閑話10-29 女子高生は異世界召喚される
「よ、吉田さん! いきなり何を……」
いきなりの行動に私は吉田さんに詰め寄った。
どうして、クラスメート相手に武器を振るったのだろうか?
しかも、あんな威力の──直撃すれば、確実に命を落としていたはずだ。
いくら仲が良くとも、そんなことをするのは許容できない。
しかし、そんな私の質問に吉田さんは答えなかった。
「なあ、宰相さん」
「は、はい。なんでしょう?」
彼女はなぜか宰相さんに声をかけた。
彼もクラスメートたちと同様に吉田さんの突然の凶行に驚いていた。
しかし、肝が据わっているのか、声をかけられたらきちんと答えた。
そんな彼に吉田さんは自身の持っていた大剣を見せる。
「この武器の名前は?」
「え?」
吉田さんの言葉に私は驚きの声を漏らす。
なぜなら、この状況でするような質問だとは思わなかったからだ。
どうして、この状況で武器の名前を?
というか、彼女は名前の知らない武器を使っていたのか、と。
私がそんな風に疑問に思っていると、宰相が近づいて、まじまじと大剣を観察する。
「こ、これは……」
「え? 何ですか?」
宰相が突然驚き、私は思わず質問してしまった。
彼がここまで驚くということは、相当なことが起こったのかもしれない。
【聖剣】が選ばれたことよりも、もっとすごいことが……
そんな私の質問に宰相は真剣な表情で答える。
「この大剣は【魔剣】です。銘は【グラム】と呼ばれております」
「【魔剣】ですか?」
宰相の言葉に私は首を傾げる。
それはどうしてそこまで真剣な表情をしているのか、わからなかったからである。
疑問に思った私は質問をする。
「【魔剣】とは、【魔法を使える剣】という認識で?」
「そんなわけないでしょう。その程度なら、私もこんなに驚きませんよ」
「まあ、そうですよね。なら、どうしてそこまで?」
宰相の言葉に納得しつつ、私は質問をする。
本当に気になったからである。
そんな私の質問に宰相は真剣な表情で答える。
「【魔剣】とは【聖剣】とは対をなす武器です。といっても、出自などは全く別でしょうが……」
「対をなす、ですか? 一体、どういうところで?」
「【聖剣】は【聖属性】の魔力が備わった武器ということは説明しましたよね?」
「ええ、そうね」
宰相の説明に頷く。
それは武器を探しているときに説明してもらった内容である。
「【魔剣】やその対となる【闇属性】の魔力が備わった武器です。この属性は魔族が主に使っている属性です」
「……つまり、吉田さんは魔族に近い、と?」
宰相の説明に私はそんな質問をする。
彼の説明だと、吉田さんは敵である魔族の力を使うことができるということになる。
下手をすれば、この国で敵とみなされる可能性があるのでは……
「い、いえ……そういうわけではないでしょう」
「そうなのね」
だが、その心配は杞憂だったようだ。
まあ、別にその属性の武器を扱えると言ったからって、その属性を持っているわけではないのだ。
吉田さんは人間──魔族という存在ではないのだ。
「ですが、まさか──【魔剣】を扱うことができる者が現れるとは……」
「どういうことですか?」
宰相の不穏な言葉に私は再び質問をする。
吉田さんに関わることである。
気になって仕方がない。
そんな私の質問に宰相は少し慌てた様子で説明をする。
「【魔剣】には【闇属性】が備わっている、と言いましたよね?」
「ええ、そうね」
「【闇属性】は【聖属性】とは対をなすもの──【聖属性】が清めることだとするならば、【闇属性】はその逆──濁すことなわけです」
「……なるほど。ですが、それはあくまで属性の効果では?」
宰相の説明に私は納得する。
彼の言っていることは理解できるが、だからといってそこまで驚くようなことではないように感じる。
しかし、そんな私に宰相は衝撃の事実を伝える。
「武器を振るった場合、その効果を一番受けるのはどこだと思いますか?」
「え? 攻撃をされた相手?」
「いえ、違います。持っている本人です」
「は?」
宰相の言葉に私は呆けた声を出してしまう。
それはそうだろう。
宰相の言っていることは、「武器を使った本人が一番のダメージを受ける」ということである。
それは武器の役目としてはおかしな話だと思うのだけれど……
「それはおかしいんじゃ……だったら、他の属性の武器だって使えなくなるんじゃ……」
「おかしな話ではないですよ。本来、これらの属性の武器を使うことができるのは、その属性を持つ者なのです。つまり、耐性を持つ者ですな」
「……」
宰相の言葉に私は反論することができなかった。
彼の言っていることは間違いではないのだろう。
その属性を持っているということは、自分がその属性を食らったとしても耐性があるということだ。
ならば、他の人よりは扱うことができる、というわけだ。
しかし、それなら吉田さんは……
「吉田さんは【闇属性】の力を持っているわけですよね? こうやって、その【魔剣】を扱えているわけですから……」
私はその結論に辿り着いた。
なら、心配ないのではないだろうか?
しかし、事はそう簡単な話ではなかった。
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