー)】の称号がもらえるな」
「良くないよ。どれだけ恥ずかしいと思っているんだ。というか、それだったらリオンもだろ」
「俺は返上させてもらうよ」
アレンとリオンさんはドラゴンと戦うことを楽しみにしているようだった。
現れたときには都市を破壊し、どれだけ強い冒険者でも戦うことは止めるべきだと言われている生物だ。
そんな化け物と戦う機会があるのならば、この二人ならば嬉々として戦うだろう。
しかし、そんな状態の二人と俺に話しかける者がいた。
「グレインおにいちゃんっ」
「ん? クロネ? 今、「おにいちゃん」って……」
クロネだった。
彼女はシュバルを抱えた状態で真剣な表情を浮かべ、俺に話しかけてきた。
嫌われていると思っていた彼女から「おにいちゃん」と呼ばれたことで、俺は思わず舞い上がりそうになったが……
「いまはそんなことかんけいないでしょ」
「あ、はい」
真剣な口調で怒られたので、仕方なく引き下がる。
まあ、あとで喜べばいいだろう。
さて、どうして彼女は話しかけてきたのだろうか?
「シュバルがあのじょうたいはかなりまずい、って」
「まずい、だと? もしかして、魔力の異常な流れで体に負荷がかかっていることか?」
彼女の言葉に俺は先程感じたことを告げる。
肯定するようにクロネは頷く。
「うん、そうみたい。ほんとうはせいちょうしてからあんなふうにおおきくなるみたいなんだけど」
「というか、なんで大きくなったんだ?」
「……ハクアのまりょくをとりこんだからだって」
「? それだけで大きくなるのか?」
「あと、いかりのきもちみたい」
「怒りの気持ち?」
彼女の説明に首を傾げる。
怒りの気持ちだけでパワーアップができるのだろうか?
「ハクアがさっきけがをしたことで、そのちがアウラにかかったの。それでまりょくをとりこめて、だいじなハクアがきずつけられたことでおこってぼうそうしているの」
「……なるほどな」
「でも、このじょうたいはそうながくつづかないんだって。すぐにアウラはいのちをおとすみたいなの」
「……だろうな」
クロネの──いや、シュバルの説明に俺は納得する。
おそらくシュバルは同じ種族ということでアウラのことをよく知っているのだろう。
なら、対策法も知っているはずだ。
「それで、どうすればいいのかわかっているのか?」
「うん……あのぼうだいなまりょくをどうにかしてとりのぞけばいいんだって」
「取り除く、か……」
なかなか無茶を言ってくれる。
たしかに膨大な魔力が異常な流れで循環しているのならば、その魔力を取り除くことで体から負担を取り除くことができる。
しかし、現在のアウラの状態は【暴走状態】──つまり、近づくことすら難しいのだ。
下手をすれば、先ほどのガフ伯爵の様に吹き飛ばされるのがおちだ。
先ほどのシュバルの言葉から彼らはまだ体が大きくなる前──つまり、幼体の状態であるため、成体ほど強くはないのだろうが、普通の魔物よりは強い事が想定される。
「……むり、かな?」
「きゅるぅ」
「……」
クロネとシュバルが心配そうな目でこちらを見てくる。
そんな目で見ないで欲しい。
兄としての威厳を見せたくなってしまうではないか……
「父さん、リオンさん。ちょっといいかな?」
「「ん、なんだ?」」
俺が話しかけると、二人が同時にこちらを向く。
二人は早くあのドラゴンと戦いたいのだろう、とてもうずうずとした表情だった。
そんな二人に俺は説明する。
「あのドラゴンの暴走を止めようと思うんだけど、手伝ってくれる?」
「「なに?」」
俺の言葉に二人は怪訝そうな表情を浮かべた。
果たして、この作戦は成功するだろうか?
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