閑話10-38 女子高生は異世界召喚される
「さて、明日のことが決まったということで……一ついいかしら?」
「何?」
話が終わったと思ったら、吉田さんが話を続ける。
しかも、先ほどよりも真剣な表情である。
彼女がこんなにも真剣だなんて、一体どんなことを話すつもりなのだろうか?
私は緊張でごくりと喉を鳴らす。
「いつまで私のことを名字で呼ぶの?」
「へ?」
だが、続きは予想外の質問だった。
私は思わず呆けた声を出してしまった。
しかし、どうやら彼女は真剣なようで、そのまま話を続ける。
「私たち、友達よね? それなのに、未だに名字呼びは距離があるように思うんだけど……」
「あぁ……」
「それに、私は名前で呼んでるよね? 私だけってのも、恥ずかしいんだけど……勘違いしているみたいで……」
吉田さんが少し照れているような表情を浮かべる。
これは悪い事をしてしまったかもしれない。
でも、私にも理由があるのだ。
「ごめん……でも、友達との距離ってわからなくて……私は友達がいなかったし……」
「あぁ、そういうこと……そんなに気にすることでもないと思うけど?」
「理解はしているけど、そう簡単な話じゃないのよ。やっぱり、どこか一線を引いてしまうというか……」
私は胸の前でギュッと手を握った。
吉田さんが私に対して危害を加えるような人ではないとは理解している。
友達と言ってくれることも嬉しい。
だが、それでも親しげに呼ぶことができない。
もしかしたら、という不安があるから……
「はぁ……」
「っ!?」
いきなり吉田さんが大きなため息をつき、私は驚いてしまった。
もしかして、怒らせてしまった?
そんな不安が私の頭をよぎった。
「あのね……友達って、そんな風にいろいろと考えるものじゃないと思うのよ。難しい事を考えず、ただただ仲良く過ごす……それが友達じゃないの?」
「それは……」
「私からすれば、仲良くなったと思ったのに距離を置かれているから、ものすごく悲しいんだけど?」
吉田さんは呆れ半分、悲しみ半分といった表情でそんなことを言ってくる。
といっても、悲しみ半分の方は演技っぽいけど……
だが、彼女をそのような気持ちにさせたことに申し訳ない気持ちが沸きあがる。
「ごめんなさい、吉田さ……」
「そこは「ごめん、摩理」でしょ?」
「え、それは……」
「友達なんだから、敬語はなし。あと、名前で呼ぶべきよ」
「うぅ……」
いつもよりも強引な彼女の言葉に私は何も言えなくなってしまう。
だが、これは悪いのは私の方なのだ。
こちらにも事情はあるが、それでも吉田さんの言っていることが正しいのだ。
だったら……
「わかったわ。ごめん──摩理」
「ふふっ。良く言えたわね、聖」
意を決して、私は言われたとおりにした。
そんな私を見て、吉田さん──いや、摩理は笑顔を浮かべた。
その表情を見て、力が抜けた。
これで彼女を満足させることはできたようだ。
そう思っていたのだが……
「じゃあ、後は灯と杏のことを名前で呼ばないとね」
「えっ!?」
「私だけ名前で呼んでもらうのは不公平でしょ? これから仲間として、一緒に冒険してくんだから」
「で、でも……」
「「でも」じゃないの。私としては、男性陣のことも名前で呼ぶべきだと思うのよ?」
「はいっ!?」
摩理の言葉に私は驚きのあまり短く叫んでしまう。
とんでもないことを言っているからである。
「なんで男子まで?」
「だって、仲間として冒険するでしょ? だったら、名前で呼んでもおかしくはないと思うけど……」
「それはそうかもしれないけど……やっぱり無理っ!」
少し考えてから、私は首を振った。
言っていることは理解できるが、男子を名前で呼ぶなど難しい。
先ほどまで友達すら名前で呼ぶことができなかったのに……
そんな私を見て、流石に難しいと思ったのか、摩理はため息をついた。
「はぁ……仕方がないわね。男子を名前で呼ぶのはなしね」
「ふぅ……」
「でも、灯と杏を名前で呼びなさいよ? こっちは女子同士だから、いけるでしょ?」
「が、がんばるっ!」
摩理の念押しに私はそう答えるしかなかった。
まさかの異世界で全く関係ない目標ができてしまった。
こんなことでいいのだろうか?
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閑話は次で最後の予定です。
閑話と言いながら、かなりの長くなってしまいました。
本編とは別と言う意味で、サブストーリーとか言うべきでしたかね?




