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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第三章 小さな転生貴族は怪物たちと出会う【少年編2】
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3-18 小さな転生貴族は眠れない

※3月6日に更新しました。


「ふぅ……今日はいろいろあったな……」


 夜、自室に戻った俺はベッドの上に身を投げ出した。

 今日一日だけで恐ろしいほどいろんなことがあり、意外と体が疲れているのだ。

 獣王と魔王の襲来、獣王の娘と戦い、リュコが【忌み子】であること──本当にいろんなことがあった。


「本当に大変でしたね」


 ベッドの傍でリュコが苦笑する。

 普段ならば、こんなだらしない姿に対して文句を言ってくるが、今日は文句を言ってこない。

 これは彼女自身が今日起こったことの当事者の一人であるからかもしれない。

 まあ、今日で彼女にまつわる大きな問題は解決したといっていいだろう。


「はぁ……本当だよ。というか、僕はゆったりとした生活を送りたいのに、どうしてこんなに忙しいの?」

「それは無理だと思いますよ?」

「そう?」


 リュコの言葉に俺は聞き返してしまう。

 いや、わかってはいたことなのだが、それでも聞き返さずにはいられなかったのだ。


「人族の国の中でも異質と言われているカルヴァドス男爵家に生まれたうえ、獣王と魔王からも認められるほどの実力の持ち主なんですよ? いろんなことに巻き込まれない方がおかしいですよ」

