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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する 【8-2 獣王国ビスト編】
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8-2-17 死んだ社畜は魔物の異種混合集団を排除する 4


(ブウウウウウウウウウウンッ)

(ズガガガガガッ……ドオオオオンッ)


 オーガエンペラーが戦斧を下から振り上げる。

 そこから放たれた斬撃が地面を削っていき、離れたところにあった大木を倒した。


「ちっ!?」


 俺は思わず舌打ちをしてしまう。

 周囲の被害を考慮しないといけないのに、一振りでこのような惨劇を引き起こされるのは本当に困ったものである。

 下手に回避することもできなくなってしまうからだ。

 なら、やることは一つ。


(ダッ)


 俺はその場から駆け出し、一気にオーガエンペラーに接近する。

 俺の接近に気が付いたオーガエンペラーは迎え撃つために戦斧を右斜め上段に振りかぶる。

 戦斧という重量級の武器を使う場合、本来はあまり速度は出ない。

 だが、オーガエンペラーの膂力をもってすれば、並の魔物が軽量級の武器を扱うのと大して変わらない速度を出すことができる。

 さらに、俺の攻撃を受けた状態でも反撃に武器を振るってくる可能性もある。

 それぐらい打たれ強いとも思われる。

 その攻撃を回避することは難しくはないが、周囲に被害を及ぼさないという目的がある以上、その行動もとることはできない。

 だが、いくら俺でもオーガエンペラーの攻撃を直撃するのは避けたい。

 ならば……


「姉さんっ!」

「任せてっ!」


 俺は走りながら、アリスに声をかける。

 彼女はオーガエンペラーの右側から一気に近づく。

 戦斧の軌道上という危ない位置にいるが、そんなことを気にも留めていない。


「はあっ!」


 気合一閃、アリスの剣がオーガエンペラーの右腕を斬りつける。


(ガッ)

「くっ!?」


 だが、その攻撃はオーガエンペラーの筋肉に阻まれる。

 その巨体通りの筋肉なのか、アリスの攻撃は腕の半分──骨にすら到達していないようだった。

 アリスも悔しがるわけだ。

 だが、決してこの攻撃の意味がなかったわけではない。


(ガクンッ)


 右腕にダメージが入ったおかげで、オーガエンペラーは上手く力が入れられないようだ。

 上段に構えていた戦斧が水平になる。

 しかし、それでもまだ安心はできない。


「ガアッ!」


 オーガエンペラーは力任せに戦斧を振り回そうとする。

 それに気が付いたアリスは即座にその場から離れる。

 そのタイミングに合わせ、俺はしゃがみこみながら滑り込む。

 そして……


「うらあっ!」

(ガンッ)


 地面に左手と左脚をつけた状態で、回転しながら右脚で蹴りを放つ。

 狙いはオーガエンペラー本体ではなく、戦斧──刃の部分ではない腹の部分に向かってである。


(ブワッ)


 俺の蹴りでさらに軌道がずれ、斬撃は上に上がっていった。

 といっても、流石に建物の屋根の部分にはかすってしまったようで、壊れた破片が地面に落ちていた。

 まあ、これぐらいは我慢してもらおう。


「ガアッ」


 右下に俺がいることが分かっているからだろうか、オーガエンペラーは戦斧を振りわした勢いを利用して、そのまま攻撃に移行する。

 体を一回転させることによって、一度上向きになった戦斧の軌道が俺へと向かってくる。

 流石は二段階上位種と言ったところか、普通の上位種でもこのような戦い方をすることはないだろう。


「はっ!」

「ガボッ!?」


 両足で地面を強く踏み、掌底をオーガエンペラーのがら空きの左腹部に叩きこむ。

 オーガエンペラー自体のタフネスに加え、金属製の鎧に包まれていることで油断しているのか、オーガエンペラーは防御に対する意識が低いようだ。

 まあ、普通は金属製の武器がある部分に攻撃をされたとしても、気にする方が少ないのかもしれない。

 強力な一撃であれば破壊することはできるかもしれないが、素手で金属製の防具を壊すことなどまずできないからである。

 だが、それはあくまでも一般論の話だ。

 俺には【土属性】の魔法の適正もある。

 【土属性】の魔法は砂・土・石・岩──そして、鉱物である金属も扱うことができる。

 その魔法を使って、オーガエンペラーの鎧の左腹部部分を破壊し、生身にダメージを与えることができた。

 そんなことができるのであれば、オーガエンペラーの戦斧を直接破壊すればいいのではないのか、と思うかもしれない。

 しかし、この【土属性】の魔法による金属変化は思った以上に精神力と魔力を消費する。

 鎧のように比較的動いていない対象ならまだしも、戦斧のように縦横無尽に動き回る対象に触れながら発動させることはかなり難しい。

 下手すれば、俺の両手が戦斧の風圧で斬り飛ばされるかもしれない。

 命がある限り治療することは可能であるが、流石に痛いのは勘弁してほしい。


「ガアッ」


 痛みで一瞬動きが止まったが、すぐさま俺に向かって攻撃をする。

 流石に鎧破壊を同時に行ったせいか、生身にはそこまでのダメージを与えることはできなかったようだ。

 だが、十分に時間は稼げた。


「ティリスっ!」

「任せろっ!」


 俺の呼びかけにティリスが答える。

 背後から近付いた彼女はオーガエンペラーの両膝裏に蹴りを放つ。


「グッ!?」


 いきなりの衝撃にオーガエンペラーは少し体勢を崩す。

 膝は前方からならかなりの強度を誇っているが、背面からならばそこまでの危険はない。

 しかし、ティリスの狙いはそれだけではなかった。


(ガッ)

「てえいっ!」


 オーガエンペラーの背後から足首を掴み、一気に引っ張り上げた。

 膝裏を蹴られてバランスを崩したところだったので、オーガエンペラーは前方に倒れこんでしまう。

 ちょうどそこには俺がいる。


「おらあっ!」

(バキッ)


 倒れてくるオーガエンペラーの顎に向かって、掌底を放つ。

 自分の倒れる動きと相まって、勢いよく顎がかちあげられる。

 だが、それでもオーガエンペラーは生きていた。

 どれだけタフなのだろうか……


「はあっ!」

(ブシュッ、ガッ)


 オーガエンペラーの首筋にアリスの剣が突き刺さる。

 俺の攻撃の勢いもあってか、先ほどよりも深々と突き刺さっていた。

 だが、鈍い音も聞こえてきた。

 おそらく骨で止まってしまったのだろう。

 もう少し攻撃しないといけないのか、そう思ったの瞬間──


「せやっ!」

(ガンッ、ボキッ)


 オーガエンペラーの背面から打撃音と何かが折れた音が聞こえた。

 一体、何の音かと思ったが、すぐに理解することができた。


(ズボッ)

「うおうっ!?」


 オーガの喉元から刃が突き出てきた。

 顎に掌底を撃ち込んでいたので、危うく俺にも突き刺さるところであった。

 しかし、流石のオーガエンペラーも首筋から喉元に掛けて貫かれれば、耐えることなどできなかったようだ。

 力なく前のめりに倒れていった。


「「グレイン、大丈夫?」」


 倒れたオーガエンペラーの下側から出てきた俺に二人が声をかけてくる。

 二人が近くにいることから、俺は先ほどの状況を理解できた。

 出てきた刃はアリスのものであるが、貫通させたのはティリスなのだろう。

 柄の部分に衝撃を加えることで、オーガエンペラーの骨ごと貫通させたのだろう。

 いくら硬い骨と言えど、同じ個所に何度も攻撃を加えられれば破壊されてしまうわけだ。







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