閑話10-35 女子高生は異世界召喚される
「それと、西園寺くんと東郷くんね」
「え?」
吉田さんから予想外の名前が飛び出してきた。
どうしてここで二人の名前が?
「なんでクラスメートを疑わないといけないの?」
私は純粋な疑問を投げかける。
こんな未知の世界に召喚された仲間同士、助け合わないといけないはずだ。
それなのに、どうして吉田さんはそんなことを言うのだろうか?
まだ、この世界の人を疑うべきだという話は理解できたのに……
「情報という点では、疑う必要はないわ」
「情報では?」
「ただ、あの二人は明らかに聖を狙っているわ」
「ええっ!?」
吉田さんの言葉に私は驚く。
いきなり衝撃の事実を叩きつけられたからだ。
なんであの二人に?
「とりあえず、勘違いしているようだから説明しておくと、狙っているのは「恋愛的」な意味ではなく、「戦力」とか「名声」とかの意味で、よ?」
「……うん、わかってた」
吉田さんの指摘に私の気持ちは一気に落ち込む。
流石にそれはないと薄々感じていたよ。
今までそんなことを感じたことがなかったのに、異世界でいきなりそんなことがわかるなんておかしいし……
「それで、あの二人をどうして気を付けるの?」
「これからあの二人は争うように行動していくはずよ。相手に負けるわけにはいかない、とばかりにね?」
「うん……そうなりそうだね」
吉田さんの言葉に私は頷く。
武器探しの時の言い争いの後も、あの二人が和解することはなかった。
むしろ、より仲が悪くなっているようにも思えた。
そんな二人なら、確実に相手に勝とうと行動するだろう。
しかし、それが私に一体何の関係が……
「相手に勝つため、聖を自分の陣営に取り込もうとするでしょうね」
「ええ、こっちも?」
「それも【聖女】の宿命ね。そんな力を手に入れたばかりに……」
「欲しくて手に入れたんじゃないんだけど?」
吉田さんの言葉に私は嫌そうな表情を浮かべる。
別に望んで【聖女】になったわけではないのに、どうしてこんなにいろんなところで巻き込まれているのだろうか?
私、何か悪い事をしたかな?
「でも、私は吉田さんたちと行動することは決まったよね? それは陛下が言ったことだから、そう簡単に覆されないと思うけど?」
私は再び疑問を口にする。
いくら【勇者】と言えども、国のトップの決めたことを覆すことは難しい気がする。
権力は向こうの方が上だろうし……
「何の策もなしに直談判をしても、難しいでしょうね」
「でしょ?」
「でも、方法がないわけでもないわ」
「方法?」
私は首を傾げる。
国のトップの決定を覆す方法、そんなものがあるのだろうか?
「一つは私たちのパーティーを取り込むことね。そうしたら、皇帝の決定を覆さず、取り込むことができるわ」
「ああ、なるほど……でも、それは無理でしょ? 私もだけど、他のメンバーが取り込まれることを良しとしなさそうだし……」
私はそう口にした。
たしかに方法としては可能だろうけど、到底うまくいくとは思えない。
少なくとも、私はあの二人とパーティーを組むつもりはないし……
そんなことを考えていると、吉田さんが話を続ける。
「そこで二つ目の方法よ。私たちに失態をさせることね」
「え? なんで?」
吉田さんの言葉に私は驚く。
本当に意味が分からなかった。
どうして私を陣営に引き入れるために吉田さんたちに失態をさせるのか、と。
「私たちに失態をさせる──つまり、私たちの評判を下げるわけね」
「まあ、そうなるわね」
「そうすると、周囲はこう思うはずよ。「あのパーティーに【聖女】様を連れさせるのは危ない」とね?」
「……」
「流石に皇帝が決めたこととはいえ、失態を続けるような者に【聖女】という強大な戦力を任せるわけにはいかないわ。【聖女】を他の人間に任せようと……そこで出てくるのが……」
「あの二人なわけね?」
ようやくここで理解できた。
たしかに、それは効果的かもしれない。
吉田さんたちを引き離しつつ、私を手に入れることができる。
皇帝が決めることになるから、認めざるを得なくなるわけだ。
これは一つ目よりも効果的かもしれない。
「でも、それは上手くいくの? 異世界に来たばかりの人に他人を貶めることができるとは思わないけど……」
「それだけじゃ無理でしょうね。でも、この世界の人間が手伝うとしたら?」
「……可能かもしれないわね。けれど、そんな人はいるの? そんなことをしたら、皇帝に「叛意あり」とみなされそうだけど?」
私は純粋に心配になった。
私を手に入れるためだけにそんな危険な橋を渡るだろうか?
私がその立場だったとしても、到底そんなことをしようとは思わない。
失敗すれば、確実な死が与えられることになるだろうし……
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