プロローグ1-1 英雄男爵は友人に提案される
第八章、始まりました。
今回は留学編です。
グレインがリクール王国を飛び出し、世界を見てきます。
カルヴァドス男爵家、執務室にて。
(ガチャ)
「よう、アレン」
「お邪魔しますね」
部屋の扉がいきなり開き、二人の男性が入ってきた。
もちろん、それはこの部屋の主であるアレン=カルヴァドスの昔からの友人である【獣王】リオンと【魔王】ルシフェルだった。
三人の間には長年ともに戦ってきたことによる仲間意識もあり、遠慮のない関係である。
しかし、それでも一定の常識ぐらいは持ってもらった方が良いと思うのだが・……
「部屋に入るときぐらいノックしろよ」
「おいおい、俺たちの間柄だろ? そんなことぐらい気にするなって」
アレンが文句を言うと、リオンが笑いながら答える。
リオンの反応にアレンはため息をつく。
そんなアレンにルシフェルが話しかける。
「私は止めようとしましたよ?」
「お前も一緒に入ってきてるじゃねえか。本当に止めたのか?」
「もちろんですよ。というか、私にリオンが止められると思いますか? 戦闘中ならまだしも、日常生活で強力な魔法は使えませんしね」
「……まあ、流石に室内で使われても困るな。疑って悪かったよ」
ルシフェルの言葉にアレンは謝罪する。
昔から豪快に行動するリオンを常識人のルシフェルが止めるのは難しい事はわかりきっていた。
これは文句を言う方が間違っているわけだ。
といっても、リオンに文句を言っても、聞き入れられるわけではないが……
とりあえず……
「嫁さんに伝えておくからな」
「なっ!? それはずるくないかっ!?」
アレンの言葉にリオンが驚く。
彼にとって、妻は怖い存在である。
もちろん、実力至上主義の獣王国において、もっとも力のあるのが【獣王】であるリオンだ。
その妻がリオンより強いはずがない。
しかし、リオンは妻に頭が上がらない。
普段から無茶をやっているせいか、いつの間にかそんな状態になってしまっていた。
本当に情けない話である。
まあ、それはアレンも人のことが言えないわけだが……
「それで要件は? わざわざここに来たってことは何か頼みがあったんだろう?」
リオンの文句を聞き流し、アレンは話を進める。
この二人が屋敷で過ごしにくる際、基本的に談話室にまず行く。
流石に仕事中のアレンの邪魔をするわけにはいかないからである。
といっても、これはアレンに気を利かせているわけではない。
邪魔をすると、彼の妻たちが怖いからである。
「実はアレンに提案がありまして……」
「提案?」
ルシフェルの言葉にアレンは首を傾げる。
彼らの間柄でこのように改まって提案をされる状況に違和感があるのだ。
だからこそ、アレンは身構える。
とんでもないことを提案されるのでは、と。
「いや、そこまで身構えないでくださいよ。別に酷い事を頼むわけでもないですし……私を信用してください」
「す、すまん……」
「リオンならまだしも、私は常識人ですよ?」
アレンの反応にルシフェルが心外だとばかりに告げた。
彼の立場からすれば、そう思うのは仕方がないだろう。
しかし、そこに文句を持つ者が現れた。
「おい。俺ならまだしも、とはどういうことだ?」
「もちろん、言葉の通りですよ? リオンは自分が常識人だと思っていましたか? 戦闘訓練と称して、どれだけの地形を変えてきたんですか?」
「流石にそうは思わねえが、お前に言われたくはないな、ルシフェル」
「どういうことでしょうか?」
リオンの言葉にルシフェルは首を傾げる。
どうやら心当たりがないようだ。
まあ、普段は常識人なので、そう言われることがなかったのかもしれない。
アレンはリオンが何を言いたいのかを理解できていた。
「お前、また実験に失敗して、建物を爆発させたそうじゃねえか。これで何百──いや、何千件目だ?」
「なっ、なぜそれを……」
リオンの暴露にルシフェルが驚く。
知られていないはずの秘密を知られていたからであろう。
「女房が聞いてきたんだよ。お前の嫁が相談してきたらしくてな」
「ああ、それはうちにも──というか、うちで相談していたな」
「えっ!?」
リオンとルシフェルが衝撃の事実を伝え、ルシフェルは固まってしまう。
まさか、妻が自分のことを他人に相談しているとは……
注意さえしてくれれば、きちんと対処はしようとする──
「どれだけ注意しても、危険な実験をやめないんだって?」
「「一ヶ月で数十もの建物が倒壊しました。どうにかしてください」だったかな?」
「うっ!?」
二人の暴露にルシフェルが反応に困る。
日常生活のことであれば注意を聞くが、こと実験のことになると自分が暴走することを思い出したからだ。
そういうときには、妻の注意を聞き流しているかもしれない、と。
「別に実験をやるなとは言わねえが、少しは嫁さんの心労も考えろよ? おそらくだが、国民から陳情でも届いているんじゃないのか?」
「そうだな。いくら研究気質な国民が多いとはいえ、流石に月に数十の爆発は多すぎるな。少しは──いや、かなり気を付けるべきだろ」
「……善処します」
まさかの反撃にルシフェルは落ち込んでしまった。
彼が脳筋二人にこのように負けるのはかなり珍しい光景である。
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