8-2-16 死んだ社畜は魔物の異種混合集団を排除する 3
「「グレインっ!」」
上位種の魔物たちを倒した直後、同時に2つの声が俺を呼んだ。
アリスとティリスである。
同じ方向から来たことから、合流したことで俺のいる中心へと向かってきたのだろう。
「グレイン、酷いじゃない」
「ん?」
だが、アリスから予想外の文句を言われる。
一体、どういうことだろうか?
「こんなに強そうな相手、どうして私たちに残してくれなかったの?」
「そうね。魔物の上位種なんて獲物が3体もいたんだから、一人一体でもよかったじゃない」
「ああ、そういうことか」
二人の言い分に納得する。
俺が魔物たちの上位種を倒したことに文句を言いたかったのだろう。
この長旅のせいでほとんど戦うことのなかった二人からすれば、良いストレスの発散になるはずだったのだ。
しかし、それを俺が一人で始末してしまった。
文句を言う気持ちもわかる。
だが、俺にも反論はある。
「だが、他にも魔物たちはいただろう? おそらくだが、普通の上位種もいたと思うが……」
「いたけど、大したことはなかったわ」
「そうね。普通のやつと同じようにあっさりと倒しちゃったわ」
「なるほどな」
どうやら二人にとって、普通の上位種はもはや雑魚と同じ扱いの様だ。
まあ、それは当然か。
普通の上位種は近接戦闘が不得手のシリウスやレヴィアでも一人で倒すことができるほどの強さしかない。
もちろん、何の対策もしていないわけでもないが、決して強いわけではない。
そんなレベルの相手では二人のストレスを発散することができなくなったわけだ。
「そういえば、おかしくないかしら?」
「何かあったの?」
不意にティリスが疑問を口にする。
その言葉にアリスは首を傾げる。
どうやらティリスはこの魔物の襲撃をおかしいと感じており、アリスは全く気づいていないようだ。
どうして二人にこんな差があるのだろうか?
同じ脳筋のはずなのに……
「どうして複数種の魔物たちが同時にこの村を襲ったのかしら?」
「? 食料が足りなくなったから?」
ティリスの疑問にアリスが的外れな答えを出す。
いや、普通であれば、さほどおかしな回答ではない。
魔物たちが人間の集落を襲う理由として、食料を得るためという理由は十分にあり得るのだ。
だが、今回はその理由を否定できる条件があるのだ。
「だったら、ゴブリンかコボルドだけのはずだろう? オークの食料が足りなくなったんだったら、ゴブリンやコボルドを狙う可能性があるんだから」
「ああ、そういうこと。弱肉強食と言う奴ね。でも、それならどうしてオークもいるの?」
「それは俺でもわからない」
「何よ。グレインもわからないんじゃない」
「仕方がないだろ。情報も少ないんだから……」
アリスの言葉に俺は反論する。
俺にだってわからないことぐらいあるのだ。
どうして、わからないことを馬鹿にされないといけないのだろうか。
アリスだってわかっていないのに……
「もう一つおかしい事があるわ」
「もう一つ?」
「コボルドの縄張りはここから離れているはずなの。集団行動や隠密性なんかを売りにしているコボルドは森などを縄張りにしているはずだけど、この辺りにそんな森はないわ」
俺とアリスの会話をよそに、ティリスがさらに情報を告げる。
なるほど、アリスとティリスの差はこれか。
二人の魔物への知識の差はさほどない。
だが、ここはすでにビストの国内であるため、地の利があるティリスの方が知識があるわけだ。
決してアリスが劣っているわけではない。
「コボルドが何らかの理由で縄張りから離れ、この地にやってきたと考えるべきか?」
「でも、それがオークやゴブリンと一緒にこの村を襲う理由にはならないでしょ。その2種からすれば、コボルドたちは自分たちの縄張りに入ってきた敵でしかないんだから」
「まあ、そうだな」
ティリスの指摘に納得する。
コボルド種がこの地にやってきたことの理由にはなるかもしれないが、同じ集団でこの村を襲う理由にはならない。
むしろ、余計に謎が深まるだけである。
同時に複数個所で魔物たちが縄張りを離れるような事態が起こっているわけなのだから……
(ボワッ)
「「「っ!?」」」
風を斬り裂く音が耳に入り、俺たちは合図もなく一斉にその場から離れた。
(ドオオオオオオオオオオオオンンッ)
「「「ぐっ!?」」」
