8-1-15 死んだ社畜は嫌な顔を浮かべる
「流石の【反国王派】もキュラソー公爵家に表立って逆らうことはできないでしょうね。そんなことをすれば、ほぼ確実に潰されてしまう」
「ああ、そういうことだ。といっても、いつまでもそれが続かないがな」
「というと?」
俺の言葉に納得しつつも、国王が否定する。
思わず聞き返してしまう。
「たしかにキュラソー公爵家で匿うことは政治的な意味では最強の防御と言えるだろう。だが、同時に諸刃の剣ともなり得る」
「諸刃の剣?」
「「キュラソー公爵家がシャルロットを次期国王にしようと画策しているのでは?」という噂を立てられかねないことだよ」
「っ!?」
国王の言葉に俺は驚く。
そんな俺の反応を見て、国王はニヤリと笑う。
「あり得ない話ではないさ。それほどまでにキュラソー公爵家の力は大きい」
「ですが、公爵家はそのようなことを考えていないのでは?」
「ああ、そうだろうな。だが、そんなことは他人が判断できることじゃない。公爵家が否定したとしても、それを他の人間が真実だと証明することはできないさ」
「つまり、勝手に罪を捏造される可能性がある、と?」
説明を聞き、俺は最悪の結論に辿り着く。
普通に考えれば、あり得ない話だろう。
だが、それはあくまでも俺の常識で語った場合だ。
立場や状況が違えば、見えてくるものも違ってくる。
国王の視点から見れば、先ほどのような結論に辿り着くわけだ。
「まあ、それもすぐの話ではない。だが、ずっとシャルロットを匿ってもらっていれば、いずれはそれを決定事項だと話される可能性が高いわけだ」
「……安全だからこそ、真実味を持っているわけですね。シャル嬢をそこまで守っているということは、絶対に次の国王になってもらいたい、と」
「正直、馬鹿なことを考えているな、とは思うがな。私からすれば、シャルロットは国のトップに向いていないぞ? もちろん、娘であることは理由から省いている」
「どういうことですか?」
国王の言葉に俺は首を傾げる。
シャル嬢が国王に向いていない、何故そう言い切れるのだろうか?
少なくとも、ボンクラの王子達よりはよっぽどましだとは思うが……
「シャルロットは人の上に立つタイプではないのだよ」
「それは……なんとなくわかりますね」
国王の言葉を俺は肯定する。
たしかにシャルロットは人の上に立ち、命令をするタイプではないかもしれない。
性根が優しいせいか、人の助けを率先としてするタイプのように思える。
だが、それは【聖属性】の魔法を使う者としてはぴったりかもしれない。
国のトップとしては、不適格かもしれないが……
「シャルロットのことを知れば、人は集まってくるかもしれない。優しいからな……」
「上から命令することが向いていなくとも、周囲に優秀な人間を固めればいいのでは?」
「それも難しいな。ある程度の数なら集めることはできるかもしれないが、必ず反対する者が一定数現れる。そうなると、向いていないシャルロットに仕事が続けられるとは思わんな」
「……」
思いついたことを発現するが、国王に否定される。
たしかに、その通りである。
やはり国のトップというだけあって、俺のアイデアなどあっさりと否定されてしまう。
流石にこの道のプロに納得できるようなアイデアを出せる気がしないな。
「とりあえず、私はシャルロットを国王にするつもりはない。だが、シャルロットの命は守ってやりたいと思っている」
「親として、当然のことですね」
「だが、この状況はいずれ破綻してしまう。だからこそ、その前に一緒に留学に行ってもらいたいわけだ」
「それは理解できました……ですが、意味があるんですか?」
「何がだ?」
どういう計画なのかは理解できた。
だが、それは攻撃される方向が変わっただけではないだろうか?
「キュラソー公爵家への攻撃が減るでしょうが、矛先が俺の方に来るのでは? いや、俺自身は気にしませんけど……」
「ああ、それなら大丈夫だろう」
「大丈夫、ですか?」
俺の言葉を聞き、国王はまったく心配する様子もなかった。
そんなに心配することでもないのだろうか?
「キュラソー公爵家に匿われているのと違い、他国へ留学することは次の国王になるための布石と考える者は少ないだろう。たとえ、そういう噂を流そうとしたとしても、信じる者はいないはずだ」
「……なるほど」
「それに一緒に行っているのはカルヴァドス男爵家の人間だ」
「それがどういうことに?」
国王がうちの家名を出してきた。
だが、どうしてここでそれが出てくるのかが分からない。
疑問に思う俺に国王は説明を続ける。
「護衛としては最適の人選だろう。だが、政治的な意味では何の意味もない……むしろ評価が下がると言っても良いだろうな」
「評価が下がる、ですか?」
国王の言葉に若干イラっとする。
うちを馬鹿にされた気がするのだ。
いや、これは勘違いではないはずだ。
しかし、国王は俺の様子に気づいていないのか、説明を続ける。
「公爵家と行動をしていれば、次の権力のための布石と考える者も多いだろう。だが、中枢の政治と全く関係のない男爵家と仲良くしていて、誰が次の国王を狙っていると考える?」
「む?」
国王の説明を聞き、俺は気が付く。
そう考えると、たしかに評価が下がるのかもしれない。
権力を狙っている者なら、上位貴族と交流するこそすれ、下位貴族──男爵家と交流することなどないのかもしれない。
「というわけで、君が最適なわけだ」
「なるほど、理解しました」
「シャルロットのことを頼んだ」
「わかりました」
国王の考えが理解でき、俺は受け入れた。
適任である以上、俺がやるべきなのだろう。
これは仕方のない事なのだ。
俺以上の──いや、俺並に──それどころか、満足に仕事をこなせる人選ができなさそうだし……
「あ、それともう一つ」
「なんですか?」
「シャルロットに手を出したら、私の権力のすべてを使ってでも潰すからな?」
「……」
国王の最後の言葉に俺のやる気は削がれてしまった。
いや、受けた以上は仕事をこなすけどね。
国王は俺のことを一体何だと思っているのだろうか?
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シャルロット様はグレインのヒロインではありません。(念押し)




