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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第三章 小さな転生貴族は怪物たちと出会う【少年編2】
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閑話1 親父たちの飲み会

※3月9日に更新しました。


「「「乾杯っ!」」」


 村で唯一の酒場──【フォアローゼス】に珍しい客──アレンが来ていた。

 貴族なので庶民向けの酒場に来ないと思われているが、たまにこっそりと飲みに来るのだ。

 基本的にいつも一人なのだが、なぜか今日は連れがいた。


「流石はお前の子供たちだな。全員、将来が楽しみだぜ」

「ええ、そうですね。上の二人は魔法と近接戦闘それぞれに特化し、グレイン君はその両方の天才。カルヴァドス男爵家の将来は安泰でしょうから、羨ましいですよ」

「しかも、まさかあんな隠し玉まであるとはな・・・・・・」

「【聖属性】と【闇属性】なんて、私も久しぶりに見ましたよ。思わず興奮してしまいましたね」


 獣人と魔族──リオンとルシフェルは酒を飲みながら、羨ましそうに口にする。

 酒が入っているため、社交辞令ではなく本心から言っている。


「確かにそうかもしれないが……現実はそうもいかないな」

「そうなのか?」

「ああ。シリウスとグレインなんだが、どちらもこの領地を継ぐ気がないようだ」


 アレンがため息をつきながら、不満を漏らす。

 自分の息子たちが後を継ごうとしていないことが心配なのだ。

 彼らならば自分の後を継がなくとも今後生きていくこともできるだろうし、むしろ男爵家という枷を外すことでより大きな人間に成長できるとすら思っている。

 しかし、親としてはぜひ継いでほしいと思ってしまう。


「それは貴方自身が貴族の仕事が面倒だと思っているからじゃないですか? そういうのは子供にも伝わりますからね」

「それは仕方がないだろう。だって、俺は元冒険者で頭を使うよりは体を動かす方が得意なんだから」

「それなら私たちだってそうですよ? この脳筋だって国を一つ治めているんですから、たかが男爵家程度治めるのは簡単でしょう?」

「そんなに簡単じゃねえよ。というか、むしろどうしてお前たちが国を治められているのかが気になるよ」


 ルシフェルの言葉にアレンは嫌そうな顔を浮かべる。

 実はリオンとルシフェルも元冒険者なのだが、経緯は知らないがいつの間にかそれぞれの種族の頂点に立っていた。

 アレンも男爵に叙爵されたが、同じような二人が国を治めていることが今でも信じられない。

 ルシフェルは魔法馬鹿ではあるが頭はいいので国を治めることは可能だと思うが、リオンはそうではない。

 自分と同じぐらい──いや、自分以上の脳筋だからだ。

 きちんと国を治められているのか心配になってしまう。


「まあ、私もリオンがどのように国を治めているのか気になりますね。反乱などが起こっているようにも見受けられませんし、一体どんな手を使ったんですか?」

「あ? んなもん、反乱分子とかが現れたら、そのトップに直接会ってぶっ飛ばせばいいだけだろう?」

「「……」」


 まさかの力技だった。

 実力主義のビストならではの解決方法なのだろう。

 普通の国ではそんな解決方法では当然解決できない。

 そんなことをすれば確実に自分の身を危険にさらしてしまうからである。

 国のトップであるもののする行動ではないと思う。


「内政の方は周りの奴に任せているさ。俺はそういうのはわからないから、そいつらが決めたことを俺が代表して公表している感じだな」

「それは大丈夫なのですか? もし、その中に悪い考え持つ者が現れれば、あなたを陥れることぐらいできると思いますが……」

「それは心配ねえよ」

「どうしてですか?」


 力強いリオンの言葉にルシフェルは首を傾げる。

 他人任せのリオンがどうしてはっきり言えるのかが疑問だったからだ。

 そんな彼の疑問にリオンは自信満々に答える。


「そりゃあ、俺が信頼して選んだ奴らだからだ。といっても、直感で選んだんだがな……はははっ」

「「……」」


 あまりのトンデモ理論に思わず言葉が出なくなる。

 自分の国の政治を任せるのに、直感で部下を決めるなど非常に危険である。

 ルシフェルは自分にはできないことだと思ったし、アレンも流石にその方法はどうかと思った。

