閑話10-33 女子高生は異世界召喚される
「あくまで可能性の話です」
「可能性、ですか?」
疑問に思っていた私に宰相は真剣な表情で再び説明を始める。
さて、どんな可能性なのだろうか?
「勇者様方はこの世界の人間にはない力を持っていらっしゃるはずです」
「そうなんですか? 私たちは一般人のはずなんですが……現に召喚される前はただの学生でしたし……」
「立場などは関係ないですよ。私が言いたいのは、勇者様方の職業についてです」
「職業、ですか?」
「はい。勇者様方はほとんどが珍しい上位の職業でした。しかも、幾人かは伝説と言われてるほどの職業だったわけです。その一つが【聖女】です」
「なるほど……そう言われれば、そのような気が……」
宰相の説明に私は納得する。
たしかに彼の言う通り、私たちにはすごい力があるように聞こえる。
まあ、現状はその職業なだけなので、名ばかりの凄さなわけだけど……
「先ほどの話の者は、【鑑定士】という職業でした」
「【鑑定士】ですか? つまり、【鑑定】のプロなわけですね」
「はい、そういうことです。他の職業に比べれば、【鑑定】が強力になるはずです」
「その人が無理だったんなら、難しい気が……」
やる気になっていたのに、その話で落ち込んでしまう。
いくら私たちが強力な存在だったとしても、プロにできなかったことができるとは思えないんだけど……
しかし、そんな落ち込む私を励ますように宰相が説明を続ける。
「言ったでしょう? 【鑑定】を強化するために、その者は強い魔物と戦った、と」
「確かに言ってましたけど……」
「その者は【鑑定】の魔法と短剣、身軽な防具だけで強力な魔物に挑んでいました。その結果、足を失うことになったわけですが……」
「なんでそんな危険なっ!?」
宰相の説明に私は驚く。
想像以上にとんでもない事をしていたからだ。
いくら鍛錬のためとはいえ、流石にやりすぎではないだろうか?
しかし、そんな私の反応に宰相は首を振る。
「そうするしかなかったのですよ」
「どういうことですか?」
「【鑑定士】とは本来戦う職業ではありません。当然、彼と一緒に魔物と戦ってくれる者などいませんでした」
「それって……」
「結果として、その者は魔物と一人で戦うことを選びました。自分をより高めるために」
「なんて危険な……」
宰相の説明に私は恐怖を感じてしまった。
いくら強くなるためとはいえ、そんな危険なことをするなんて……
「【鑑定士】という職業では、大した装備を身に付けることはできません。身軽な装備にすることで、相手の攻撃を避けるのが最も安全だからこそ、そのような装備になったわけです」
「理屈はわかりますけど……」
「最初はうまくいっていました。【鑑定】を使うことによって相手の行動を予測し、それを元に戦略を練っていたわけですから」
「……」
「ですが、それはある程度のレベルの魔物まででした。それを超えてしまうと、一人では太刀打ちできなくなりました。それでも無茶をし、結果として片足を失うことになったわけです」
「……そんな」
宰相の説明に私は言葉を失ってしまう。
彼はどうしてそんな話をしたのだろうか?
今の話を聞いて、【鑑定】を鍛えようと思う人はいないと思うのだけれど……
「しかし、勇者様はこの世界の人間とは違い、強力な力を持っています」
「それが一体……」
「その力で戦いながら【鑑定】を鍛えれば、どうなると思いますか?」
「っ!?」
宰相の説明に私は彼が何を言いたいのか理解できた。
私が理解したことに気が付いた宰相が笑みを浮かべる。
「本職に比べれば、効果は小さいかもしれません。ですが、勇者様方であればもっと強力な魔物とも戦うことができるでしょう? そうすれば、その者よりも強力な【鑑定】を使うことができる可能性があるわけです」
「なるほど……一理ありますね」
宰相の説明に私は納得する。
たしかに、彼の言う通りかもしれない。
多少効率は悪くなるかもしれないが、【鑑定】をより強くできる可能性があるだろう。
少なくとも、この世界の人たちよりは……
「わかりました。私がやりましょう」
「ヒジリ殿がですか?」
私の言葉に宰相が驚く。
どうやら私がするとは思っていなかったようだ。
まあ、【聖女】と呼ばれる人がするようなことではないかもしれない。
だが、私にだって考えがある。
「おそらく、私が最も効率的に鍛えることができると思うからですよ」
「どういうことでしょうか?」
「私は吉田さんたちと冒険をするつもりです。おそらく、かなり強力な魔物と戦うことになるでしょう」
「なるほど……ですが、それは他の人も同じでは?」
私の説明に納得しつつも、宰相は疑問を投げかけてくる。
たしかに彼の言う通り、現状では吉田さんたちと他の人の差はあまりないのかもしれない。
だが、私は吉田さんの方がより早く鍛えられるとも思っている。
「いえ、吉田さんの方が良い理由があります」
「理由、ですか?」
「はい。それは吉田さんの不明の職業です」
「はい?」
「【鑑定】することができないほどの強力な職業──それを何度も【鑑定】すれば、自然と強くなるのではないですか?」
「な、なるほど……それはたしかに」
私の説明に宰相は納得する。
少し暴論かもしれないが、より厳しい状況になれば強くなることができると話していたのは宰相である。
これが最も効率的な方法のはずだ。
それに、こうすれば吉田さんたちと一緒に冒険ができるわけだし……
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