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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
76/618

4-12 小さな転生貴族は疑問を抱く

※3月18日に更新しました。


「実家って、バランタイン伯爵に頼むの?」

「ええ。伯爵が相手なら、こちらも伝手を使うべき」


 驚くエリザベスの言葉にクリスはあっさり頷く。

 そういえば、彼女は元々伯爵家出身だった。

 今まで関わりがなかったので、その情報すら忘れていたが……


「でも、クリスはあんまり実家に頼りたくなかったんじゃ……」

「……この際だから仕方がない。今は私たちの娘が大変なのよ」

「たしかにそうね」


 クリスに心配げな表情で告げるが、逆に諭されるエリザベス。

 娘のためなのだから、今は手段など考えている場合ではない。

 使えるものは使わないと……


「私とエリザベスが向かう。その方が緊急であることが伝わる」

「? 父さんは連れて行かないの?」


 疑問を感じたので、俺は思わずそんな質問をしてしまう。

 緊急事態であることを伝えるのであれば、父親であるアレンが行った方が良いと思ったからだ。

彼女たちは普通の女性に比べれば身体能力が高いのでかなり早く情報を伝えられるはずだが、彼女たちよりもアレンが一人で行った方が早いのは確実だ。


「「「……」」」

「えっ!? どうしたの?」


 だが、そんな俺の言葉に三人の表情が一気に暗くなる。

 いや、なんで?

 疑問に思う俺にルシフェルが説明をする。


「クリスさんの父親──現バランタイン伯爵はアレンのことが嫌いなんですよ?」

「えっ!?」


 衝撃の事実に俺は驚愕する。

 そんな俺の反応にルシフェルはさらに説明を続ける。


「まあ、自分の娘を奪われたのですから、嫌って当然でしょう? バランタイン伯爵は見た目の怖さとは裏腹に家族に対しては無類の愛情を注ぐことで有名な人物ですから」

「ああ、俺も初めて見たときは驚いたな。獣人ですら可愛く見えるほど怖い見た目の癖に自分の娘や嫁を相手にデレデレとしている姿を見せられると、一気に戦意を失っちまったぜ」

「……そうですか」


 ルシフェルだけでなくリオンの説明を聞き、俺はげんなりしてしまう。

家族を愛することは人として当然の好意であるため、別に批判するつもりはない。

 だが、リオンすら怖いと思う相手が家族を相手にデレデレしている姿というのはあまり見たくはない気がする。


「ちなみにバランタイン伯爵が動けば、問題はかなり大きくなるでしょうね」


 と、ここでルシフェルが少し心配そうにそんなことを言ってくる。

 おそらく彼が言っているのは……


「……伯爵同士のいざこざになるからですか?」

「はい、そういうことです。おそらくこれから向かうのはガフ伯爵の領地──そこでバランタイン伯爵の軍勢が暴れれば大変なことになるでしょう」

「まあ、そうでしょうね」


 伯爵を相手どるにはこちらも伯爵を呼んだ方が良いだろうが、逆に新たな問題が発生する。

 バランタイン伯爵が出ることにより、ガフ伯爵とのいざこざが起こるのもまた事実なのだ。

 会ったことはないのだが、流石に祖父を厄介ごとに巻き込むのは気が引ける。

 元は俺がまいてしまった種なのだから……


「だが、仕方がないだろう。俺たちだけではガフ伯爵に文句を伝えることすら難しい」


 俺たちの会話を聞いて、アレンがそんなことを言う。

 随分聞き分けが良いな。


「「「……」」」


 そんなアレンの様子を疑問に思った俺、リオンさん、ルシフェルさんの三人はじっと見つめる。

 先ほどからどうも彼らしくなかった。

 普段の彼なら、もっと自分で解決させるため動こうとしていると思うのだが……


「なあ、アレン?」


 そんな彼の様子を心配したのだろう、リオンさんが話しかける。


「なんだ?」

「お前、なんか悪いものでも食ったか?」

「いきなりどうした? 別になにも食ってないぞ」


 質問の意図が分からなかったようで、アレンが怪訝そうな表情を浮かべる。

 だが、俺たちからすれば、そんな彼の反応自体がおかしいと思ってしまう。

 普段のアレンらしくない、と。


「じゃあ、私とクリスでバランタイン伯爵の所に行ってくるわ。できる限り早く着かないといけないから、出来る限り人数を減らさないといけないし」

「……できるだけすぐに帰ってくる」


 俺たちがアレンに対して疑問を感じている間に、いろいろと話が進んだようだ。

 しかし、本当に二人で行くのか。

 

「アレン、子供たちの事を任せてもいいかしら?」

「もちろんだ。できるだけ早くバランタイン伯爵を呼んできてくれ」

「ええ、もちろんよ」


 笑顔で答えるエリザベス。

 そんな二人の会話を聞いていると、本当に仲のいい夫婦なんだと思ってしまう。

 お互いのことを心配はしていない、だが信頼はしている──そんな雰囲気を感じる。

 これも一つの夫婦の形だろう。


「……エリザベス、行こう」

「ええ、そうね」


 クリスに促され、エリザベスはその場から歩き出した。

 そして、二人は並んで部屋から出ていった。


「ジルバ、護衛は任せたぞ」

「かしこまりました」


 アレンに命令され、ジルバは一礼した後に二人の後を追った。

 流石に女性二人だけで行かせるわけじゃなかったか。







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