 だが、そんな二人の反応にもどこ吹く風でリオンは笑う。


「問題が起きてないんだからいいじゃないか」

「いや、今は起きてなくても、そのうち起きるんじゃ……」

「その時はその時だ。そいつを俺が殴ればいいだけだろう」

「「……」」


 本当に実力主義でいいのだろうか、二人はそう思ってしまった。

 しかし、これでうまくいっているのは事実なので、国の在り方の一つの形なのかもしれない。


「そういえば、二人とも本当にいいのか?」

「「なにがだ?」」

「いや、グレインに娘をやって……」


 アレンは少し心配していたことがあった。

 グレインは天才だがまだ6歳、婚約者を決めるのは……早くはないが、王族の娘が選ぶほどではないと思っていた。

 その場のノリで既成事実を造らせることには賛成したが、男親としては娘を奪われたときの気持ちはわかる。

 自分だって、娘に好きな人ができたら相手と殴り合うもりだ。

 だが、返ってきたのは予想外の返事だった。


「問題はないぞ。むしろ、ティリスを大人しくさせてくれたグレインには感謝しているぐらいだ」

「こちらもですね。レヴィアがあそこまで自分の意見を言うようになったのもグレイン君のおかげです。流石に娘の希望をないがしろにはできませんよ」

「だが、二人共いわば王女様だろう? 継承権とかは……」


 二人の反応に娘をやること自体に怒ってはいないが、それ以外に気になることを聞いてみる。

 これは自分も悩んでいることなので、聞いておきたかった。


「「息子がいるから大丈夫だ」」

「ああ、そうか」


 二人の言い分に納得する。

 そういえば、この二人には息子がいたことを忘れていた。

 男の子供がいれば、問題はないのかもしれない。


「まあ、親としては娘の幸せを願っているが……」

「一つ心配事があるんですよね……」

「グレインが何かしたのか?」


 二人の表情が真剣なものに変わったので、アレンは少し焦ってしまう。


「あれほどの才能の持ち主だ……今後も好きになる奴が増えるんじゃないのか?」

「そうですよ……現時点でリュコスさんも彼が好きみたいですし、今後は何人増えるか……娘の競争相手が多くなるのは心配なんですよ」

「ああ……そういうことか。だったら、心配はねえんじゃないのか?」

「「なんで?」」


 アレンの言葉に今度は二人が首を傾げる番だった。

 なぜ、ここまで自信満々に言えるのか、それが気になったからだ。

 そんな二人の疑問にアレンははっきりと告げる。


「あいつは惚れた女の子が増えたからと言って、元々いた女の子をないがしろにする奴じゃねえよ。全員を平等に扱おうとするはずだ」

「なるほど……ハーレム野郎ならではの理屈ですね」

「流石は元祖ハーレム野郎だ。言うことがいちいち男前じゃねえか」

「……ハーレム野郎と言うなよ。俺は二人しか嫁がいねえんだから」


 良いことを言ったつもりが飛んだ悪口を言われ始めたので、思わず反論してしまう。

 だが、二人はあっさりと否定する。


「冒険者時代、女性冒険者に何度お前を紹介してくれと頼まれたか……」

「私はギルドの受付嬢から宿屋の娘さん、武器屋の奥さんにまで頼まれたことありますよ?」

「……」


 二人の言葉にアレンは黙らざるを得なかった。

 彼自身はあまり気付いていなかった……いや、気付かないふりをしていたが、アレンは冒険者時代にかなりモテていた。

 といっても、あの頃は仲間と冒険すること自体を楽しんでいたので、女性と楽しむという考えがなくハーレムが築かれることはなかった。

 だが、周囲の男どもからすればかなりモテるやつだったので、【ハーレム野郎】というのがアレンのあだ名として定着していたぐらいだ。

 当然、その息子のグレインにはその素質があるだろうから、問題はないと二人は判断した。


「まあ、とりあえずそれぞれの子供たちの今後の幸せを願ってもう一回乾杯しようか。乾杯っ!」

「「乾杯っ!」」


 リオンがジョッキを掲げると、二人もそれに合わせてジョッキを掲げる。

 ジョッキ同士がぶつかる音が鳴るが、ここは酒場──その程度の音などすぐにかき消されてしまった。

 こうして3人の親自体の飲み会は次の朝日が昇るまで続いた。


 翌朝、ほろ酔い心地で屋敷に戻ると、妻と部下たちによって正座をさせられることになった。






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