「……やっぱりそうだよね」


 俺は納得するするしかなかった。

 異世界に転生してスローライフを送ろうと思っても、そう簡単にはうまくいかないようだ。

 そう簡単に死なないよう選んだスキルではあるが、まさかそれが俺のスローライフを阻むとは思わなかった。

 あと、貴族の次男坊として転生させてくれるといっていたが、こんな家だとスローライフから遠くなることぐらいわかっていただろう、あの女神さま。

 最初はかわいそうだと思ったが、こんな風に騙されたらもっと忙しくなれと思ってしまう。


「まあ、諦めてください」

「……あっさりしているね。少しは主の目的を手助けしようとは思わないの?」

「無理だと思っていますから」

「いやいや、そんな簡単に……」


 俺は思わず言い返したくなる。

 いや、俺自身も若干諦めようかなと思っているが、だからといってここまであっさり諦めの言葉を告げられるのはなんか嫌なのだ。

 そんなことを思ったが、彼女の表情が優しげであることに気がつく。


「ですが、グレイン様のおかげで助かった人もいるんですよ? それでいいじゃないですか」

「……」


 俺は反論することを止めてしまう。

 そんなことを言われてしまえば、もう何も言えない。

 今回の件だって、俺に力がなければ彼女を説得することはできなかった。

 いや、彼女のことを救うだけならば、この領地にいることだけで十分だっただろう。

 彼女の存在そのものを認めるこの領地は彼女の居場所となれる一番の場所であるからだ。


「はぁ、まあいいか……それと、さっきから気になっていたんだが……」

「なんですか?」

「なんでこの二人がいるの? しかも、僕の部屋のベッドの上に」


 俺はなぜかいるティリスとレヴィアを見ながら質問する。

 あまりにも疲れていたため最初はスルーしていたのだが、よくよく考えてみればおかしいと思ったのだ。

 せっかくわざわざ遠いところから来てもらったので、獣王・魔王それぞれの一団を屋敷に泊めることは聞いていた。

 だが、それぞれに部屋を与えていた筈である。

 彼らはそれぞれの種族の中で王族のため部屋は多少狭く感じるかもしれないが、それでも十分に過ごすことができると思う。

 間違っても、俺の部屋のベッドの上にいるはずがないのだが……


「ああ、それはせっかくのチャンスなんだから、仲良くなりなさい、と……」

「獣王様? 魔王様? どっちが?」

「そのお二人と……旦那様と奥様方です」

「まさかの大人全員っ!?」


 この二人がここにいることがまさかの大人勢公認とは思わなかった。

 てっきりリオンさんとルシフェルさんのどちらか、もしくは両方がはっちゃけたと思っていたのだが、まさかうちの親たちも許可しているとは……


「せっかく婚約者になったんだから、一緒に過ごしなさい、って」

「一晩過ごせばもっと仲良くなれるらしい」


 大人勢に理由を言われたのだろう、二人は前向きな気持ちのようだ。

 婚約者という話は置いておこう。

 それは親たちが決めたことだろうから、ここで何か言っても意味がない。

 しかし、一つだけ言いたいことがある。


「……これは既成事実を作るために仕組まれたこと?」

「おそらくそうだと思いますよ?」


 俺の推測にリュコが肯定する。

 どうやら彼女はこの二人がここにいる理由をわかっていたようだが、どうして反対しないのだろうか?


「リュコはいいの?」

「何がですか?」

「いや……いつもだったら、こんなことは子供には早いと怒ると思ったんだけど……」


 彼女は事あるごとに俺が子供であることを理由に止めようとしてくる。

 子供の教育上よくないと思われることを止めるのは使用人として当然の行動かもしれない。

 今回も婚約者と一夜を共にするのはそれに抵触しそうなものだが……


「流石に大丈夫だと思います」

「いや、男女が一緒のベッドで一夜を共にするんだよ? 何かない方がおかしいと思うんだけど……」

「グレイン様はこのお二人に手を出すつもりですか?」

「いや、そんなつもりはないけど……」

「なら、大丈夫でしょう」


 リュコは俺を信用して怒らなかったのかもしれない。

 俺にもしこの二人をどうかしようと思う気持ちがあるのであれば、彼女は止めようと思ったかもしれない。

 だが、俺にはこの二人をどうこうするつもりはないので、止める必要はないと思ったのだろう。

 ちなみに、この二人のことをは可愛らしいと思っている。

 このまま成長すれば、十分にそういう感情を持ってもおかしくはないとさえ感じている。

 だが、流石に子供に手を出すことは俺の常識が許さなかった。

 今は俺の方が年下なのだが……


「なあ、リバーシをしよう。グレインが作ったのなら、当然強いんだろう?」

「私はチェスがいいです。こういう戦略性のあるゲームの方が好きです」


 二人はベッドの上でそれぞれの遊び道具を取り出す。

 そんな二人の様子を見て、いかに自分の作ったものがこの世界で人気になっているかがわかる。

 既成事実方面の過ちは起きそうになかった。


「でも、これって親的に見たらどうなんだろうか? せっかくお膳立てしてるのに……」

「問題ないのではないでしょうか?」

「そうなの?」

「おそらくですが、グレイン様が断ろうとしても一緒に過ごしたという既成事実でゆすってくると思います。子供とはいえ、未婚の女性と一晩過ごしていますからね」

「ああ、なるほど……」

「まあ、旦那様たちもそういうことには期待していないと思いますよ? というか、そうなったとしても逆に焦ると思います」

「そうだろうね」


 リュコの指摘に俺は納得する。

 流石に大人たちも俺たちが何かをすると考えて、一緒の部屋にしたりはしないだろう。

 ただただ一緒に過ごしたという事実が欲しかっただけだ。

 それを理由に俺を逃がさないために……


「つまり、二人がベッドの上にいる時点でグレイン様の負けですね」

「ああ、そうだな……はぁ……」


 リュコの指摘に思わずため息をついてしまう。

 まさか身内からこんな罠を仕掛けられるとは思わなかった。


「グレイン、早くしよう」

「グレイン様、楽しみましょう」


「お二人も呼んでいらっしゃいますよ?」

「……そうだな」


 リュコの勧めで俺は二人のもとにいく。

 まあ、なってしまったものは仕方がない。

 今はこのお姫様方を楽しませることにしよう。


 こうして数時間、俺はこの二人が疲れて眠ってしまうまで、それぞれのゲームに付き合った。








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