プロローグ とある建物の中で
※3月15日に更新しました。
第四章、始まりました。
今回はとある姉妹がメインの話になってきます。
といっても、その姉妹視点というわけではなく、その二人を中心に話が回るだけですが……
「なっ……これは……」
暗い部屋の中で男が驚愕する。
まだ青年ぐらいの年齢である彼の前には水の入ったお盆があり、その水は動いた振動により揺れていた。
青年の様子を見て、近くにいた恰幅のいい男性が話しかける。
「どうしたのだ? 心を乱すのは修業が足りない証拠だぞ」
「は、はい……すみません」
恰幅の良い男性の言葉に青年は頭を下げて謝罪する。
だが、青年は心から謝罪しているわけではなかった。
お前に言われたくない、そういう心情が下げた顔に浮かんでいた。
恰幅の良い男性がそれに気づくことはなかったが……
「一体、何があったのだ? 驚いたのは理由があるのだろう」
恰幅の良い男性は話を続ける。
質問を受けた青年は頭を上げる。
「はい……占いで驚くべきことがわかりました」
「ほう。それはどんな内容だ?」
恰幅の良い男性が興味深げに質問する。
青年の占いはこの辺りでも有名で、非常に当たると有名なのだ。
つまり、それを聞くことでいい事ならそのまま受け入れ、悪い事なら対処することができるわけだ。
「【聖属性】の使い手が現れました」
「なんだとっ!? それは一大事じゃないかっ!」
とんでもない内容に男性が驚愕する。
なぜなら、伝えられた内容は男性にとって喉から手が出るほど欲しい物だったからだ。
【聖属性】──男性の所属する集団では、これを持つ者は神の使いとして崇められる存在となる。
歴史上を含めても数えられるほどしか現れたことのないので、伝説と呼ばれているぐらいだ。
現在、確認されているのはリクール王国の第二王女のみ。
喉が出るほど欲しい存在ではあるが、一国の王女をそう簡単に引き入れることはできない。
そのため、【聖属性】の使い手がいることを確認できたことだけでも良しということになったのだ。
そんな中で新たな【聖属性】の使い手が現れた情報を得た。
これを手に入れることができれば、集団の中で男の立場を上げる千載一遇のチャンスということだ。
「その使い手はどこにいるのだ?」
「……詳しい事はわかりません」
「王族ではないだろうな?」
青年の言葉に男が嫌な顔を浮かべる。
それはリクール王国の第二王女が【聖属性】の使い手であることがわかったときのことを思い出したからだ。
どうにかして手に入れようとしたのだが、どうしても手に入れることができなかった。
その責任で男は閑職に甘んじることになった。
「いえ、そのようには出ていません。ただ……」
「なんだ?」
「私の占いには【南の地】、【混在】、【光と闇】という三点が出ています」
「……最初の一つはおそらく場所を示しているのだろうな。残りの二つはよくわからないな」
「そうですね」
男性の言葉に青年は頷く。
「だが、【聖属性】の使い手がいることはわかった。すぐにその所在を掴み、どんな手を使ってでもわが教団に引き入れるぞ。すぐに捜索させよ」
「は、はい。わかりました」
男性の指示に青年が部屋から出ていった。
そして、暗い部屋には男と水の入ったお盆だけが残された。
「……フフ」
一人になった男性の口から笑い声が漏れ出てくる。
「ようやく、ようやくだ。私にもチャンスが巡ってきたぞ。これで教団内の地位は確固たるものになるはずだ。フハハハハハハッ」
男性は自身の幸運に高笑いをする。
お盆に入った水には男性の嫌らしい表情が映っていた。
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