閑話2 王族の次女たちは警戒する
※3月8日に追加しました。
「「……」」
「あの……どうかされました?」
ティリスとレヴィアにじっと見られ、リュコは居心地の悪い思いをしていた。
何かしてしまったのではないかと思ったが、リュコの記憶にはない。
しかし、気付かぬうちに二人の気に触ることをした可能性もあったので、確認のために聞いてみたわけだ。
「あなたがグレインの正妻なの?」
「へ?」
ティリスの口から予想外の言葉が出たので、リュコは呆けた声を漏らしてしまう。
「エリザベス様とクリス様が話していました。グレインくんの一番の寵愛を受けているのがリュコスさんだって……」
「な、何を言っているんですかっ!」
レヴィアからとんでもないことを言われ、リュコは思わず叫んでしまう。
相手が王女であることも忘れてしまうぐらいだった。
「だって、あなたが走って行ったとき、一番に追いかけていったのはグレインだったよ」
「そうですね。その場の空気で誰も動けなかったのに、グレイン様だけは違いました」
「……」
自分が立ち去った後のことを言われ、リュコはなんとも言えない気持ちになった。
グレインが追いかけてくれたことは嬉しかったが、まさかそのせいでこんな誤解を生んでしまうとは……
とりあえず、誤解は解かないといけない。
「私はグレイン様の専属メイドです」
「でも、婚約者なんでしょ?」
ティリスがすぐに反論する。
だが、リュコにとっては想定内であった。
「あくまで口約束です。奥様たちはそのつもりですが、グレイン様の気持ちが最優先です」
「グレイン君も乗り気だと思う」
「そんなことは……」
「だからこそ、すぐに追いかけていったんでしょ?」
「うっ」
「しかも、仲良く手をつないで帰ってきた」
「……」
レヴィアの指摘にリュコは言葉を失う。
貴族の子供がメイドを本気で婚約者にしようとしない──常識的な理由で否定しようとしたが、それでは丸め込めなかった。
むしろリュコが否定できない証拠を出されてしまう。
どうやって反論しようか悩んでいると、ティリスが話しかけてくる。
「別にアタシたちは非難するつもりはないよ」
「え?」
「好きになる気持ちは自由だよ。身分の差があっても、お互いが幸せになればそれでいいと思う」
「それは……」
ティリスの言っていることは理想ではある。
しかし、身分の差が現実的な問題となってくる。
「そもそも男爵家とメイドで問題なら、男爵家と王族の方がもっと問題でしょ?」
「……たしかに」
その指摘にリュコは納得してしまう。
下級貴族が平民と結婚する話はたまに聞くが、王族と下級貴族が結婚する話はほとんどない。
それほどまで身分差があるからだ。
「そもそも私たちはリュコスさんと仲良くなりたいの」
「どういうことですか?」
レヴィアから告げられた言葉の意図をリュコは理解できなかった。
魔王と獣王の次女がどうして男爵家のメイドと仲良くなりたいと思うのだろうか?
「せっかく同じようにグレイン君の奥さんになるんだったら、仲良くするべきだと思うの。自分が一番愛されたいと思う気持ちもわからないではないけど、私たちが喧嘩するとグレイン君は悲しむと思うの」
「……そうですね」
リュコは頷く。
グレインは規格外の天才ではあるが、優しい人物であることは近くにいるリュコが一番知っている。
身内同士が争うことは、彼の心を傷つけてしまうはずだ。
「だから、これからよろしくね、リュコスさん」
「リュコとお呼びください。親しい人は愛称で呼んでくださいます」
「なら、私もレヴィと呼んで。敬語もなしで」
「それはちょっと……」
レヴィアの提案を拒否しようとするリュコ。
「仲良くしてくれないの?」
「う……ですが、メイドが王女様を愛称で呼ぶのは……」
「まあ、最初は戸惑うわね……じゃあ、身内だけのときは愛称で呼ぶように練習しましょう」
「それなら……」
「ちなみに、1回敬語を使うごとに罰ゲームね」
「なっ⁉」
とんでもない条件を後につけられ、リュコは驚いてしまう。
思わず反論しようとするが、それをティリスに遮られる。
「じゃあ、アタシのこともティリスだな。よろしく、リュコ」
「……わかりました。レヴィ、ティリス」
断れないと理解したリュコは仕方なく要求に従った。
愛称で呼ばれた二人は嬉しそうな表情を浮かべた。
こうして三人の奇妙な関係ができあがった。




