4-18 小さな転生貴族は出番がない
※3月19日に更新しました。
※アレンの技に名前をつけました。
「【フルスイング】」
アレンが大剣を横に薙ぐ。
「「「ぎゃっ」」」
斬撃に巻き込まれた三人は吹き飛ばされ、激しく壁にぶつかって倒れた。
致命傷ではないようだが、この戦闘に復帰することは難しいだろう。
ブチギレだと思っていたが、流石に手加減はできているようだ。
どんな悪党でも殺すのはよくないと思う理性が残っているようで、俺は少し安心する。
「今のうちだ。大きな攻撃の後は隙ができるはずだ」
「「「「「はっ」」」」」
だが、教団側もただただやられているわけではない。
アレンが大きな攻撃を放ったとみると、すぐにその隙を突いて反撃をしようとする。
状況をきちんと把握できているので、それなりに戦闘を経験してきた人物なのかもしれない。
てっきり神を信じるだけのなよなよした集団だと思っていたのだが、意外と武闘派な人間もいるようだ。
しかし、少し見通しが甘かったようだ。
「【グリップショット】」
(ドスッ)
「がふっ!?」
アレンは背後から近づいてきた教団員の鳩尾に大剣の柄をめり込ませる。
教団員は「く」の字に体を曲げ、前のめりで地面に倒れてしまう。
「なっ!? なぜ動けるっ!?」
先ほど指示を出した人物はアレンの動きに驚いていた。
隙があったので攻撃したのに反撃をされてしまったのだ。
普通ならあり得ないだろう。
だが、このアレン=カルヴァドスにはそういう常識は一切通用しない。
こと戦闘という一点においては他の追随を許さない──というのは言い過ぎかもしれないが、その辺の人間など束になっても勝てない。
あらゆる手段を揃えたとしても、俺が勝つにために両手の指では数えられない人数が必要だろう。
そのアレンと同格であるルシフェルさんとリオンさんもまた化け物なわけだが……
「「「「はあっ!」」」」
一人はやられたが、残りが再びアレンに襲い掛かる。
今度はタイミングよく、全員が別方向から襲い掛かる。
一方向、二方向の攻撃を止めたとしても、それ以外の方向から攻撃を受けることになる。
近接戦闘において、相手に攻撃を加える手段として有用な方法の一つだ。
こういう状況では攻撃を止めたり、反撃をしようとするのは悪手だ。
人間というのは全方向に対応できないので、こういうときは回避するべきだ。
といっても、それはあくまで一般的な人間の話だが……
「お前たち、やめろっ!」
先ほど指示を出した男が部下たちに再び指示を出す。
だが、すでに攻撃をしようとしていた教団員たちは動きを止められなかった。
部下を守るために指示を出すのは上司として当然の行動だが、今度はあまりいい手段とは言えなかった。
まあ、どちらにしろ結果は変わらなかっただろうが……
「【スピニング】」
(ブウウウンッ)
「「「「ぐあっ!?」」」」
アレンが回転斬りで教団員たちを吹き飛ばす。
先ほどと同じように吹き飛ばされて壁にぶつかった者もいれば、ギリギリのところで着地した者もいる。
痛みと衝撃で起き上がることは難しそうだが……
「お前たちっ、何をしているんだ! 早くこいつらを始末しろっ!」
教団員たちの情けない姿にガフ伯爵が叫ぶ。
たった一人を相手にボコボコにされているのだ。
身内としては恥さらし以外の何者でもないだろう。
だが、少しぐらいは状況を察するべきだろう。
実力差があるのは明白で、それをわかっていれば逃げるという選択肢をとるはずだ。
「ですが、シャンディ殿……このレベルは相手になりません。すぐにでも撤退を……」
指揮官は俺たちの実力をすでにわかっており、ガフ伯爵に要請する。
あれほどの力を見せつければ、当然の反応だろう。
これでもまだ戦おうとするのならば、自身の実力を高めたいと思っているか、相手との実力差を測れない馬鹿のどちらかだろう。
ガフ伯爵はもちろん後者である。
「侵入者にここまでされて、おめおめと逃げられるかっ!」
「で、ですが……」
「逃げるのなら勝手に逃げろ。そのかわり、もうお前の居場所はここにはないと思え」
「っ!?」
ガフ伯爵の脅しに男は体を硬直させる。
先ほどから思っていたが、この男はかなり性格が悪い。
自分の権力が一番高い事を笠にきて、下の者たちをいびっているわけだ。
正直、前世で社畜だったころを思い出してしまい、かなりむかついてしまう。
こういう上司がいた。
こっちも仕事が一杯でこれ以上できないのに、さらに仕事をさせてくる。
断ろうとするものなら「出世できない」と脅しをかけてくるのだ。
完全にパワハラである。
指揮官の男性がかわいそうに感じた。
「もうお前には期待しない。お前たち、遠距離から攻撃しろっ。こいつは大剣しか持っていないのだから、遠距離からの攻撃に弱いはずだ」
「「「「「はっ」」」」」
ガフ伯爵の指示にローブを着た集団が返事をする。
魔法部隊だろうか、全員がそれなりの魔力を有しているようだs。
数十人が一気に魔力を操作し、それぞれの呪文を唱えながら魔法を放とうとしている姿など壮観である。
あらゆる属性の魔法がアレンに──いや、俺たちすらも巻き込む範囲で打ち込まれる。
威力的には中級に近い初級といったところだろうか、生身なら命を落とす可能性がある。
まあ、たかがその程度の威力、とも言えるが……
「ふんっ」
「「「「「なっ!?」」」」」
魔法を放った者たちとガフ伯爵が驚きの表情を浮かべる。
近接戦闘しかできなさそうなアレンが大剣を振るっただけで魔法をたたき落としたのだ。
あり得ない光景である。
「おいおい、俺の出番がねえじゃねえか……」
「たしかにそうですね。これじゃ、父さんだけで十分だ」
リオンさんと俺は思わずそんな感想を漏らしてしまう。
少しは想像していたことが、まさか本当に必要にならないとは……
そんな感想は聞こえていないのか、アレンは大剣を肩にのせて告げる。
「これで終わりか?」
アレンが問いかける。
その言葉に相手の戦意が削がれると思ったが……
「うるさいと思ったら、とんでもないことになってるじゃん」
緊張感のない声が聞こえてきた。
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