4-7 小さな転生貴族は妹と村に行く
※3月17日に更新しました。
ガフ伯爵を追い返してから1ヶ月ほどが経った。
警戒をしていたが、ガフ伯爵や聖光教からの刺客は来なかった。
まだ1ヶ月しか経っていないので警戒する必要はあるが、ここまで何の襲撃もないとその気持ちも薄らいでしまう。
「おにいちゃん、ここはなんのおみせ?」
「そうだな。生活必需品──ここに住んでいる人たちが生活するうえで必要なものを売っている場所だ」
俺たちはテキラ村にある雑貨屋に来ていた。
初めて見る光景にわくわくしたハクアが質問し、俺は自信満々に答える。
妹に頼られることはとても嬉しい。
「これは何?」
ハクアが緑色の液体が入った瓶を指さす。
「それはポーションだな」
「ポーション?」
「戦闘などで怪我をしたときに傷口にかけたり、飲んだりすることで傷を癒すことができる薬だ。森に行くときには絶対に忘れてはいけない」
ちなみに、飲むと苦いうえに傷口にかけるとしみるため、冒険者たちからは嫌われているらしい。
だが、必要になる可能性があるので、仕方なく持っていくのだ。
「じゃあ、これは?」
ハクアはポーションの説明に納得し、次の品物に意識を向ける。
今度は黒くて小さな粒が入った瓶だった。
これは……
「解毒薬だな」
「解毒薬?」
「ああ。森の中には毒を持った魔物や植物がいる。もし毒が体に入ってしまった場合に飲むためだね」
「同じような形で色が違うものがあるけど?」
「そっちの黄色いのは麻痺毒用。青色が眠り用で赤色が混乱用だね」
「へぇ~、いろんな種類があるんだね」
「それだけ森の中は危険が一杯ということ。将来、ハクアが森の中に入るときは必ず持っていくんだぞ?」
「うん、わかった」
「よし、いい返事だ」
俺の忠告に元気よく返事するハクア。
そんな彼女に俺は笑顔を向ける。
「グレイン様」
「ん? なんだ?」
そんな俺に誰かが話しかけてくる。
振り向くと、そこにはジト目のリュコがいた。
どうしたのだろうか?
「ハクア様に嘘を教えるのは止めてください」
「ちょっと待て。僕は嘘なんて言っていな……」
俺は思わず反論しようとするが、その前にリュコが遮る。
「ここに売っている物のどこが日用品ですか? 普通の人なら一生で使わないものが大半ですよ?」
「うぐ……だが、うちではよく……」
「それは旦那様やアリス様と共にグレイン様が森に行くからです。たしかにグレイン様たちは持っていくかもしれませんが、村人の大半はこれを使いませんよね?」
「……」
俺は反論できなかった。
普段から共に行動していたので忘れていたが、アレンたちはイレギュラーな分類なのだ。
慣れてしまっているため気が付かなかったが、そちらのグループに入ってしまっている以上俺も異常であるわけだ。
「それにハクア様とクロネ様は森には行かせないそうですよ」
「そうなの?」
ここでそんな事実を告げられる。
てっきり二人も大きくなったら一緒に森に行くと思っていたのだが……
そんなことを考えていると、シルフィアが会話に入ってくる。
「せっかくの女の子ということで、奥様たちは女の子らしく育てたいとのです」
「そうなの?」
「はい。アリス様がアレン様に似て腕白に育ってしまったので、「今度こそは」という思いでいっぱいみたいです」
「ああ、なるほど」
俺は納得してしまった。
今まで唯一の娘だったアリスがあれだけ男勝りだと、次に生まれている女の子こそそういう風に育てたいと思うのが親として当然だろう。
俺が親でもそういう気持ちになるかもしれない。
いや、案外子供が進みたい道を尊重するか?
俺は前世も併せて子供がいないので、その時にならないと分からないが……
「ちなみに奥様たちはティグリス様とレヴィア様に対しても同様のことを思っているそうです」
「なんで?」
「お二人はグレイン様の婚約、つまり義理の娘になる予定です。なので、アリス様にはない女の子らしさを身に付けてほしいと思っているそうで……」
「わからないでもないけど……他人の子供だよ? そんなこと勝手にしたら……」
「ちなみにそれは獣王様・魔王様夫妻から共に許可を貰っているそうです」
「あ、そうなの?」
それはそれでどうかなと思ってしまうが、許可を得ているのであれば俺二は何も言えない。
とりあえず、二人が何か変なことを吹き込まれさえしなければ、俺には害がないはずだし……
(じぃ~)
「ん?」
そんな会話をしていると、視線を感じた。
振り向くと、こちらを見ているクロネがいた。
彼女の腕の中には黒い毛玉が抱えられており、なぜか俺を敵視するかのように見ていた。
なぜだ? 俺はそんなことを思いながら、クロネに話しかける。
「なあ、クロ……」
「(バッ)ひぅっ!?」
俺が近寄った瞬間、クロネが短い悲鳴を上げながら後ずさる。
腕の中の黒い毛玉がこちらを見ながら唸ってくる。
「……」
俺はそんなクロネの反応にショックを受け、茫然と立ち尽くしてしまった。
周囲がかわいそうな目で見てきたが、俺は気にする余裕はなかった。
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