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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
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4-14 小さな転生貴族の父は真面目な話をする

※3月18日に更新しました。


「グレイン、何を言ってるかわかっているのか?」


 アレンが真剣な表情で聞いてくる。

 俺の言葉の真意を聞きたい、そんな気持ちで一杯なのだろう。


「それぐらい分かってるよ。頭は良い方だしね」

「そういうことを言っているんじゃないことはわかっているだろう?」

「そうだね」


 冗談めかした俺の言葉にアレンが少し怒ったように聞いてきた。

 真剣な話なので、冗談はこの辺りで終わろう。


「これは訓練とも、魔物との戦いとも違う──生きた人間を相手にするということだ。遊び感覚で来るつもりなら、絶対に連れていくつもりはない」


 アレンの言葉には重みがあった。

 人と魔物、両方と戦ったことがあるからこそ、その違いを理解しているのだろう。


「それぐらい覚悟の上だよ」


 その上で僕ははっきりと答えた。

 普通の人なら魔物相手に戦うことができても、人相手に躊躇することもあるだろう。

 自分と似たような姿の生物を目の前にし、攻撃することができなくなる。

 自分と同じように生きており、命を奪ってしまうかもしれない可能性もある。

 そういう考えは否定しないが、俺にも理由はある。


「大事な妹を誘拐されたんだよ? 躊躇うどころか、手加減することすらできないと思うよ」


 俺は笑みを浮かべつつも内心は怒りで燃え上がっていた。


「……なるほど。お前の覚悟はわかった」


 アレンが納得してくれる。

 リオンさんとルシフェルさんも俺の答えに少し驚いたようだが、否定するつもりはないようだ。


「それじゃあ……」

「ああ、ついてこい。その代わりにきちんと俺の指示に従うこと」

「わかったよ」


 アレンは許可を出した。

 これで俺もハクアとクロネの救出作戦に参加できる。


「……本当に7歳の子供か? ベテランの冒険者並みの殺気を感じたんだが?」

「少し娘の婚約者として心配になってくるレベルですね? いえ、いい子なのはわかっているのですが……」


 リオンさんとルシフェルさんがコソコソと何か話している。

 小さな声なので聞こえないが、今はそんなことを気にしなくていいだろう。


「旦那様」

「グレイン様」

「「ん?」」


 アレンと俺に誰かが話しかける。

 振り向くとそこには……


「シルフィア?」

「リュコ?」


 シルフィアとリュコの二人がいた。

二人は真剣な表情で口を開く。


「私もその作戦に参加させてください。ハクア様とクロネ様を助けたいんです」

「私はグレイン様が行くのであれば、どこでもついていくつもりです。命を賭しても守るのがメイドの務めですから」


 二人がここに来た理由はわかった。

 彼女たちなら、そう思うのは当然だろう。


「リュコは良いが、シルフィアは駄目だ」

「なっ、どうして……」


 しかし、アレンはシルフィアの同行を拒否した。

 自分だけ断られたことにしルフィアは驚きを隠せない。


「今のシルフィアは力不足だ。誘拐犯がどれほどの実力かはわからないが、確実に君より強いだろう」

「う……」


 シルフィアは否定できない。

 いくら囲まれていたとはいえ、むざむざやられたのは事実だ。

 同行してもただの足手まといになりかねない。


「ですが、それならリュコも……」


 少しして、シルフィアは反論しようとする。

 力不足であることは理解したが、それならリュコも同様に断られるべきだと思ったのだろう。

 シルフィアとリュコの実力差はそこまで大きくない。

 訓練では状況次第でどちらが勝つこともあり得る。


「理由はもう一つある」

(トンッ)

「痛っ⁉」


 机の上にあった角砂糖をアレンがはじいた。

 シルフィアの腹部に直撃し、苦悶の表情でその場にうずくまる。

 もちろん、角砂糖にそんな威力があるわけじゃない。


「傷は治したとはいえ、大怪我をしていたのは事実だ。そんな状態で戦いに参加できるはずがない。むしろ、ここまで来るだけで限界だろう?」

「うぐ……ですが……」


 アレンの指摘にシルフィアは反論しようとする。

 だが、痛みのせいで言葉が出ない。


「ハクアとクロネが誘拐されたことを後悔しているのはわかるが、君のせいじゃない。今は二人が帰ってきたときに万全の状態で迎えられるにようにしなさい」

「……はい、わかりました」


 これ以上わがままを言っても無駄だとわかったのか、シルフィアは諦めたようだ。

 ここが落とし所だろう。


「二人が好きな料理を準備しておいて。こんな状況じゃ、食事も喉を通らないだろうしね」


 俺はシルフィアに仕事を与える。

 ただただ俺たちを待っているだけでは時間がとても長く感じるだろう。

 ならば、少しでも気が紛れるように何か作業をさせれば良い。

 体に負担がかからない程度に……


「そうですね」


 俺の意図に気付いたのか、シルフィアは安心したように笑みを浮かべる。

 そして、一礼をして部屋から出て行った。


「では、いこうか」

「「「おう」」」

「はい」


 アレンのかけ声に全員が答えた。

 二人の奪還作戦の開始だ。







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