8-2-18 死んだ社畜は魔物の異種混合集団を排除する 5
「ごめん。まさかあそこまでびっくりするとは思っていなかった」
「いや、俺も予測しておくべきだった」
ティリスの謝罪に俺も反省の言葉を告げる。
アリスの攻撃の時点でまだ勝負が決まっていないことはわかっていた。
剣が骨に当たったような音は聞こえていたし、オーガエンペラーはまだ息があった。
ならば、ティリスが追撃を加えるのは当然の行動であった。
そして、彼女ならばアリスが首に突き刺した剣をさらに深く突き刺すように攻撃する、と。
「けど、まさかAランク級の魔物が出てくるとは思わなかったわね」
「でも、長旅でなまりきった体をほぐせたから、よかったな」
アリスとティリスは満足そうにそんな会話をする。
普段から体を動かすことが好きな二人にとって、留学の移動中はそれは苦痛であっただろう。
道中に魔物が出れば多少は解決できていただろうが、魔物は人間が通るような道にはあまり近づかない。
そこで人を襲ったとしても、後で討伐される可能性があることを理解しているからだ。
基本的に自分たちの縄張りから出ることはない。
だからこそ、今回は異常だったのだ。
「あの……」
「ん?」
俺たちがそんな会話をしていると、不意に誰かから声を掛けられる。
壮年の男性だった。
頭にはクマの耳がついていた。
「私はこの村の長です。今回は助けていただき、ありがとうございました。なんとお礼を言ってよいのやら……」
「いや、当たり前のことをしただけですよ」
村長から感謝の言葉を告げられる。
感謝の言葉を受け取るが、少し罪悪感も残っている。
少なくとも、被害があったからである。
俺たちが魔物たちのこの村への襲撃に気づいた時点ですでに火の手が上がっていた。
つまり、何らかの被害が出た後だったのだ。
できる限り急いできたが、それでも助けられなかった命もあった。
「怪我人がいるのであれば、後から来る仲間に治療してもらってください」
「ああ、お仲間の方はすでに到着されており、怪我人の治療もしてもらっています」
「なら良かったです」
「しかし、すごいですな」
「何がですか?」
村長の言葉に俺は思わず聞き返す。
何がすごいのだろうか?
「あれほどの大怪我を一瞬で治すほどの魔法、さぞ素晴らしい【回復魔法】の使い手に違いありません。もしかして、人族の方がいうところの【聖女】と呼ばれる方なのでは?」
「……」
村長の言葉に俺は何と言えばいいのかわからなかった。
いや、彼は思ったことを口にしているのだろう。
だからこそ、自分が何を言ってしまったのか理解できていないのだ。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないですよ。それよりも、一つ聞きたいことがあるんですが……」
「なんでしょうか」
「この辺りに縄張りを持っているのはコボルト種とオーク種だけで、ゴブリン種とオーガ種はいないというのは本当ですか?」
話題を変えるべく、質問をする。
といっても、これはしっかりと聞いておかないといけないことだったからである。
ティリスから説明はされているが、それでもこのあたりの人の話を聞いておいた方が良いと思ったからである。
「その件ですね……確かにその通りですよ。我々はこの近辺でゴブリン種とオーガ種は見かけたことはありません」
「普段村人が近づかない場所にいた、という可能性は?」
「いえ、その可能性は低いでしょう。この周辺の森はいわば我々の庭のようなもの。獣人の感覚を利用し、ほとんどすべての場所のことはしっかりと把握しております」
「なるほど……なら、その二種は外から来たことになりますか」
村長の説明に俺は納得する。
彼が嘘をついているようには見えない。
こんなところで嘘をついても、何の得もないしな。
それに、獣人たちの感覚が優れていることを俺はしっかりと理解している。
ティリスやリュコ、レオンが近くにいたからである。
「そういうことです。それと、もう一つ……」
「なんですか?」
「オーク種とコボルト種の上位種が同時に出現した件です」
「それがどうかしましたか?」
村長の言葉に俺は聞き返す。
彼の言いたいことがわからなかった。
そんな俺を見て、彼は一から説明を始める。
「本来、上位種というのは簡単に現れるものではありません。その魔物の集団の中で優れた者が進化することで現れると言われております」
「そうみたいですね」
「当然、それ自体があまり起こることではありません。なので、今回のようにこの近辺に住む二種の魔物たちで同時に上位種が現れたことがおかしいと思いまして」
