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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する 【8-2 獣王国ビスト編】
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8-2-15 死んだ社畜は魔物の異種混合集団と排除する 2


 進路上の敵をあらかた片づけた俺は村の中心へとやってきた。

 おそらく、そこに多くの魔物たちが集まっていると思ったからだ。

 その予想は当たっていた。


「「「「「グギャギャッ」」」」」

「「「「「ガルルルウッ」」」」」

「「「「「ブモオオオッ」」」」」


 村の中心にはゴブリン・コボルド・オークの集団が集まっていた。

 たしかにこれは異様な光景である。

 種の違う魔物たちが行動を共にしている──明らかにおかしな話である。

 しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 捕まっている人たちを助けなくては……


「……」

(ブワッ)


 魔物たちの集団に俺は風の刃を放った。

 見えない刃は魔物たちの頭を胴体から切り落とした──と思ったのだが……


「ブモウッ」

「ちっ……やっぱり上位種がいたか」


 俺の放った刃はそこまでの成果を上げることはできなかった。

 オークの上位種であるハイオーク──いや、そのさらに上位種であるオークジェネラルによって風の刃をかき消されたからである。

 倒せたのはせいぜい表面の数十体ほどだろうか?


「グギャッ」

「ちっ……こいつもか」


 いつの間にか接近していたゴブリン──いや、その二段階上位種であるゴブリンコマンダーが剣を振るってくる。

 ゴブリンと言えども、上位種の動きは馬鹿にできない。

 生身で受けようものなら、大怪我を負う可能性もあるのだ。

 損なミスをするつもりはないが……


「グルルッ」

「無駄な知恵をつけやがって」


 ゴブリンとは真逆──つまり、俺の背後からコボルド種の上位種であるコボルドアドミラルが不意打ちをしてくる。

 まさか魔物たちがこんな作戦で襲い掛かってくるとは思わなかった。 

 いや、コボルドだけならまだあり得るだろうか?

 集団行動を得意としている彼らであれば、こういう作戦を立てることは可能なのかもしれない。

 だが、それをゴブリンやオークたちが従うことはあるのだろうか?


「はあっ」

「グルッ」

「ギャッ」


 コボルドアドミラルとゴブリンコマンダーの腕をつかみ、俺は力任せに上へと放り投げた。

 いくら知恵が働こうとも、空中に放り出されてしまえば何もできない。

 このまま一気に畳みかけようとしたが……


「ブモッ」

「ちっ」


 それをもう一体の上位種──オークジェネラルが許さなかった。

 俺の意識を逸らすかのように、下位種たちに指示を出した。

 捉えられていた村人たちに襲い掛かろうとしたのだ。

 俺はそれを防ぐために、水の礫を一気に射出する。

 一つで大きな風の刃では先ほどのようにかき消される可能性があった。

 だからこその判断である。


「すぐに逃げろ。入口に助けられた奴らが集まっているから、そこなら安全だ」

「え?」

「早く逃げろっ!」

「は、はい」


 状況がつかめない村人たちへ怒鳴るように指示を出した。

 この状況が理解できないのは仕方がない事かもしれないが、指示はしっかりと聞いて欲しい。

 俺だって余裕があるわけではないのだ。

 村人たちが逃げることができるように、俺は魔物たちの行動を阻害し続けた。


「ふぅ……これでいいか」


 村人たちが全員逃げたのを確認し、俺は息を吐く。

 先ほどまでは村人たちがいたせいで全力を出すことができなかった。

 俺の魔法に巻き込んでしまう可能性があったからである。

 しかし、巻き込む心配がなくなれば、あとは強力な魔法を放つだけである。

 そう思った俺はすぐに魔力を集中し始めるが……


「「「「「グギャッ」」」」」

「なっ!?」


 魔力を集中しようとした瞬間、ゴブリンたちがいきなり襲い掛かってきた。

 まるで俺の行動を邪魔しようとしているかのようだった。

 ゴブリン程度がそのような行動がとれるのだろうか?

