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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
83/618

4-19 小さな転生貴族は聖騎士の存在を知る

※3月19日に追加しました。

 次の話を更新するまで数字がずれます。


 頭をかきながら、一人の男が現れた。

 年齢は20代前半ぐらいか、ボサボサの緑髪が特徴の青年だった。

 そんな彼の後ろには部下らしき集団がいた。


「っ⁉」


 見た目だけならおかしくはないが、俺は警戒してしまう。

 彼の目から光が感じられない。

 何か深い闇を抱えている、そんな風に思ってしまった。


「おお、聖騎士殿。あなたが来てくれれば、百人力だ」


 青年の登場にガフ伯爵が喜びの声を上げる。

 【聖騎士】という言葉は聞いたことがある。

 聖光教の教団で実力を認められた者が就くことのできる役職のはずだ。

 神を信じる宗教だからといって、すべての人間が信じるわけではない。

 当然信じない人もおり、そういった相手と戦うことだってある。

 そういった相手と戦うために体術や魔法の技術を高めることを推奨しているが、一部の認められた者には役職が与えられるのだ。

 つまり、この青年は聖光教の中でもエリートなわけだ。


「えっと……」


 ガフ伯爵の言葉に青年は周囲を見渡す。

 壁にたたきつけられた仲間たちを見て、俺たちを見る。

 地面に倒れている仲間たちを見て、俺たちを見る。


「これは俺でも無理だな」

「なっ、何を言って……」


 青年の言葉にガフ伯爵が狼狽する。

 てっきりこの状況を打破してくれるはずが、まさか諦めの言葉が出るとはおもわなかったようだ。

 ガフ伯爵の気持ちもわからないではないが、青年の気持ちも理解できる。

 それなりに実力があるからこそ、アレンとの差を理解したわけだ。

 絶対に勝てない、と。


「あぁ、カルヴァドス男爵家のみなさん?」

「なんだ?」


 青年の問いかけにアレンは答える。

 もちろん、警戒は解いていない。


「ここで俺が降参したら、引いて貰えるかな?」


 青年は提案してくる。

 この状況で何を言っているのかと思ったが、少しでも生き残るためにはそういう選択も必要なのかもしれない。

 無茶だと思っても、やってみたわけだ。


「無理だ」

「あ、やっぱり?」


 あっさりと断られても、青年は気落ちした様子はなかった。

 流石に無理だとわかっていたようだ。


「戯言はそれだけか? なら、さっさと……」

「旦那様、よろしいでしょうか?」


 青年に狙いを定めたアレンの言葉をリュコが遮る。

 普段の彼女からは考えられない行動である。


「なんだ?」

「あの男と戦わせていただけますか?」

「なに?」


 リュコの頼みにアレンが驚く。

 俺とリオンさんも同じような反応をする。

 リュコがそんな頼みをするとは思っていなかったからだ。


「どうしてだ?」

「あの男、おそらくハクア様とクロネ様を誘拐した現場にいたはずです」

「本当か?」


 リュコから告げられた内容にアレンは興味を示す。

 しかし、彼女は俺同様誘拐の現場にいなかったはずだ。

 それなのに、どうしてわかるのだろうか?


「あの男からシルフィさんの血の匂いがします」

「つまり、シルフィアに怪我を負わせた張本人ということか?」

「ええ、そうです」


 リュコは真剣な表情で頷く。

 獣人の部分が血の匂いを判別したのだろう。


「シルフィアがやられた仕返しをしたいわけか?」

「否定はしません」


 アレンの質問にリュコは素直に答える。

 彼女も身内には優しい。

 同僚のシルフィアが傷つけられたことに憤りを感じているのだろう。

 だからこそ、無理を承知でアレンに直訴したわけだ。


「「……」」


 アレンとリュコが見つめ合う。

 数秒後、アレンがため息をはく。


「はぁ……わかった。リュコに任せる」

「ありがとうございます」


 リュコの頼みが通った。

 しかし、ただ通ったわけではなかった。


「だが、グレインと一緒に戦いなさい」

「え?」


 突然の指名に俺は驚く。

 なぜここで俺の名前が?


「俺の見立てでは、あの男はBランク冒険者──下手したら、上位に位置するだろう。当然、今のリュコじゃ相手にならない」

「そんなに強いの?」


 アレンの説明に俺は驚く。

 たしかに青年が強いことはわかったが、まさかそこまでとは思っていなかった。

 Bランク上位の冒険者はリュコどころか俺も一人じゃ勝てないはずだ。

 大人たちの見立てでは俺もリュコもCランク冒険者程度の実力しかないらしい。


「それでも戦うのか?」

「はい」


 再度の確認にリュコは引かなかった。

 格上だろうが関係ない、ということだろう。


「グレインもいいか?」

「うん」


 俺もすぐに頷く。

 リュコがやる気なのに、俺が逃げるわけにはいかない。


「なら、行ってこい」


 覚悟を見届け、アレンは俺たちを送り出した。








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