8-1-6 死んだ社畜は慰める
「とりあえず、シリウス兄さんの氷の支配下でアリス姉さんは自在に動くことができ、相手の動きを防ぐことができるわけだ」
「そこでアリスがどんどん攻撃できるし、僕も魔法で攻撃できるわけだな」
「そういうこと」
シリウスは理解できたようだ。
アリスではなく、シリウスがここまで理解できないのは珍しい。
まあ、明らかに常識はずれなことを言っているので、それも仕方がないのかもしれないが……
「とりあえず、練習をしてみるしかないかな?」
「そうだね。実戦でいきなりできるようなことでもないだろうしな」
「でも、実戦で使えるの? 聞いた感じ、使いどころ自体かなり限られているけど……」
シリウスがそんなことを聞いてくる。
意味があることなのか、不安なのかもしれない。
そんな彼に伝えることは一つだけだ。
「ほとんど使うことはないだろうな」
「ええっ!?」
はっきりと告げるとシリウスが驚きの声を漏らす。
先ほどまでの話は何だったんだ、と思っているのだろう。
「使えないんだったら、なんでそんな提案をしたの?」
「シリウス兄さんの考えていた魔法を改良したら、そうなっただけだぞ? 少なくとも、それよりは確実に使い勝手は良いはずだ」
「うぅ……そうかもしれないけど、僕が最初に考えていたのはもっといろんな場面で使えていたはずなのに……」
「それはあくまでも理想だろ? 実際に使うとなると、予想通りにならないことの方が多いんだよ」
「むぅ」
俺の説明にシリウスは納得できない表情を浮かべる。
だが、これは仕方のない事なのだ。
シリウスの考えている方法が実際に使うことができていたのなら、それはそれでいい事ではあった。
しかし、シリウスが考えていたのは理想であって、実際にできることとは話が別なのだ。
いや、実現自体は可能なはずだ。
だが、実現した時のコストを考えるなら、やらない方がマシの可能性が高いわけだ。
「実際に使う場面となると、大規模戦闘とか戦争かな?」
「大規模戦闘はともかく、なんで戦争?」
「相手が個々で動くことが少ないからだな。基本的に集団で行動することが多くなるから、それを一纏めで魔法の支配下に置くわけだ」
「理屈はわかるけど……それって、僕も個々で動けないよね?」
「そうだな」
「じゃあ、意味ないじゃん」
「戦況が荒れていたらわからないぞ? 指揮系統が乱れていれば、自分の意思で行動しないといけないわけだから」
「いや、そんな状況になる前にどうにかしようとするよ」
「戦争は何が起こるかわからないはずだ」
「そんな最悪の想定はしたくないよ」
俺の説明に反論をするシリウス。
まあ、常に最悪を想定して行動するのは精神的にきついだろう。
だが、常にいいように考えるのもあまりよくない。
悪いことが起これば、咄嗟の対処ができない可能性があるからだ。
悪い方を考えるのに越したことはない。
とまあ、そんなことを話しているが……
「そもそも戦争なんてそう簡単に起こらないから、考えても無駄かな」
「そうだね」
俺の言葉にシリウスも頷く。
最後に戦争が起こったのは40年以上前のはずだ。
多少の小競り合いはあるかもしれないが、ここまで平和が続いている。
別に戦争が起こらないと言っているわけではない。
だが、戦争が起これば、様々なものが消耗してしまう。
40年も昔といっているが、その年月が消耗を完全に回復しているかというと決してそうではない。
そのことをわかっている為政者なら、無理矢理戦争を起こそうとはしないだろう。
そうでない為政者もいるとは思うが……
とりあえず、戦争の話はやめよう。
実際に体験したことはないが、話しているだけでも気が滅入ってくる。
「それと、冒険者としての活動でも使う場面はないだろうな」
「そうなの? 相手が集団だったら、使えそうなものだろうけど……」
俺の言葉にシリウスがそんなことを言う。
おそらく、集団で行動する魔物がいるのだから、それを相手に使うことができると思っているのだろう。
結論として、それは間違っていない。
だが、それはあくまでも使うことができる場面、というだけだ。
「集団で行動する魔物はどんな魔物だ?」
「え? えっと……あまり強くない魔物?」
「そうだな。そんな魔物に消耗の激しい魔法は?」
「……使わない」
俺の言葉にシリウスの声が小さくなる。
自分の考えが駄目なことに気づいたのだ。
「でも、強い魔物でも集団で行動することも……」
「そんな魔物が現れたら、うちのパーティーのメンバーたちはどう行動する?」
「……」
反論しようとするが、俺の指摘にシリウスは黙ってしまう。
強い魔物と出会った時のことを考えたのだろう。
強い魔物が現れれば、率先して戦おうとする者が二人いる。
そして、その二人が接近戦をすることになるから、そんな状況で先ほどのような魔法を使うことはできない。
アリスだけならまだしも、ティリスがいる状況ではまず使えないと考えた方が良いだろう。
「まあ、どこかで役立つ場面もあるかもしれないから、練習ぐらいはしておくべきじゃないかな」
「うん、そうする」
せっかくの魔法を使うことを諦めざるを得ず落ち込んでいるシリウスに俺はそんなことを言うしかできなかった。
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