4-9 優しい兄は妹に提案する
※3月17日に更新しました。
(シリウス視点)
「さて、みんな行ったかな」
「ええ、そのようです」
僕の言葉に知るフィアは相槌を打つ。
彼女はきちんと周囲の言葉に反応するが、なまじ無表情のため本心からそう思っているのかわからづらい。
母さんも同じようなタイプなので僕は慣れているのだが、どうもグレインは彼女のことが苦手なようだ。
「ねえ、クロネ?」
「(びくっ)」
僕が声をかけると、クロネが驚いて体を震わせる。
そこまで大きな声を出したつもりはないのだけど、驚かせてしまったようだ。
先ほどはグレインの魔力が異常であることを理由にしてみたが、それだけが理由ではなさそうだ。
「どうして、そんなに怯えているんだい? もしかして、僕たちが怖いかな?」
「(フルッ)」
僕の質問にクロネは首を振る。
どうやらこれが理由ではないようだ。
てっきり僕たち全員に恐怖心を感じているから、怯えているのだと思ったのだが……
もう少し踏み込んだ質問をしてみる。
「僕たちの事──いや、グレインの事が嫌いなのかな?」
「(フルフルッ)」
今度は先程よりも大きく首を振った。
まるでそんなことを考えていると思われることが心外とばかりに強く振っていた。
普段の彼女からは想像ができないほど力強かった。
まあ、この質問は絶対にないとは思っていたが……
「シリウス様、いくらなんでもその質問は失礼だと思いますよ?」
「ええ、たしかにそうね。デリカシーのない質問じゃないかしら?」
「う……ごめん」
先ほどの僕の質問にシルフィアとアリスが文句を言ってくる。
たしかに自分でも失礼なことを言ったとは思っていたが、こんなに怒られるとは思わなかった。
今後は気を付けよう。
「シリウスにいさま」
「ん?」
反省していると、ハクアが話しかけてきた。
彼女はまだ舌足らずではあるが、僕に向かって一生懸命説明しようとする。
「クロネはね、みんなともっとなかよくなりたいの」
「っ!? ハクアっ、なにいってるのっ!」
ハクアの言葉にクロネが驚いたように大声を出す。
今まで聞いたことのないほどの声量にハクア以外の人間は驚いてしまった。
僕の知る限りクロネがこのような大声を出した記憶はないからだ。
そんなクロネの反応に驚くことはなく、ハクアは話を続ける。
「なかよくなりたいけど、じぶんとなかよくなってくれるかしんぱいしているの」
「心配? どういうことかな?」
ハクアの言葉に気になる点があり、思わず聞き返してしまう。
それはアリスやシルフィアも同じようで、ハクアの方に真剣な表情を浮かべる。
「クロネはじぶんだけひととちがうとおもっているの。だから、なかまはずれにされるんじゃないか、って」
「違う? 仲間外れ?」
「うん。【やみぞくせい】っていうちからをもっているから、じぶんだけほかのひととちがうんじゃないか、っておもっているみたいで……」
「ああ、そういうことか……」
僕はようやく納得することができた。
クロネが心配しているのは、自分が【闇属性】という人間にはほとんどいない適性をもっていることのようだ。
自分だけが違うということで、周囲から爪弾きにされることを恐れているのかもしれない。
だからこそ、グレインが仲良くしようとしても、あとで避けられることが怖いので離れようとしたということだろう。
「うぅ……」
ハクアに真実をばらされ、クロネが泣きそうな表情を浮かべる。
たしかにこんなことをバラされたら、泣きたくもなるかな。
僕だってアリスに隠したい秘密をばらされたら、泣いてしまうかもしれない。
といっても、僕が本気で隠したいと思っていることを、アリスが知ることはできないだろうけど……
「クロネ」
「う……シリウスおにいちゃん?」
彼女の表情は庇護欲を感じさせる。
なんと可愛らしい表情だろうか、思わず守ってあげたくなるような感情に駆られてしまう。
「クロネは自分が家族と違うことが怖いんだよね? 他の人と一緒がいいの?」
「……うん」
「でも、僕たち家族だってそれぞれが違うんだよ? たぶんだけど、一緒の人なんていないんじゃないかな?」
「っ!?」
僕の言葉にクロネが驚きの表情を浮かべる。
自分のことが精一杯で他の人のことが見えていなかったのかもしれない。
「僕とアリスは双子で【氷属性】という点で同じだけど、似ているかな?」
「(ふるふるっ)」
僕の質問にクロネは首を横に振る。
どうやらきちんと正常に物事を判断できるようだ。
と、この状況でハクアが話に入ってくる。
「アリスおねえちゃんはげんきいっぱいなびしょうじょだね。シリウスおにいちゃんはおしとやかなふんいきのびしょうじょだよね?」
「ちょっと待とうか、ハクア。アリスの方は合っているけど、僕の方はおかしくないかな?」
「やしきのみんながいっているよ?」
「えっ!?」
衝撃の事実に驚愕してしまう。
いや、僕だって父さんやグレインに比べれば男らしくはないとは思っていたが、まさかそんなことを思われているとは……
アリスとシルフィアに視線を向けるが、二人とも視線を逸らす。
どうやら二人もそういう評価をしていたらしい。
男として、この評価は覆さないと……
「ふふっ」
「っ!?」
話を聞いていたクロネが突然噴き出した。
これはチャンスかもしれない。
「ねぇ、クロネ? 僕たちがクロネのことを仲間はずれにすると思う? 人と違うからと言って、クロネのことをいじめると思うかな?」
「……(ふる)」
僕の質問にクロネは少し考えた後、小さく首を振った。
もう少し歩み寄ってみよう。
「じゃあ、クロネももっと自分に素直になればいいよ」
「?」
「クロネは僕たちと仲良くなりたい?」
「っ!?」
僕の言葉に彼女は驚いた表情を浮かべる。
そんなことを言われると思っていなかったのだろうが、当たり前の質問だろう。
たしかに人から嫌われることは怖い。
だからといって自分から距離を取ってしまえば、嫌われることはないが親密にもならない。
親密になるためには自分から歩み寄ってこなければならない。
「僕やアリス、グレインだってクロネともっと仲良くなりたいんだよ。もちろん、他のみんなもね?」
「……わたしもなかよくなりたい」
「よし、じゃあもっと歩み寄ってみようか。とりあえず、グレインと話をできるようにならないとね」
「う……うん」
ようやく歩み寄る決心がついたようだが、グレインはまだまだ仲良くなる道は遠そうだ。
グレイン自身にも問題があるようだし……
とりあえずこれでいいか──そんなことを思っていると──
(((((ザッ)))))
「「「っ!?」」」
──いつの間にか囲まれていた。
全員が白いローブを羽織っており、どこをどう見ても怪しい集団だった。
視線は僕たち──いや、ハクアに集中していた。
グレインに安心するようにとは言ったが、まさか本当に来るとは思わなかった。
さて、どうしたものか……
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