 そんな疑問を感じていたが、すぐにそれすらも考えられなくなる。


(((ヒュッ)))

「くっ」


 俺の死角になる方向から矢が飛んでくる。

 これはコボルドによる攻撃である。

 だが、この攻撃にもおかしな点がある。

 たしかにコボルドはゴブリンと違って遠距離武器を使うことはあるが、ここまで上手い事扱えるわけではなかったはずだ。

 せいぜい遠距離から相手に向かって放つぐらいであり、俺の行動を阻害することが目的のような放ち方はできなかったはずだ。

 この異様さの原因は……


「上位種の存在か?」


 俺はその結論に辿り着く。

 上位種の存在は下位種の統率を可能とする。

 強い者が弱い者を支配する──野生ではその傾向が顕著であるのだ。

 通常の二段階上位種がいることから、これほどの統率ができているのもあながちあり得ない話ではない。

 だからといって、他種族の魔物たちが共闘していることの説明にはならないのだが……


「とりあえず、雑魚から殲滅するとするか。【灼炎武装(フレイム・アームド)】」


 俺は炎の鎧で全身を包む。

 そして、両手から延ばした炎の鞭で周囲の魔物たちを一気に燃やし尽くす。

 だが……


「やっぱり上位種はそう簡単には倒されてはくれないか」


 予想していた光景ではあったが、俺は落胆の声を漏らす。

 そこにはピンピンとした様子の上位種たちの姿があった。

 下位種と一緒にやられてくれると思っていたが、そう簡単にはいかなかった。

 といっても、俺が下位種たちを殲滅したことによって怒っているようだが……


「まあ、そんなことは関係ないがなっ!」


 俺はその場から一気に駆け出す。

 最初の狙いは……


「ガッ!?」

「まず一匹目」


 コボルドアドミラルの顎に掌底をぶち込む。

 そして、両手で相手を挟み込み、そのまま地面に投げ落とす。

 地面にぶつかった衝撃と首の骨を折られたことにより致命傷を与えたはずである。

 この戦いにおいて、一番厄介だったのがこのコボルドアドミラルである。

 三種の中で最も器用であり、様々な方法で戦うことができる。

 中・遠距離から援護でされることは非常に面倒だったので、先に潰させてもらったのだ。


「ギギッ」


 背後からゴブリンコマンダーが襲い掛かってくる。

 俺がコボルドアドミラルに集中していると思っていたから、チャンスだと思ったのだろう。

 その思考は間違っていない。

 だが、その判断は間違っている。


(ブシャッ)

「グギャッ!?」

「二匹目」


 ゴブリンコマンダーの腹に穴が開いた。

 もちろん、俺の仕業である。

 地面に魔力を流し、土の針を造ったのだ。

 まあ、針と言っても注射針のような生易しい大きさではなく、まるで柱のような太さの針ではあるが……

 そのせいでゴブリンは腰のあたりで二つに分かれそうになっていた。

 ギリギリ皮一枚でつながっているようだが、すでに絶命しているので関係はないか。


「さて、あとはお前だけだな」

「ブモオッ!」


 俺の言葉にオークジェネラルがキレたように雄叫びを上げる。

 そして、そのままの勢いで襲い掛かってくる。

 オーク種は他の二種と違い、かなりの重量がある。

 他の二種が10歳の子供と同じような大きさであるが、オーク種は人間の大人──しかも、でかめの大人並なのだ。

 身長2m超・体重3桁と言われれば、その大きさも理解できるだろう。

 そんな体のオークジェネラルが質量任せに襲い掛かってくるのだから、かなり恐怖を感じてもおかしくはない。

 いくら成長したとはいえ、まだ12歳の体の俺からすれば圧倒的な対格差に見える。

 といっても、その対格差に驚くことはない。

 なんせそういう対格差は子供のころから慣れているのだ。


「ブモウッ」

(ブウンッ)


 オークジェネラルは持っていた金属製の斧を横薙ぎに振るう。

 しかし、その攻撃が俺に当たることはなかった。

 相手の脚の間から背後に回っていたからだ。


「おらあっ」

(ドンッ)


 無防備な背中に蹴りを入れる。

 だが、流石はオークジェネラルである。

 よろめくだけで、すぐに反撃をしてきた。

 体が大きいだけあって、耐久力も備えているのだ。

 だが、すでに遅い。


(ガッ)

「ブモッ!?」


 オークジェネラルは自身の脚が動かないことに驚く。

 下を向くと、そこには土で拘束された自身の脚があった。

 それは俺の仕業である。

 俺が奴の脚の間を潜り抜ける際に、拘束しておいたのだ。

 それに気づいたオークジェネラルは悔しげな表情を浮かべた──ような気がした。

 流石に魔物の表情などわかるはずがないし……


「これで3匹目だな」


 起き上がれないオークジェネラルの背後から首に手を当て、そう告げる。

 ゴロっと地面に頭部が転げ落ち、少ししてから溢れるように液体が地面にあふれ出てきた。






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