4-2 小さな転生貴族は大人たちに褒められる
※3月15日に更新しました。
「まさかあんな手を使うとは思わなかったな」
「駄目ですか?」
俺は思わず聞き返す。
不意打ちをしたので、あまりよろしくなかっただろうか?
「いや、驚いただけだ。あれは油断していた俺が悪いな」
「完全な不意打ちでしたけど?」
「どうせ言い訳は考えているんだろう? 「降参とは言っていなかった」とか」
「バレました?」
俺の考えていることはバレていた。
あのとき、俺は悔しがってはいたが、降参という言葉は使わなかった。
その上で、あたかも戦闘が終わったように水筒を渡したのだ。
戦闘面に関してはやはりリオンも鋭い。
「しかし、最後の一撃は物足りないな。グレインだったら、もっと威力の高い攻撃ができていただろう」
「現状で一本取れるのはあれが限界ですよ。それ以上は時間がかかりすぎて、リオンさんは避けるでしょ?」
「なら、次はそれを課題に訓練していくべきだな」
最後に俺が直接攻撃したのは、驚いたリオンさんが水に手を伸ばしている間に攻撃するためだった。
少しでも溜めていれば、おそらく攻撃は間に合わなかっただろう。
たとえ全力で攻撃していてもダメージが通らないだろうから、一本を取ることを優先したのもあるが……
「では、魔法で攻撃していれば良かったのでは?」
いつの間にか近くに来ていたルシフェルさんが提案する。
そんな提案に俺は首を振る。
「気付かれない程度に魔力を込めていたので、あれが限界でした」
「ああ、なるほど。普通の相手ならともかく、リオンは気付きそうですね」
ルシフェルさんは納得する。
リオンさんは魔法を使えないが、魔法の感知に関しては魔法使いより鋭い。
野生の勘だろうか?
「今はそれでいいが、いずれはわかっていても避けられない攻撃をできるようにな」
「というと?」
リオンさんは助言するが、残念なことに理解できなかった。
一体、どういうことだろうか?
「そういうのはルシフェルの領分だな。俺と戦うとき、どうする?」
「そうですね……とりあえず、リオンから攻撃されないように遠距離に移動します」
話を振られたルシフェルさんはいきなりおかしなことを言い始めた。
だが、それをリオンさんは否定しない。
どうやら良いようだ。
攻撃をされないことは大事だが、それは戦うと言えるのだろうか?
「そして、辺り一帯──大都市一つを破壊できる威力の魔法を放ちます」
「……それ、やばくないですか?」
思わず反応してしまった。
流石に街一つ破壊できる魔法を放つのはどうかと思う。
それほどの威力じゃないと、リオンさんは倒せないのだろうか?
「生半可な威力では突破されてしまいますからね。流石のリオンでもそれほどの威力であれば……倒せると信じたいです」
「まだ希望段階っ⁉」
予想以上にリオンさんが強すぎるようだった。
大都市を破壊してなお生き残るとは、どれほど強いのだろうか?
「流石に無傷で突破はできないがな」
「それほどの魔法の核なら、到達するまでにダメージはあるだろうしな」
リオンさんとアレンが話している。
そういえば、アレンも同じぐらい強いんだった。
リオンさんができることは彼にもできるわけだ。
無傷で難しいというのはたいした問題ではないと思う。
「まあ、流石にそんな魔法は使わない方が良いですね」
「しませんよ。そんなことをすれば、確実にこの訓練場が使えなくなりますし……」
俺は周囲を見渡す。
かなり広い場所ではあるが、今の俺でも魔法で破壊することは可能だったりする。
だが、その魔力を溜めている間に接近されるため、リオンさんには勝てないはずだ。
成功しても、辺り一帯が焼け野原になってしまう。
そんなことになれば、エリザベスとクリスから確実に説教されるだろう。
「おい、平然とやばい魔法を使えると言ってるぞ?」
「グレインだったら当然だろう?」
「……そういえば、こいつの感覚もおかしいんだったな」
「アレンがこうだからグレイン君もこんな風に成長したんでしょうね」
アレンの言葉にリオンさんとルシフェルさんが呆れたような表情になる。
アレンと一緒に俺までおかしい扱いをされている。
否定はできないが、流石にアレンと同じ扱いはなんか嫌だ。
「はい、汗を拭いて」
「……これ、お水」
「ありがとう」
大人たちが会話しているので、ティリスとレヴィアが話しかけてきた。
二人から褒めて欲しそうな雰囲気を感じたので、感謝の気持ちを伝える。
「まさか、父様に勝つとは思わなかった。手を抜いても戦闘で隙を見せるなんてほとんどないのに……」
「流石、グレイン君。あんな風に魔法を使うなんて、魔族でもできない」
二人が褒めてくれる。
褒められるのは嬉しいが、ここまで真正面からだと少し照れてしまう。
あと、俺がおかしいということを言外に言われている気がするが、気にしすぎだろうか?
俺はタオルで汗を拭き、コップに入った水を飲む。
そんな俺にさらに他の人たちが話しかけてくる。
「流石はグレイン君ね。義姉として、誇らしいわ」
「ええ、そうですね。ですが、ここまで優秀だと他にも悪い虫が寄ってきそうで、心配だわ」
「いや、そんな心配はしないでくださいよ。僕はこれ以上婚約者を増やすつもりはないですし……あと、まだ婚約者の段階なんで義弟でもなんでもないですよ、僕は」
婚約者の姉たちの笑顔の言葉に反論する。
なぜかこの二人は積極的に俺たちの仲を深めさせようとする。
リオナさんは自分が義姉であることを強調し、リリムさんは言外に俺に釘を刺す。
そのうち言質とか取られそうである。
「グレイン、勝負しましょう。負けてられないわっ」
「この調子じゃ、グレインが当主になるのもすぐだね」
「姉さん、もうくたくただから流石に無理だよ。あと、兄さんはことあるごとに僕に当主を押し付けようとしないで。戦闘ですごいからと言って、当主になれるわけじゃないんだから」
姉と兄にいつも通りの対応をする。
アリスは俺に勝つため戦いを挑み、シリウスは自由になるために当主を勧めてくる。
いい加減、俺を自由にして欲しい。
俺はのんびりとスローライフを送りたいのだ。
そんなことを思っていると、もう一人近づいてきた。
「グレイン様、着替えです」
「ああ、ありがとう」
着替えを持ってきてくれたのはリュコだった。
汗を拭くためにタオルを渡してくれたり、喉が渇いたと思って水を渡してくれるのはありがたいが、先ほどの激しい戦闘をこなした後はとりあえず着替えたかった。
砂まみれになった服はとても気持ち悪かった。
それに気が付くとは流石はリュコである。
俺は彼女から着替えを受け取ると、他の人に見えない位置まで移動して着替えを始める。
いくら子供の体とはいえ、女性の前で裸になるわけにはいかない。
スローライフとは違うが、まあそこそこ幸せに俺は過ごしていた。
俺はこんな生活がそのまま続くと思っていた、この時までは……
改訂始めました。
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