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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する 【8-2 獣王国ビスト編】
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8-2-19 死んだ社畜は魔物の異種混合集団を排除する 6


 その夜、俺とシリウスの部屋に仲間全員を集めた。

 部屋割はしっかりと男女別にさせてもらっている。

 それ以外の分け方をするといろいろと面倒になりそうだったからだ。

 これが無難だったわけだ。


「みんなに情報を共有してもらうべく、集まってもらった」

「共有? それはこの村の人には聞かれてはいけないことなのかしら?」


 俺の言葉にイリアさんが聞いてくる。

 この場には俺の身内しかいないということから、この村の人を疑っているのかもしれない。

 これは俺の対応が悪かったのだろうか?

 いや、彼女が優秀だからこそ、そういう心配をしているのだろう。

 だが、今回の件に関しては杞憂である。


「いや、そういうわけじゃない。この情報はあくまでも俺の想像となるから、下手に村の人たちに不安を植え付けるような真似はしたくなかったんだ」

「……そう。それでどういう情報かしら?」


 俺の説明に納得できたのか、話の続きを促す。

 だが、その前に一つだけ聞いておかないといけないことがある。


「ティリス、リュコ」

「なに?」

「はい」

「この建物の周囲に人の気配はあるか?」

「ないわね」

「ありません」

「ならいい。人が近づいたら、教えてくれ」

「わかったわ」

「わかりました」


 俺の質問に二人は答える。

 二人にそんなことを聞いたのは盗み聞きされることを避けるためである。

 別に村人たちが悪い考えで盗み聞きをすると言っているわけではない。

 だが、偶然聞いてしまうなんて状況を避けるために、獣人の感覚を持つ二人に探ってもらったわけだ。

 周囲に人がいないことを確認したので、俺は話を進める。


「おそらく今回の魔物の襲撃は仕組まれたもののようだ」

「「「「「っ!?」」」」」


 俺の言葉を聞いた全員が驚く。

 それはそうだろう。

 魔物の襲撃は規模は違えども本来は自然災害と同じような扱いである。

 加害者であろうが、被害者であろうが人が介入することはできるはずがないのだ。


「それはどういうことかしら?」


 イリアさんが俺に質問をする。

 こういう時でもすぐに冷静になることのできる彼女は即座に的確な質問をしてくれる。

 話を進めるうえで非常にありがたい。


「まず、今回の襲撃の背景だ」

「背景? まだ何も調べていないのに、わかったことがあるの?」

「ああ、3つもな」

「そんなに?」


 俺の言葉にイリアさんが驚く。

 事件の背後に何かある場合、それを見つけるのにはある程度時間がかかるものである。

 だが、それを俺は時間をかけずにやってのけてしまった。

 だからこそ、彼女は驚いているわけだ。

 その件については説明するのは面倒なので、本題に入ることにする。


「まず一つ目。この辺りにはオーク種とコボルト種の縄張りしかないのに、オーガ種とゴブリン種がいたことだ」

「それが何かおかしいのかしら? いえ、普通ではないことはわかるけど、ないことではないでしょう?」

「確かにその通りだ。別に他の場所から魔物が移動することは少なからずあるだろう。本来の縄張りで餌が取れなくなったので、食い扶持を求めて別の場所に移動する、なんて理由でな」

「だったら、おかしくは……」


 俺の説明を聞き、イリアさんが反論しようとする。

 たしかに一見すると、今回の件はおかしくないように見える。

 だが、明らかにおかしい事があるのだ。


「いや、おかしいんだよ」

「え?」

「その二種が同時にこの辺りに移動してきたこと自体はあり得ない話じゃない。だが、その四種が同時に存在することはあり得ないんだよ。縄張り争いをしたはずなんだからな」

「っ!?」


 俺の説明にイリアさんが驚く。

 シリウス、レヴィア、リュコ、シャル嬢も内容を理解したようで、少し驚いたような表情を浮かべた。


「別に共存する可能性がないわけではないが、それだったら二種類しか残っていないはずだ」

「どうして二種類なのかしら?」

「元々この辺りを縄張りにしていたのはオーク種とコボルド種だろう? 魔物たちがどの縄張りを侵略したかはわからないが、普通は入れ替わるだけだ。だったら、最大でも二種しかいるはずがないんだ」

「そういうことね。そして、その四種が同時に縄張り争いをしていれば、残るのは一種だったわけね」

「オーク種とコボルド種が共存していたことを考えると、その可能性は低いと思うがな」

「なるほど」


 俺の説明にイリアさんは納得したようだ。

 そして、話の続きを促してくる。


「そして、二つ目は複数種の魔物の集団行動と上位種の存在だ」

「縄張り争いの話から考えると、おかしいことはわかるわね。縄張り争いをするような敵同士なら、集団行動をする筈はないわ。でも、こうは考えられないかしら?」

「?」

「敵同士で手を組む方法よ。共通の敵を作る──それがこの村だった、と」


 俺の説明を聞き、イリアさんがそのような結論を告げる。

 彼女は様々な知識があるからこそ、そのような結論に辿り着けるわけだ。

 別に間違ってはいない──今回の件が魔物でなければ……


「いや、その可能性は低いな」

「どうして?」

「まず縄張り争いをするような敵対している相手と組むことはないだろう。魔物たちは決して賢いわけじゃないんだから」

「……でも、上位種と言うのがいたのでしょう? 普通の魔物よりは知性があるんだったら、そういう考えに至ってもおかしくはないと思うのだけど……」

「たしかに上位種なら、そういう考えを持つ可能性は否定できない。だが、それでも今回のようなことになる可能性はないはずだ」

「考えることができるのなら、今回のようなことになるんじゃないの?」

「上位種が従わせることができるのは、あくまでも同種の相手だけだ。つまり、別の縄張りを持つ同種とかだな」

「……今回のような異種混合にはならない、と」

「ああ、そうだ」


 イリアさんの言葉に俺は頷く。

 戦っている最中も違和感があったのだ。

 複数種の魔物たちが連携を取っていた。

 それだけで異常だったのだ。


「集団行動の件がおかしいことはわかったわ。それで上位種の存在がおかしい事については? 数が多い、とかかしら?」

「いや、その件ではない。まあ、本来はあまり存在しないはずだから、多いのもおかしい事ではあるんだがな」

「じゃあ、何がおかしいのかしら?」

「複数種の上位種が同時に行動していたことだ」

「?」


 俺の説明にイリアさんが首を傾げる。

 これには他の仲間たちも同じような反応だった。

 流石にこれだけでは理解できなかったようだ。


「上位種とは本来、その種の支配的な立場にいる存在だ。当然、同種を従えることを当たり前と思っているわけだ」

「人間でいう所の貴族と言ったところかしら?」

「そうだな。そして、そういう奴は自分が支配されることは考えていない。支配することが当たり前なんだからな」

「つまり、今回のような異種混合集団でどの種が上に立ったとしても、他の種の上位種が存在すること自体がおかしかったのね」

「そういうことだ。しかも、集団をまとめる存在が上位種の存在を認めるとも考えづらい」

「あら、どうしてかしら? 当然、その存在も上位種だったなら、従えることを当たり前と思っているんじゃ……」

「他の上位種は戦力は高いかもしれないが、存在するだけで邪魔になってくる可能性があるんだ。そいつを旗頭に反抗してくる可能性もあるからな」

「……なるほどね」


 イリアさんは少し考え、納得してくれたようだ。

 知識があるからこそ、こういう専門外の内容でもすぐに理解してくれる。

 まあ、他の分野の知識があるからこそ、専門外でも説明をされれば理解できるようになれるのかもしれない。






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