表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第三章 小さな転生貴族は怪物たちと出会う【少年編2】
61/618

閑話3 メイドは奥様に教えを請う

※3月9日に追加しました。


「この度はありがとうございました」


 リュコは深々と頭を下げた。

 感謝の気持ちを伝えるのに自然と体が動いてしまった。


「別に良い。リュコは家族だから、助けるのが当然」


 クリスはいつも通り無表情に答える。

 だが、どこか優しげな雰囲気を感じる。

 何年も同じ屋敷で過ごしてきたからだろうか、些細な表情の変化がわかるようになってきた。


「そもそもグレインが解決したから、私たちに感謝することはないわね」


 エリザベスが苦笑しながら告げる。

 その言葉にリュコは反応する。


「そんなことはありません。グレイン様がこのように行動するのは、奥様たちの教育の賜物です」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、言い過ぎじゃないかしら?」


 まっすぐにエリザベスは恥ずかしくなる。

 教育はしっかりしているつもりだが、褒められるためにやっているのではなかった。

 なので、こうやって褒められるのは彼女にとってむずがゆかった。


「それで勝手なお話ではありますが、また魔法を教えていただけますか?」


 謝罪の態度とは一転、リュコは不安そうな表情で確認する。

 彼女は何度も魔法の授業を断っていた。

 体調不良などと理由をつけていたが、実際には違う。

 ルシフェルに【忌み子】と呼ばれる前から自分が異質な存在であることを認識し、それを表す魔法を使うことに忌避感を抱いていた。

 なので、魔法の授業を避けてしまっていた。

 自身の存在を受けいることができた今、再び魔法の授業を受けたいと思ったのだ。


「もちろん……と言いたいところだけど、私は難しいわ」

「えっ⁉」


 クリスの言葉にリュコは驚く。

 だが、すぐに当たり前だと思い、悲しげな表情になった。

 そんなリュコをクリスは慰める。


「別にリュコを許していないから断ったんじゃないわ。私の力不足よ」

「どういうことですか?」


 リュコは思わず聞き返す。

 クリスは魔法の技術は優れているし、教え方も非常に上手い。

 だからこそ、リュコの指導を受け入れていたはずだ。


「すでに魔法の基本的な部分は教えているわ。あとは個人の資質に合わせた訓練を行うだけなの」

「そうなんですか?」


 すでに基本的な内容が終わっていることにリュコは驚いた。

 習い始めてから2年も経っていないのに、そんなに進んでいるとは思っていなかった。


「リュコの資質は魔法を織り交ぜて戦闘を行う魔法戦士型……つまり、私のような魔法を放つことに特化した魔法使い型とはまた違うわ」

「専門ではないから教えられない、と?」

「というより、専門家がいるの」

「はい?」


 リュコは呆けた言葉を漏らす。

 クリスを差し置いて、専門家と呼ばれるのは誰なのだろか?


「私よ」

「エリザベス様ですか?」


 名乗りを上げたエリザベスにリュコは驚きを隠せない。

 魔法の授業をする際、教えるのには向いていないと言っていたはずだ。

 どういうことだろうか?


「たしかにリズは魔法を感覚で使うタイプだから、基本を教えるのには向いていないわ。でも、これからは実践的に魔法を使っていく──理論を教える必要がないの」

「つまり、理論的な説明をしなくていい、と」

「そういうこと」


 理解したことを確認し、クリスが頷く。

 しかし、リュコはまだ完全に疑問は解消していなかった。


「ですが、エリザベス様も魔法使い型なのでは?」


 純粋な疑問を口にする。

 炎の魔法を使っている様子から、魔法使い型だと判断した。

 それをエリザベスは否定する。


「両方できる、といった方が正しいわね。冒険者時代は元々魔法戦士型でやっていたけど、アレンたちと冒険するようになってからは魔法使い型になったの」

「ああ、なるほど……」


 リュコも納得することができた。

 アレンは近接戦闘をメインに戦うので、魔法戦士型だと役割がかぶってしまう。

 それを避けるために、魔法使い型になったのだろう。


「ですが、私にできるでしょうか?」


 リュコは不安な気持ちを口にする。

 魔法戦士型についてほとんど知識はないが、応用である以上簡単なものではないはずだ。

 いくら魔族の血が流れていても、獣人の血も流れている自分にできるのだろうか、と。


「それは問題ない。私の授業でやったとおりにすれば、きっと身につくはず」

「本当ですか?」


 クリスの太鼓判をもらい、リュコの表情は明るくなる。

 そんな彼女にエリザベスも告げる。


「獣人の部分が魔法戦士型と相性がいいわ。純粋な魔法使い型と違って、体を動かさないといけないの」

「たしかに……」


 自身の不安な部分を利点に変えられ、リュコは納得した。

 そう言われると、自分でもできるような気がしてきた。


「厳しい授業になるけど、しっかりついてきなさい」

「はい、わかりました」


 エリザベスの発破にリュコは元気に返事をする。

 ここまで言ってもらえたのだから、その期待に答えたい。

 それが二人──いや、カルヴァドス男爵家への恩返しになるとリュコは考え、覚悟を決めた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