先ほどまで俺たちのいた場所に何かが落ち、激しい爆音が周囲に鳴り響いた。
衝撃も凄まじく、思わず防御態勢を取る。
砂煙が晴れ、そこには一本の巨大な斧が突き立っていた。
木こりが気を斬るために使うような斧が可愛らしいと思ってしまうほど、俺の身長など優に超す──先ほどのオークジェネラル並の大きさの戦斧であった。
とても人間が扱うような代物には見えない。
「……」
「……なるほどな」
現れた相手を見て、俺はすぐさま状況を納得した。
どうして異なる魔物たちが同時にこの村を襲ったのか──それは自分達より圧倒的な強者によって支配されていたからである。
そして、その支配していた魔物が……
「【オーガエンペラー】か?」
俺は目の前の魔物を見て、そう推測する。
まさか4種目の魔物が現れるとは思わなかったが、このレベルの魔物がいたのであれば納得のできる情報である。
ゴブリンやコボルドの通常種はEランクであり、上位種とさらに上位種でランクが1段階ずつ上がり、俺が倒した奴らですらCランク級である。
オーク種の通常種はこの2種類よりも一段階上のDランクであり、オークジェネラルはBランク級となってくる。
オーガ種はさらにその上、通常種がCランクである。
このオーガエンペラーは……
「2段階上位種──つまり、Aランク級ってことだな」
「「……」」
俺の言葉にアリスとティリスがさらに集中する。
オーガエンペラーが現れた時点ですでに戦闘態勢に入っていたが、相手の情報を得ることで油断できない相手だと理解したのだろう。
Aランク級の魔物──つまり、滅多に出会うことのできない魔物ということだ。
(ブウウウウウウウウンッ)
オーガエンペラーは自身の得物を持つと横薙ぎに振るった。
それだけなら、先ほどのオークジェネラルと同じ行動である。
だが、その威力は段違いであった。
巨大な武器を勢いよく振るった風圧で周囲の建物が崩壊していく。
とんでもない重量の戦斧にオーガエンペラーの膂力が加わったせいで、凄まじい衝撃波が生まれてしまったわけだ。
「……修復作業が楽になったな」
俺は思わずそう呟いたが、内心では少し心配していた。
別にこの村の建物が壊れてしまうことを心配しているわけではない。
壊れてしまったのであれば、あとで修復すればいいのだ。
建物が倒壊したことによって、村人に被害が及ぶことを心配しているわけではない。
すでに村人たちは俺たちの指示で入り口付近に集まっているはずなので、隠れていて気づかなかったということがなければ、倒壊に巻き込まれることはないはずだ。
いないことを願おう。
問題は想像以上にオーガエンペラーの攻撃の威力が高い事である。
もちろん、直撃しなければ何の問題もない。
どれほど強力な攻撃だとしても、当たらなければダメージはないのだ。
先ほどの振り回す速度を見る限り、手加減している可能性を考慮しても俺たちなら回避することはさほど難しい事ではない。
あくまでも、【俺たちは】である。
「(下手に中心から動いて戦うことはできないな)」
心の中で俺はそう考えた。
おそらく、アリスやティリスも同じ考えに至っているはずだ。
俺たち3人であれば、オーガエンペラーを倒すことはできるだろう。
だが、当然何の被害もないなんてことは不可能である。
もちろん、被害があるのは俺たちではない。
この村に被害があるのだ。
それが建物だけであるならばいい。
村人に被害が及ぶのだけは避けなければいけない。
直撃どころか、衝撃だけで命を落としかねない。
怪我であれば治すことはできても、亡くなった者を復活させることなどいかに【化け物】と呼ばれている俺ですら不可能なのだ。
そのため、できる限り村人に被害が及ばないように中心で戦うしかないわけである。
「(かなり面倒だな。どうやって戦うべきか……)」
オーガエンペラーの攻撃を回避しつつ、俺は思考を巡らせる。
その間にも周囲の光景は広々となっていく。
申し訳ない気持ちもあるが、オーガエンペラーと戦っているせいなので許してもらいたい。
むしろこいつが壊しているのだから、全責任はこいつにかぶせればいいのではないだろうか?
だが、それでもできる限り被害は抑えた方が良いだろう。
「アリス姉さん、ティリス。こいつをとっとと倒そう」
「「了解」」
俺の言葉に二人は頷いた。
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