4-13 小さな転生貴族は盗み聞く
※3月18日に更新しました。
クリスとエリザベスが出発したのは、それから一時間後のことあった。
いくら急を要するとはいえ、女性には準備が大事なようだ。
といっても、馬車で片道1ヶ月近い旅路を往復でわずか1週間もかからない速度で行こうとしているので、かなり早いのではないだろうか?
「よし、お前たち」
二人を見送ると、アレンが子供たちに向かって話しかける。
その中には俺も入っているわけだが……
「もう寝る時間だ。早く寝なさい」
「「えっ!?」」
アレンの指示にシリウスとアリスが驚いた。
この状況でそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
「どうしてよ。ハクアとクロネが誘拐されているのに、寝られるわけないわ」
「そうだよ。二人が怖い思いをしているのに、僕たちだけ呑気にしていられないよ」
二人の言い分はわからないでもない。
兄姉として妹たちのことを真剣に心配しているのだろう。
それは俺だって同じだ。
だが、アレンが言いたいのはそういうことじゃない。
「心配な気持ちはわかるが、もう俺たちにできることはない。今はバランタイン伯爵が来るのを待たなければいけない」
「「……」」
「これからは長丁場になる。ずっと起きていることなんて不可能なんだから、寝られるときに寝ておけ」
「「は、はい……」」
アレンに論破され、二人はうなだれながら返事をする。
言っていることはもっともだが、俺はアレンが相手を論破した姿に疑問を感じてしまう。
これも普段の彼からは想像できない。
「ティリスももう寝ろ」
「わかった」
「レヴィアもですよ」
「……うん」
ティリスとレヴィアもそれぞれの父親から指示される。
彼女たちはしっかりと状況を理解し、もう自分たちには何もできないとわかっていたようだ。
「よし、じゃあ子供たちは自分の部屋に戻りなさい」
「「「「「はい」」」」」
アレンの指示に全員が部屋から出ていった。
それぞれの部屋に向かう際、子供たちは言葉を発することはなかった。
やはりそれだけ心が消耗してしまっているようで、少し休んだ方が良いだろう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「サーラ、子供たちのことを頼むな。それとリオナ嬢とリリム嬢もお願いします」
「はい、かしこまりました」
「了解よ」
「わかりました」
アレンの言葉に三人が頷く。
彼女たちも頼まれると思っていたので、すぐに返事をした。
「それで、これからどうするんだ?」
「アレンだったら、このまま指をくわえて待っているつもりはないんでしょう?」
リオンとルシフェルがアレンに話しかける。
先ほどからずっと疑問に思っていなかったが、子供たちの手前聞くことはしなかった。
だが、今は自分たちだけなので、遠慮なく聞こうとしたのだ。
「先ほどからお前らしくないぞ」という意味あいを込めて……
「ああ、もちろんだ。バランタイン伯爵を待つのは時間がかかりすぎる。それだったら、こっちで動いた方が良いはずだ」
「まあ、そうだろうな。普通に考えれば、間に合うはずがないからな」
「信頼していないわけじゃない。むしろ、俺なんかよりもよっぽどうまく事を運ぶことできるとは思っている。だが、流石に状況が悪い」
「なら、どうするんだ? 俺たちで解決しようにも、子供たちの居場所の見当はつかないぞ?」
アレンの意気込みには納得しつつも、リオンが至極まっとうなことを聞く。
現在、ハクアとクロネが誘拐された場所の詳細はわからない。
ガフ伯爵の領地にいるのか、はたまた聖光教の施設にいるのかがわからない。
この状況で二人を探すのは難しいだろう。
だが、そんな状況でも解決の策は見つかるのだ。
「それなら大丈夫ですよ」
「「ルシフェル?」」
ルシフェルの言葉に二人が少し驚いたような反応をする。
そんな二人の様子を見て、ルシフェルは説明を続ける。
「二人には私の魔力を少量つけておきました。これならば、世界のどこにいようと大体の場所は分かります。といっても、魔力の流れを阻害する場所は難しいですが……現在は領地の境目あたりに感じますね」
「おいおい、そんなことができるのか? というか、なんでそんなことをしたんだ?」
「もちろん、二人にこのような危険が迫ることはわかっていましたからね。事前に策を練っておくのは当然でしょう」
「……たしかにそうだが、俺は何もできていないぞ?」
「リオンは仕方がないでしょう。ただの戦闘狂なんですから、この状況で出来ることは何もないですよ」
「まあ、それもそうか」
ルシフェルの言葉は明らかに馬鹿にしたような内容だが、言われた当人が認めているので問題はないか。
要は適材適所というわけだ。
「よし、とっとと向かうとするか。二人に危害が加わる前に片を付けたい」
「ああ、そうだな」
「急がないといけませんね」
アレンの言葉にリオンとルシフェルが好戦的な表情で反応する。
これは久しぶりに暴れまわることができるチャンスなのだ。
この機会を逃すわけにはいかない、そんなことを考えているのだろうか?
「……」
アレンは部屋の扉に近づき、勢いよく開ける。
「……寝るように言ったはずだぞ?」
真剣な表情のアレンは怒ったように告げる。
「僕も連れて行って。やられっ放しは嫌だからね」
今度は逃げることなく、真っ向から答えた。
俺だって引けないときがあるんだ。
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