プロローグ1-4 英雄男爵は友人に提案される
「とりあえず、そういうことだからグレインをやるわけにはいかない。大事な次期当主候補だからな」
アレンははっきりと告げた。
本人は乗り気ではないが、向いている以上は候補には上げるべきだ。
「それなら仕方がないですね。とりあえずは諦めましょう」
「というか、そもそもお前らにはもう一人ずつ娘がいるだろ? それこそ、跡継ぎはいらないだろ」
アレンが気付いたことを告げた。
グレインの婚約者であるティリスとレヴィアにばかり話題が向いているが、彼女たちは彼らの次女である。
彼女たちにはそれぞれ姉がいるのだ。
それならば、跡継ぎなどを考えなくてもよさそうだが……
「こちらも同じですよ。相手がいなくて、跡継ぎがいないんですよ」
「そうだな。しかも、アリス嬢ちゃんほどの条件を付けていないのに、相手がいないと来ている」
「……そうか」
二人の言葉に今度はアレンが何とも言えなくなってしまう。
どこの家にも問題があるのだ。
とりあえず、この空気を変えるべきだと感じたアレンは話題を戻す。
「ということで、留学の話はなしだな」
「いや、留学はさせるべきですよ」
「なに?」
留学の話を断ろうとしたが、それをルシフェルが反対する。
まさか反対されるとは思わずアレンは驚いてしまった。
「跡継ぎだからやれないんだぞ?」
「まあ、それは諦めますよ。ですが、留学はグレイン君にとっても、いい経験になるはずです。元々、そういう意図があって、これを提案していますからね」
「そういえば、そうだったな。跡継ぎ云々が真剣過ぎて、こっちがおまけのようになってしまってたな」
真剣に考えないといけないことだったせいで、本当の理由の方が大したことではなくなってしまっていた。
そちらが本題だったのに……
「アレンはどう思いますか? 魔国や獣王国で得た経験がグレイン君をどのように進化させるのか、を」
「というと?」
ルシフェルの言葉にアレンは聞き返す。
これは何が言いたいのか、まだ理解できていない。
「リクール王国どころかカルヴァドス男爵領にいたときですら、あれほどの才覚を表していたんですよ? もっと広い世界で様々な経験をすれば、グレイン君ならよりすごい事ができるはずです」
「……なるほどな」
「グレインならとんでもない奴に進化しそうだな。絶対に俺たちよりすげえ奴になりそうだな」
「……それはちょっと怖いな」
ルシフェルの言葉に納得し、リオンの言葉で恐怖心が芽生えた。
グレインが成長することは嬉しい事である。
息子の成長を喜ばない親など、どこにいるだろうか?
だが、自分達を超えていくことには不安を感じてしまう。
本来なら、息子が父親を超えることはいいことのはずだ。
しかし、それが自分達となると、話は別である。
「俺たちを超えたら、それこそ本物の化け物にならないか?」
「「……」」
アレンの指摘に二人は言葉を失う。
そのことを全く考えておらず、アレンの言葉で気付いたからだ。
自分達が世界でもトップクラスの化け物である、と言うことを思い出したのだ。
「大丈夫、のはずだ。グレインなら、その力を悪い事には使わんだろう」
「もし、そんなことをしても、私たちで止めればいいじゃないですか」
「まあ、グレインなら大丈夫か?」
三人は無理矢理納得する。
そうなると決まったわけではない。
なら、心配しすぎる方がおかしいのだ。
「とりあえず、わかったよ。グレインの留学の件はしっかりと伝えておこう」
「よろしくお願いしますね。私たちが楽しみにしていることも伝えておいてください」
「いや、それは必要ないだろ」
「それは残念です」
アレンの言葉にルシフェルは苦笑を浮かべる。
本気ではなかったが、そこまで否定されるとは思っていなかったのだ。
だが、これで目的は達成した。
グレイン次第ではあるが、グレインならこの話を受けてくれるとルシフェルは信じている。
「よし。難しい話はこれまでにして、飲みに行くか。三人で集まるのも久しぶりだしな」
「そうしようか。久しぶりだから、積もる話もあるしな」
「珍しい酒は入っているでしょうか? ローゼスさんの酒場はそれが楽しみなんですよね」
リオンの言葉に二人も乗った。
数か月ぶりに集まったのだから、飲みながらいろいろと話したいのはみんな同じなのだ。
三人ともが浮かれた気持ちで部屋から出て、【フォアローゼス】へと向かった。
そのときは楽しい気持ちだったので、誰も気づかなかった。
アレンがまだ執務中だったことに……
そして、まだ昼間だったことに……
一時間後、【フォアローゼス】の入り口の前で正座をさせられた三人の屈強な男性とそれを叱りつける赤髪の女性の姿を領民のほとんどが見ることになった。
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