8-1-4 死んだ社畜は魔法使い組と話す
「グレイン、いいかな?」
「シリウス兄さん?」
アリスとティリスとの会話が一区切りしたのを確認したのか、シリウスが話しかけてきた。
彼の後ろにはレヴィアもいた。
この二人もこの二年で成長をした。
レヴィアはおどおどとした雰囲気がほとんどなくなり、優しく相談に乗ってくれるお姉さんのような雰囲気を醸し出していた。
困ったことから助けてくれるお姉さんタイプのティリスとは対照的と言えるだろう。
天真爛漫と言っていいかはわからないが、自分の思ったように行動して周囲を引っ張っていくアリスとも違うタイプだな。
そして、シリウスの方はと言うと……一体、どこを目指しているのだろうか?
いや、これについてはシリウスの責任ではない。
遺伝子が悪いのだ──いや、それだとアリスも同じようにならないか?
遺伝子も同じ、育った環境も同じ──なら、何が原因なのだろうか。
まったく理屈が分からない。
だが、とりあえずシリウスはこの四人の中で最も美人に育ってしまった。
多少の好みの違いから、人によって一番の美人は変わっていくだろう。
しかし、シリウスは好みの範囲からは当然の一位、他の好みからの評価でも高い評価を得ている。
本当にどうしてなんだろうか?
まあ、この話はしなくていいか。
シリウスがまた落ち込んでしまうだろうし……
「ちょっと新しい魔法を考えてみたんだけど、見てくれない?」
「別にいいよ」
シリウスの言葉に俺は頷く。
アリスとティリスが俺との直接の訓練をするのに対し、シリウスとレヴィアは魔法発明の方に力を入れていた。
アリスとティリスが実戦での実力を上昇させるのに対し、シリウスとレヴィアは実戦で使うことのできる手段を増やそうというわけだ。
それぞれの特性を理解した効率的な訓練方法と言えるだろう。
「【氷結飛銃】」
シリウスが呪文を唱えると、彼の周囲に複数の氷の塊が現れた。
直径が大体20センチほどだろうか、それが10個ほど宙に浮かんでいた。
一体、何をするつもりな名のだろうか、目の前の光景の意図が理解できずに見ていると──変化は急に起きた。
(((((ガガガガガガガッ)))))
「「「っ!?」」」
氷の塊が動き回ったかと思うと、いきなり氷の礫を放ち始めたのだ。
その光景に俺だけでなく、アリスとティリスも驚いた。
魔法を使っているシリウスだけでなく、レヴィアは驚いていなかった。
二人で実験をしていたのだから、当然その内容を知っていたのだろう。
「どうかな?」
一通り見せたのだろう、氷の礫を放ち終わるとシリウスが話しかけてくる。
俺の目から見て、どのような評価をするのか気になったのだろう。
そんなシリウスに伝えるのはこの一言だ。
「駄目だな」
「「っ!?」」
バッサリと俺が切り捨てると、アリスとティリスが驚く。
二人はシリウスの魔法を凄いと思ったのだろう。
それなのに、どうして駄目だと思ったのか、と。
「やっぱりか」
「流石にそうですよね」
しかし、シリウスとレヴィアはそう言われるのはわかっていたようだ。
流石に二人はこの魔法の欠点を理解できているようだ。
むしろ、それを俺に聞きに来たのかもしれない。
「一見すると、空中から攻撃することのできる良い魔法かもしれない。だが、シリウス兄さんから離れてしまっているせいで、魔力の効率が最悪だな」
「そうなんだよね。正直、効果に見合わない魔力を消費している。普通の人なら、まず使うことすらできないよ」
俺の言葉にシリウスが頷く。
この魔法の欠点の一つ目──氷の塊シリウスから離れてしまっているせいで、彼との魔力のパスがかなり希薄になってしまっているのだ。
魔力は使用者本人に近ければ近いほど、強いパスに繋がれている。
離れてしまっていれば、当然希薄になってしまう。
遠隔操作ができる代わりに性能がかなり落ちてしまっているわけだ。
「それに氷の塊が礫を放つ時、内包されている魔力を使っているだろう? このレベルの塊に込められている魔力がそこまで多くないせいか、威力としてはかなり弱いな」
「正直、それが限界なんだよ。これ以上の魔力を詰めれば、塊が自壊してしまうんだ」
「大きさの方も今の段階ではあれが限界ですね。あまりにも大きすぎると、動かす側にも負担になりますから」
「なるほどな」
二つ目の欠点について、二人の話を聞いて納得する。
これも一つ目の欠点と繋がっていたりする。
使用者との魔力のパスが希薄なせいで、氷の塊に内包している魔力しか礫に使うことができない。
しかも、大きさを制限されているせいで、込められる魔力も減ってしまっているわけだ。
これはどうしようもない事かもしれない。
「最後に、これはどういう状況で使うんだ?」
「一応、見えないところから奇襲をするように、と考えてみたんだけど……」
「あちらから見えない場合、こっちも見えないだろ?」
「そうだよね」
俺の指摘にシリウスは苦笑いをする。
シリウスはこの魔法を見えない位置からの遠距離攻撃用に作ったのかもしれないが、そおれはあまり有用と言えない。
もし見えないところに敵しかいなければ問題はないが、もし人質などを捕らえられた状況などでは使うことなどできないだろう。
敵どころか人質も一緒に命を落とす可能性が高いからだ。
その程度のことなら、シリウスも理解しているはずだが……
「まあ、これはわかっていたことだね。とりあえず、グレインならどんな風に改良するか気になってね」
「なるほどな」
シリウスの言葉に俺は納得する。
彼は研究に行き詰ったので、俺に何らかのヒントを貰いに来たのだろう。
それはレヴィアも同様みたいだ。
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