閑話10-32 女子高生は異世界召喚される
「勇者様の誰かが【鑑定】を使うことができるようになればいいのです」
「私たちの誰かが、ですか?」
宰相の言葉に私は言葉を繰り返す。
まったく予想していなかった答えだったからだ。
そんな私の反応を見て、宰相は丁寧に説明を始める。
「【鑑定】は魔法の一種です」
「そうなんですか?」
「はい。そして、属性がないということで、魔力があれば誰でも使うことができる魔法と言えます」
「……なら、他の人が練習してもいいんじゃ?」
「それがそうもいかないのです」
「どうしてですか?」
私の言葉に宰相の表情が暗くなる。
誰でも使うことができるのであれば、誰でもうまくなることができるはずだ。
そんなことを私が思っていると、宰相は説明を続ける。
「魔法が上達するには、二つの方法があります」
「二つ、ですか? それは一体……」
「一つは純粋に使うことのできる魔力を増やす方法です。魔力を増やすことができれば、強力な魔法を使うことができるようになります」
「なるほど……それでもう一つは?」
一つ目の方法は理解できた。
要は筋力を増やせば、より重いものを持てるのと同じなのだろう。
しかし、こちらはそこまで難しい事ではないような気がする。
ならば、難しい理由はもう一つの方になるわけだけど……
「もう一つは【鑑定】の魔法を強力にすることです」
「それだけですか? そこまで難しいように思えませんが……」
「とんでもないっ! これはかなり難しい事ですよ」
「そうなんですか?」
私の反応に宰相が大きな声で反論する。
そこまで言うようなことなのだろうか?
「ヒジリ殿は魔法を強力にするために、どのような方法を取るべきかわかりますかな?」
「魔力を増やす以外、ですよね? だったら、何度も訓練をして、より効果的な使い方を身に付ける、かしら?」
宰相の質問に私は少し考え、思いついたことを口にした。
ぱっと思いついたことではあるが、別に悪い回答ではないと思う。
しかし、そんな私の答えに宰相は首を振る。
「そう思うかもしれませんが、それでは成長しないのです」
「え?」
宰相の説明に私は驚く。
まさか、そんなことを言われるとは思わなかったからだ。
「正確に言うと、ある程度は成長することはできます。ですが、それはあくまでも普通に使うことができるレベルまでです」
「ある一定以上は上がらない、ということですか? そして、そのレベルでは当然、吉田さんの職業を鑑定することはできない、と?」
「はい、そういうことです」
「そこから上げる方法はないのですか? 現に、【鑑定】を使うことができる人間にももっと強力な人がいるのでしょう?」
私は気になることを聞いた。
たしか、宰相はこの国の最も強力な【鑑定】を使う者がいると言っていた。
つまり、そのレベルまで成長することは可能なわけだ。
「はい、たしかにいます」
「なら、その方法を使えば……」
「その方法は普通の者にはまねすることは難しいでしょう」
「え? どういうことですか?」
「その者はより難しい【鑑定】を行うことで上達させました」
「より難しい、ですか?」
「はい。その方法は強力な魔物と戦い、その戦いの最中に【鑑定】で相手を調べることです」
「それは……」
宰相の説明に私は言葉を失ってしまう。
言っている意味は理解できた。
たしかにより難しい状況である。
その状況で鍛えれば、レベルアップすることもできるだろう。
しかし……
「それはかなり危なくないですか?」
「ええ、危ないですね。現に、その男は右脚を失いましたから」
「なっ!?」
衝撃の事実に私は驚きの声を漏らす。
周囲で話を聞いていたクラスメートも驚きの表情を浮かべている。
視線を逸らす者もいた。
私だって、今すぐこの場から逃げたいぐらいである。
思ったよりグロい話だし……
「まあ、流石にそこまでしろ、とは私も言いませんよ。ですが、【鑑定】を成長させるためにはそれぐらいのことをしないといけないわけです」
「……吉田さんの職業を【鑑定】するためにはそれをしないといけないんですね。ですが、どうして私たちにその話を?」
私は純粋な疑問を投げかけた。
危険であることはわかっているのに、どうして私たちにそんな話をしたのだろうか?
この国は、危機を救ってもらうために私たちを呼んだはずだ。
それなのに、どうして私たちを危険な目に合わせるような話をしたのだろうか?
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