プロローグ1-3 英雄男爵は友人に提案される
「まず、勉強ができない。つまり、当主としての書類仕事等ができないわけだ」
「そうみたいだな。それはうちのティリスも同じ……だが、それぐらいどうにかなるんじゃいのか? 現にアレンもやれているんだから」
アレンの言葉に納得しつつ、リオンはそう告げた。
昔からの付き合いなので、アレンが脳筋であることはわかり切っている。
別に頭が悪いというわけではないが、問題に対して考えるよりも先に体が動くのがアレンなのだ。
そんなアレンがもうかれこれ十数年男爵をやることができているのであれば、アリスもそれぐらいできると思ったわけだが……
「いや、それがどうにも……俺より酷いみたいだ」
「アレンより?」
「グレインからの連絡と学院からの成績表から、そういう結論に至った」
「相当悪い、と?」
「そういうことだ。俺の場合は平民出身でもともとそういう教育を受けていなかったから仕方がないところもあるだろうが、アリスは最初から貴族令嬢なわけだから逃げ道がないんだ」
「卒業はできるのか?」
アレンの説明にリオンが心配そうに告げる。
アレンがそこまで言うのであれば、相当やばいと思ったのだろう。
そして、アリスがやばいのであれば、ティリスもまずいと感じているのだ。
「まあ、一応卒業はできるみたいだ」
「そうなのか? なら、よかったじゃないか」
「といっても、できない部分をできる部分でカバーをしているだけだがな。なんせ、グレインたちと行動しているおかげで、戦闘面に関しての評価は常に満点だからな」
「ああ、なるほどな。まあ、卒業はできるだろうが、貴族令嬢としてはまずいわな」
「そういうことだ」
リオンが納得すると、アレンがため息をつく。
まさか自分の娘がここまで酷い事にショックを受けているのだろう。
自分の教育方針が間違えていたのだろうか、と思ってしまうほどに……
グレインとシリウスについてはうまくいっているので、間違っているとは言えないと信じたいが……
「そして、二つ目にアリスに縁談が全く来ない」
「そうなのか? あれだけのルックスなら、引く手あまただと思うが……」
「そうですね。しかも、結婚をすれば、カルヴァドス男爵家と繋がりができますから、それを狙っている者もいると思いますが……」
アレンの言葉に二人は驚く。
小さいころから知っている身としては、未だにアリスの婚約者がいないことすら驚きなのだ。
しかし、それはアレンの言い分を聞くまでのことだった。
「理由は二つある」
「二つ、ですか?」
アレンの言葉にルシフェルが首を傾げる。
まさか複数の理由があるとは思わなかったのだ。
リオンも同様のことを思っているようで首を傾げていた。
そんな二人の様子にアレンは説明を始める。
「まず、アリスが「自分より強い相手じゃないと婚約はしない」と公言していることだ」
「そんなこと公言しているんですか?」
アレンの言葉にルシフェルが驚く。
女性が婚約の条件にそんなことを言うことに驚いているのだ。
比較的常識人の彼からすれば、思いもよらない条件なわけだ。
しかし、リオンの方は違った。
「ティリスも同じことを言っていたな。まあ、グレインと出会う前だが……」
アリスの条件に納得していた。
これには理由があった。
「力が至上主義の獣人ならまだ理解できる。だが、アリスは人族──そして、アリスより強い男など、なかなかいないはずだ」
「そうだろうな。冒険者にならいるかもしれないが、かなりのベテランとなってくるはずだ。そうなってくると、今度は年の差とかの問題が出てくるわけで……」
「いや、その前に結婚しているのでは? ベテランの冒険者なら、所帯を持っているでしょうし……」
二人はアレンの言っていることがどれほど難しいのか納得できた。
しかし、これが一つ目の理由なのだ。
アレンが続きを話始める。
「二つ目だが、これはうちが問題だ」
「カルヴァドス男爵家が、ですか?」
アレンの言葉にルシフェルは首を傾げる。
彼からすれば、カルヴァドス男爵家が問題の意味が分からない。
カルヴァドス男爵家と繋がりができることはメリットであるこそすれ、デメリットなどないように思うのだが……
しかし、次のアレンの言葉に納得せざるを得なかった。
「普通の貴族の坊ちゃんがうちの領地の魔物と戦えるわけがないだろう?」
「「ああ、なるほど」」
アレンの言葉に二人は即座に納得の声を漏らした。
そういえば、この領地は獣王国と魔国との境になっており、その中心となっている森には強力な魔物が存在している。
リオンやルシフェルにとっては何でもない敵ではあるが、普通の冒険者程度なら逃げ出すレベルである。
たしかにこれは難しい。
「というわけで、アリスは結婚ができないわけだ。そして、跡継ぎが望めない以上、貴族の当主としては難しいというわけだ」
「「……」」
アレンがそう締めくくると、二人は何とも言えない表情で黙ってしまった。
何と言えばいいのか、本当にわからない。
長い付き合いでもまったくわからなかった。
「まあ、どこかにアリスより強くて、領地の魔物相手にも臆さない貴族令息がいればいいわけだが……いないだろうな」
「そうだな」
「そうですね」
アレンの言葉に二人は頷く。
とりあえず、三人の中でアリスが次期当主になるのは無理だという結論に辿り着いた。
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




