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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第四章 小さな転生貴族は暴走する 【少年編3】
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4-6 小さな転生貴族は妹を守る

※3月17日に更新しました。


「父さん、大丈夫なの?」

「何がだ?」


 屋敷の廊下を歩きながら、俺はアレンに質問する。

 だが、アレンはとぼけたような返事をしてくる。

 「子供は心配するな」という意思表示だろうか?

 だとしても、流石に俺も引き下がれない。


「ハクアのことだよ。あの伯爵、また来るよ」

「ああ、来るだろうな」

「じゃあ……」

「来たところで、大した問題はないさ」

「っ!?」


 アレンの言葉に──いや、その真剣な表情に俺は言葉を途切れさせてしまう。

 普段は問題を起こしてエリザベスに説教されている印象が強いが、今の彼からは俺が二の句を告げない雰囲気があった。

 これが父親の威厳という奴だろうか?


「まあ、その伯爵とやらがどれほどの戦力を有しているのかは知らんが、この屋敷からハクアの嬢ちゃんを奪うことは無理だろうな」

「ええ、そうですね。ビストでも、アビスでもおそらく生半可な消耗では攻略できないでしょうしね」


 俺たちの後ろをついてきていたリオンさんとルシフェルさんが口にする。

 二人はまるで心配する必要などないといった表情である。

 俺はそんな二人に聞き返してしまう。


「それって、どういう……」

「「もちろん、アレンがいるから」」

「ああ、なるほど……」


 あっさりと帰ってきた答えに俺は納得する。

 そういえば、アレンは獣王と魔王が認める実力の持ち主だった。

 そんな化け物が屋敷の中にいれば、安全だろう。

 貴族としては大した権力も持っていないが、戦闘に関してはずば抜けた力を持っている。

 果たして、この世界で彼に勝てる者はどれぐらいいるのだろうか?


「入るぞ」

「どうぞ」


アレンが目の前の扉にノックする。

 すぐに返事が聞こえてきたので、扉を開いた。


「あっ、おにいちゃん」


 部屋に入ると、一人の少女が笑顔で俺に声をかけてきた。

 水色の髪に一房の白い髪、快活な表情が特徴の可愛らしい少女だった。

 彼女の名前はハクア──クリスの次女である。


「っ!」


 燃えるような赤い髪に一房の黒い髪の少女がハクアとは対照的におびえたような反応をする。

 彼女の名前はクロネ──エリザベスの長女で、血のつながりでは俺の実妹である。

 ハクアも俺の妹ではあるが、血縁関係で言うならば半分が妹となる。

 どちらにしても妹であることには変わらないので、平等にかわいがっているつもりだ。

 だが、ハクアは懐いてくれているのに、実妹であるクロネは俺に対して怯えている。

 うして彼女がそんな反応を示しているのかわからない。


「旦那様、どうなさいましたか?」


 一人の女性がアレンに話しかける。

 透き通った緑色の美しい髪と人形のような無表情、そして尖った長い耳が特徴の女性──メイドのシルフィアである。

 彼女はハクアとクロネ二人の専属のメイドである。

 聖属性と闇属性の適性を持つということで、信頼できる人物をクリスの実家の伝手で雇ったのだ。

 仕事は有能、非常に気が利くので専属ではない俺に対して丁寧に接してくれる。

 だが、その無表情が俺は少し苦手だった。

 美人ではあるのだが、それゆえに無表情が怖く感じてしまうのだ。

 まあ、悪い人ではないが……

 そんな彼女にアレンが事情を説明する。


「実は、シルフィには注意してもらいたいことがあってな」

「注意、ですか?」


 アレンの言葉に首を傾げるシルフィア。

 だが、無表情が相まって疑問に思っているのかがわからない。


「実は聖光教からハクアを聖女候補に、という話を持ち掛けられた」

「……なるほど。旦那様はその話をお断りしたのですね。そして、先ほどの爆発音は交渉が決裂したことで戦闘が起きた、と」

「いや、あれはリズがやったことだ。ガフ伯爵の騎士を黒焦げにしてな」


 アレンがシルフィアの疑問に答えるが、明らかに誇張している。

 本気ではなく、面白半分で誇張している可能性が高い。

 普段はうだつが上がらないので、こういう場面でやり返しているのだろう。

 そんなことをすれば……


「エリザベス様がですか? あの優しい方がそんなことをするとは……」

「いや、リズはあれで結構、激情に駆られやすいんだぞ? 俺なんて、何度黒焦げにされたか」

「今、黒焦げにしてあげようかしら」

「っ!?」


 突然、背後から聞こえた声にアレンが体を震わせる。

 ほら、言わんこっちゃない。


「アレン? シルフィに私の悪口を吹き込んで、どういうつもりなの?」

「いや、悪口じゃ……さっき起こったことを詳しく話しているだけで……」

「私が激情に駆られやすい、と? 確かにそうかもしれないわね」

「だろ?」

「じゃあ、今も激情に駆られて、アレンを黒焦げにしようかしら」

「すみませんでした。それだけは、やめてくださいっ!」


 エリザベスの脅しにアレンはあっさり屈する。

 そこには先ほどのかっこいい父親の姿はなかった。

 そんなアレンを放って、エリザベスはシルフィに話しかける。


「というわけで、シルフィには警戒をしてもらいたいの」

「かしこまりました。では、あまりお二方を外出させない方がよろしいですね」

「いえ、そこまでは大丈夫よ。二人だってずっと屋敷に閉じこもるのはつまらないだろうし、外出は今まで通りしてもいいわ」

「よろしいのですか? 流石に私だけでは守り切れるかは……」


 エリザベスに質問するシルフィア。

 狙われているのがわかっているのに、外出を許可するのがよくないことだ。

 だが、別にエリザベスもただ外出を許可しているわけではない。


「出かけるときはグレインを連れて行きなさい。この子がいれば、どんな刺客も対処できるわ」

「えっ!?」


 今度は俺が驚く番だった。

 どうしてここで俺が出てくるのだろうか?

 そんな俺にエリザベスが説明する。


「アレンは領主としての仕事をしないといけないし、私とクリスはそのお目付け役をしないといけないわ」

「なるほど。じゃあ、兄さんたちは?」

「どんな相手が来るかわからない以上、シリウスとアリスには無理ね。それぞれの弱点を突かれれば、終わりだから」

「たしかにそうだね。じゃあ。リオンさんとルシフェルさん……」

「……お客様にそんなことをさせるの?」

「……無理だね」


 色々と提案してみたが、ことごとく正論で反対された。

 まあ、自分が一番適任であることはわかっていた。

 ちなみに、リオンとルシフェルは期待した雰囲気だったが、あっさり却下されて気を落としていた。


「まあ、グレインがいれば自然と人数が多くなるから、狙われにくくなるわ」

「……そっちが狙いなんだね」


 どういう意図で俺を選んだのか理解できた。

 俺がいればアリスとシリウス、婚約者たちが自然とついてくるので、人数は増えるわけだ。


「というわけで、よろしくね」

「はぁ……わかったよ」


 釈然としないが、俺は提案を受け入れた。

 ハクアを守りたいのは本当の気持ちだし……







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