4-25 小さな転生貴族は化け物に驚く
※3月22日に更新しました。
「貴様ら、何をしておるっ!」
ガフ伯爵が怒りの声を上げる。
まさか教団の人間──しかも、聖騎士が裏切るとは思ってなかったのだろう。
焦っているようようだ。
「私に取り立ててもらった恩を忘れたか、ヴァン」
矛先がヴァンに向く。
しかし、ヴァンは呆れたような表情になる。
「自分の権力を得るために聖騎士になれる人間を探していただけでしょう? 俺とあんたは利害が一致しただけ、忘れる恩もねえよ」
「私が取り立てなければ、貴様は屑として一生終えていたんだぞ。私に見つけてもらったことは一生感謝すべきだろう」
ガフ伯爵は睨み付ける。
しかし、ヴァンはどこ吹く風とばかりに気にしていない。
伯爵はさらに苛立つ。
これは自業自得だろう。
権力を得たいが為に他者を蹴落とし、奪い、私腹を肥やしてきたのだ。
そんな人間が信頼されるはずがない。
「ガフ伯爵」
「っ⁉」
アレンが話しかけると、ガフ伯爵が驚いて尻餅をつく。
静かな声であったが、かなりの迫力があった。
「あなたの部下たちはもう戦う気力はないです。降参すべきでは?」
「ぐ……」
アレンの提案にガフ伯爵は悔しげに声を漏らす。
権力至上主義の彼のことだ、男爵のアレンに上から言われることが嫌なのだろう。
だが、ガフ伯爵はこの場で明らかな敗北者である。
提案を受けざるを得ないはずだ。
しかし、ガフ伯爵は予想外の行動を取った。
「こっちに来いっ!」
「きゃっ」
「「「「「っ⁉」」」」」
ガフ伯爵はハクアの腕を掴み、思いっきり引っ張る。
そして、近くに落ちていたナイフを首に突きつける。
「動くなよ。【聖女】を渡してもらおう」
この期に及んで、ガフ伯爵は強気な提案をする。
ハクアを人質に取れば、俺たちを強請れると思ったのだろう。
その考えは間違いではない。
「く……」
「たかが男爵ごときが私に逆らうのが悪いのだ。素直に【聖女】を渡しておけば、取り立ててやったものを」
悔しげなアレンの表情にガフ伯爵は勝ち誇ったように笑う。
自分の勝利を確信しているのだろう。
「離してっ!」
「ハクアっ⁉」
いきなりハクアが暴れ始める。
人質にされた状況なら、恐怖で思わぬ行動をとってしまう。
仕方がないことかもしれない。
だが、その結果は悪い方に転がる。
「うるさいっ!」
「きゃっ」
暴れるハクアをガフ伯爵はナイフを持った手で殴った。
思わず俺たちは反応したが、クロネを掴んだ手はそのままのせいで動けなかった。
(ポトッ)
「きゅ」
ハクアの顔から血が流れ、抱きかかえていたアウラにかかる。
ナイフで斬られてしまったのだろう。
アウラは何が起こったかわからない表情だったが、ハクアを見て表情が変わる。
(ドクンッ)
「「「「「っ⁉」」」」」
とんでもない威圧感に俺たちは構える。
俺たちの反応にガフ伯爵は理解できないようだが、もちろん彼に対して警戒しているのではない。
『グルアアアアアアアアアアアアアアアッ』
「「「「「なっ!?」」」」」
突然、巨大な化け物が現れた。
白い鱗に二本の角、全長10メートルほどの大きさで──まるでドラゴンのような容貌の生き物だった。
俺はこの生き物を図鑑でも見たことがない。
「ハクアっ! アウラっ!」
「きゅるっ!」
クロネとシュバルが心配そうに叫んだ。
どうやらあの化け物はハクアが抱きかかえていた毛玉──アウラのようだ。
まさかあんな秘密があるなんて……
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