「なるほど……だが、まったくあり得ない話ではないのでは?」
村長の説明を聞き、俺はそう問いかける。
たしかに珍しい事かもしれないが、可能性がゼロではないと思う。
だが、そんな俺の言葉に村長は首を振る。
「いえ、あり得ない話です」
「どうして?」
「私たちはこの辺りで安全に暮らすため、定期的に魔物たちを間引いております」
「間引く?」
「正確に言うと、その魔物の集団の一番強い魔物を討つ、ですかね?」
「どうしてそんなことを?」
俺は再び質問をする。
そのようなことをする意図が全くわからなかったからである。
集団のトップを討つ──つまり、その集団の統率が取れなくなることを意味するのでは、と思ったのだ。
「上位種の出現を防ぐためです。上位種が現れれば、それだけでこの村に多大な被害を及ぼす可能性がある。だからこそ、その可能性を低くするためにこのようなことをしていたわけです」
「なるほど……なら、今回のように魔物の上位種が現れること自体がおかしい、ということに?」
「はい、そういうことです。少なくとも、私たちの知る限りではオーク種とコボルト種の上位種はいなかったはずです」
「ふむ」
村長の説明を聞き、俺は少し考え込む。
村人たちが上位種の出現に気づかなかった、と言う可能性もゼロではない。
だが、そんな彼らがそのさらに上位種になるまで見落とすことがあるだろうか?
滅多に起こることではないとはいえ、明らかな異常事態である。
感覚の鋭い獣人である彼らであれば、何らかの異変を感じ取ることはできていたはずである。
なら、他の可能性は……
「一気に進化した?」
「何かおっしゃられましたか?」
「いや、なんでもないです。それと魔物たちの死体はどうされますか?」
「ああ、それなら私たちが処理しますよ。魔物を討伐する過程で解体作業もするので、慣れておりますから」
「ならよかった」
口にしたとんでもない結論を流すために話題を変える。
流石に突拍子もない話である。
だが、そんな内容でも襲われたばかりの村人たちに恐怖を与えるかもしれない。
だからこそ、なんでもないように振舞ったわけである。
「解体したものをいくつか持っていかれますか? 冒険者であれば、評価項目になると思いますが……」
「いや、それはいいです」
「え? 君は冒険者ですよね? だったら、討伐を証明するものを得た方が良いと思うのですが……」
「俺はAランク冒険者ですから、大したプラスにはなりませんので」
「Aランクっ!?」
俺の言葉に村長が驚く。
流石に冒険者のランクは知っているようである。
まあ、ビストでも冒険者は活動しているので、知っていてもおかしくはないか。
「まさかそのような方とは……失礼しました」
「いや、そこまでかしこまらないでください。Aランクとはいえ、まだ12歳の子供ですから」
「それは無理です……というか、その年齢でAランクと言うのは、それだけで十分凄い事ですよ」
「……それもそうか」
尊重の言葉に俺は納得してしまう。
今までは【化け物】扱いをされていたが、本来なら俺は敬われてもおかしくはなかろうか?
最年少でAランクの冒険者──それだけでもかなりの偉業のはずなのに……
いや、それほどのことをしているからこそ、【化け物】扱いをされているのか?
まあ、気にしないでおこう。
「とりあえず、俺たちは魔物の討伐の証明などは必要ないので、村の修復資金に使ってください」
「ありがとうございます。感謝の気持ちとしてはささやかかもしれませんが、村の滞在中はおもてなしをさせていただきます。君たち──いや、あなた方はこの村の恩人ですので」
「そこまでは……いや、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
一度断ろうとしたが、少し考えてから受け入れることにした。
そこまで感謝してもらうこともないと思っていたが、それはあくまでもこちらの都合である。
俺たちが受け入れなければ、村の人たちの気持ちが収まりつかないだろう。
なら、受け入れた方が良い。
「ん?」
俺はあることに気が付き、オーガエンペラーの死体に近づく。
そして、身に付けていた防具を確認する。
「これは……」
その後、防具も確認した。
これは明らかに異常なことかもしれない。
だが、それはあくまでも俺の推測である。
下手に村長に伝えない方が良いかもしれない。
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