4-23 小さな転生貴族は聖騎士に問う
※3月21日に更新しました。
「【アクアボール】」
(バシャッ)
「「「「「えっ⁉」」」」」
俺のいきなりの行動にその場にいた全員が──正確に言うと、敵側が驚いていた。
水の塊をヴァンにぶつけたからだ。
当然、彼の体を覆っていた炎は消えてしまう。
「おい……何のつもりだ?」
息も絶え絶えにヴァンは俺に問いかける。
情けを掛けられたことに屈辱を感じたのだろうか?
「熱いでしょうから、消したまでですよ」
「ふざけるな」
俺の答えに満足がいかなかったのか、ヴァンが怒鳴ってくる。
流石に冗談は通じないか。
仕方なく、俺は理由を説明する。
「リュコに人殺しをさせるわけにはいかないですから」
「……それで敵に情けを掛けるのか?」
「あなたも同じでしょう?」
ヴァンの問いかけに俺は同じように聞き返す。
戦っているときからわかっていた。
おそらくリュコも察していただろう。
「手加減していましたよね? 僕たちが死なないように」
「……」
ヴァンは答えない。
俺の指摘は間違っていないのだろう。
「まずは無数の風の刃。見えないので避けづらい、非常に恐ろしい魔法です。ですが、威力をあそこまで抑える必要があったでしょうか? 魔力感知を避けるためかと思っていましたが、それにしては弱すぎる」
「それで十分だと思っていたんだよ」
ヴァンは反論する。
たしかに、その可能性は否定できない。
「次に風のヴェール。魔法の軌道を変えるために使っていたみたいですが、あなたの技量ならもっとできたでしょう? 例えば、軌道を変えつつ威力を上げ、僕に向けて放つぐらい」
「買いかぶりだ」
まだ頷かない。
たしかにこれはあくまで俺の推測だ。
これだけで納得させるのは難しい。
「最後に刀身から伸びる見えない刃。避けたと思ったら、見えない刀身で斬られるわけですが……明らかに短くしたでしょう? リュコが服を斬られる程度で済むように」
「……」
ヴァンは再び黙ってしまう。
最初から明らかにおかしかった。
アレンたちの見立てでは、ヴァンは最低でもBランク上位の冒険者程度の実力はあるはずだ。
俺とリュコより格上ではあるが、勝てる可能性があるからアレンたちも戦わせてくれたのだ。
しかし、ほぼ無傷で勝つことなどありえなかったはずだ。
つまり、ヴァンは手加減していた可能性が高い。
「時間稼ぎをしていたんですか?」
「なっ」
俺の言葉にヴァンは明らかに動揺した。
これは認めたようなものだ。
「そもそも最初に現れたこと自体がおかしいんですよ。あなたほどの実力者が父さんとリオンさんを見て、素直に現れるはずがないです。普通なら逃げるでしょう」
「聖光教が異教徒を恐れ、逃げ出すわけが……」
「だとしても、おかしいんですよ。誘拐もするような人間がこの二人を相手に真っ正面から挑むことはありえない。最低限、何か罠をしかけるべきです」
「……」
「僕たちとの戦いもだ。あなたならば、僕たちをすぐにでも倒すことができたのにしなかった。手加減をしていても、わざわざ嬲るような戦い方をする必要はなかったはずです」
「どうして俺が時間稼ぎをする必要があるんだ?」
俺の説明を聞いたヴァンが聞き返してくる。
ここまでの話はあくまで状況証拠である。
彼の行動の理由ではない。
だが、とある情報から一つ推測できることがある。
「お仲間を逃がすため、ですね」
「っ⁉」
ヴァンの顔色が変わる。
どうやら正解のようだ。
「シリウス兄さんの話では、それなりの人数に囲まれたそうです。しかし、大人数で移動すれば、村の人たちに怪しまれる可能性がある。そのため隠密に行動する必要があります」
「……」
「そんな行動を慣れない相手とできるはずがない。つまり、あなたには一緒に隠密行動できる仲間がいるはずです」
「だからどうした?」
ヴァンはあくまで白を切るようだ。
ならば、はっきりと言うまでだ。
「その仲間はこの場にいないようですね。あなたが敗北したのに、この場にいる誰も寄ってこようとしない」
「……これがカルヴァドス男爵家の跡継ぎとは末恐ろしいな」
「褒め言葉として受け取りますが、俺は継ぐつもりはないですよ。継ぐのはあなたが気絶させたシリウスです」
「絶対君の方が良いと思うが……姉に爵位を継がせるのか?」
「言っておきますけど、シリウスは兄ですよ?」
「……信じられん」
ヴァンが本気で驚いた顔をしていた。
その気持ちはとても理解できる。
年々綺麗になっていくシリウスを見ると、本当に兄なのか疑ってしまう。
それを言うと、とても悲しそうな顔をするが……
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