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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
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4-10 小さな転生貴族は状況を整理する

※3月18日に更新しました。


「どうしたのっ!」


 到着した瞬間、状況を整理しようと声を掛ける。

 シリウスはうつ伏せに倒れ、シルフィアは建物に背中を預けて上体を起こしている状態だった。

 意識があるのはシルフィアだけのようで、シリウスは気を失っているみたいだ。


「グレイン様……申し訳ございません。力及ばず、お嬢様たちを……がふっ」

「しゃべるな。傷に障るぞ」


 謝るシルフィアは激しく血を吐く。

 彼女の脇腹からは夥しい血が流れており、彼女のメイド服を真っ赤に染めていた。


「か、回復しますっ」


 シルフィアの状態に気が付いたレヴィアが回復魔法をかけようと近くにしゃがみ込む。

魔族である彼女は種族的に魔法が得意なので、応急処置ぐらいならこの場で行うことができた。

シルフィアの表情から苦悶の感情が消えていく。


「すんっ」

「何してるの?」


 ティリスがよくわからない行動をしていた。

 なぜか鼻から空気を吸い込んでいるようだった。


「匂いが三方向からする。どこに行ったかがわからない」

「……もしかして、犯人の臭いを?」

「うん」


 まさかの警察犬のような行動をしていた。

 たしかに便利な能力だし、獣人なので出来てもおかしくはないのだが、もう少し女の子としての自覚を持ってほしい。

 流石に婚約者が犬のように匂いを感じようとする姿はどう反応すればいいのかわからない。

 ……それに関してはおいておく。


「しかし、まさか僕がいない間に襲撃されるとはな」

「すみません。私が変な提案をしたばかりに……」

「いや、気にしないで。これは僕が監視を放棄したことが原因なんだから……「離れろ」と言われても、感知できない位置から見守ることぐらいで来ていた筈だ」


 申し訳なさそうにするシルフィアに俺は慰めるように告げる。

 そもそもの原因は俺である。

 きちんと役割をはたしてさえいれば、ハクアたちを連れていかれることはなかったはずだ。

 たとえどんな相手が来ていたとしても、手加減さえしなければ制圧することは難しくはなかったはずだ。

 アレンやリオンさん、ルシフェルさん並みの力を持つ者がそうそういるとは思えないし……


「それでどうするの、グレイン」


 アリスが次の行動を聞いてくる。

 彼女は元々シリウスたちと共にいたのだが、謎の集団に囲まれた際に俺たちを呼びに行くためにその場から逃れていたのだ。

 そのため、彼女に外傷はない。

 彼女がその場にいれば攫われる可能性が減ったのではないかと思ってしまうが、彼女がいても集団に対抗できるかはわからなかった。

 俺たちが到着する数分の間に誘拐をした手際を考えると、かなりの手練れがいる可能性が高い。

 なので、アリスが伝令代わりに逃がすのは正しい選択だったのだろう。


「とりあえず、父さんたちに報告しよう。流石にこれは僕たちだけ解決できる問題じゃないよ」

「そうなの? 今なら追いかけることもできると思うんだけど……」


 俺の提案にアリスは疑問に感じている。

 彼女は脳筋であるがゆえに「原因を取り除きさえすれば問題はない」と考えている節がある。

 その考え方は間違いではないだろうし、多くの場合はそれでやっていける。

 だが、今回の場合はそういかない。

 相手が貴族のガフ伯爵とルミエール聖教国の国教──【聖光教】が相手なのだ。

 下手に問題を起こせば、余計に被害が大きくなる可能性がある。

 ならば、俺たちがどうこうするよりもアレンたちに伝え、事態の収拾をした方がいいはずだ。


「それに今はシルフィアの治療が先だ。流石にこのままじゃまずい」

「じゃあ、ハクアとクロネはどうするのよっ!」

「二人はおそらく大丈夫だと思うよ」

「なんでそんなことが言えるのよっ!」


 アリスが怒鳴ってくる。

 俺が薄情なことを言っていると思ったのだろう。

 たしかにその通りかもしれないが、別に何の根拠もなく言ったわけではない。


「ハクアは【聖光教】にとって【聖女】として崇めるべき存在なんだ。当然、傷つけられることはないはずだよ」

「じゃあ、クロネは?」

「ハクアを従わせるために脅迫材料として使うんじゃないか? クロネが生きている状態で脅しをちらつかせれば、言うことは聞かせられると思うし……」

「ちょっと待って。それじゃ、クロネにはもしかしたら酷い事が……」

「その可能性は否定できないかもしれない」

「そんなっ!?」


 アリスが唖然とした表情を浮かべる。

 脳筋の彼女には想像もできない領域の話だったのだろう。

 だが、自分の妹が危険にさらされるのはわかったので、すぐにでも助けたいという気持ちが燃え上がっているはずだ。

 おそらく、次の彼女の行動は……


「今すぐ助けなきゃ……」

「だから待ってよ。これはもう子供がどうこうできる問題じゃないんだ。一刻も早く解決するために父さんたちに報告しに行くよ」

「……うん」


 俺が語気を強めるとアリスは不満げながらも頷いた。

 彼女は本能で動くことがほとんどなので、大体の行動は予測できる。

 なので、先に手を打たせてもらった。

 悪いことではないのだが、この状況ではあまり良い性質ではない。


 俺たちは急いで屋敷に戻った。







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