閑話10-27 女子高生は異世界召喚される
「委員長、もちろん僕と一緒に来てくれるよね?」
「いや、俺たちだろう? 俺たちと一緒に来れば、より安全なはずだ」
「……」
西園寺くんと東郷くんのそれぞれに声をかけられた。
二人の男性からのラブコールを受ける──女性としては夢のような体験をしているのかもしれない。
二人とも男性としてのスペックは高く、タイプの違うイケメンである。
どちらかの方がより好みであるなら、当然そちらを選ぶのかもしれない。
だが、私は二人のどちらを選ぶことはできない。
委員長と言う立場上、クラス内に決定的な亀裂を入れるようなことができないのも理由の一つである。
しかし、一番の理由はどちらも信用できない、という点である。
現状、この場にいるクラスメートたちの中で「私を守る」と言う意味で信用できる人間はいない。
なんせ、現状のクラスメートたちの実力がどれほどの物かわからないからである。
職業という点ではこの二人がダントツなのかもしれないが、それはあくまで職業で考えた場合である。
実際に戦った場合、きちんと戦えるのかわからないのだ。
だからこそ、この二人のどちらかを選ぶことはできない。
しかし、このままではいけない。
選ばなければ、話が進まない状況なのだ。
しかし、どちらを選べば……
そんな風に私が悩んでいると──
「聖は私たちと冒険するわ」
「えっ!?」
この状況を打破する救いの声が聞こえてきた。
肩を掴まれ、抱き寄せられた私は驚きの声を漏らす。
「吉田さんっ!」
私を抱き寄せていたのは、なんと吉田さんだった。
彼女はまるでヒロインのピンチを救う主人公のような登場をしていた。
お互いに女の子のはずなのに……
そもそも、私はヒロインと言う柄ではないし……
「ちょっと待ってもらおうか。勝手に話に入ってきて、決めないでくれないか?」
「そうだぜ? 俺たちを差し置いて、何を勝手に委員長を貰おうとしているんだ?」
吉田さんの言葉に西園寺くんと東郷くんが文句を言い始める。
どちらを選ぶか、と言う話だったのに、第三者に奪われることになったのだ。
文句を言いたくなるのも、仕方がないのかもしれない。
「はぁ……」
「「「「「っ!?」」」」」
しかし、そんな二人の反応を見て、吉田さんが大きくため息をつく。
まるで何もわかっていないことを呆れたような……
明らかに二人を挑発しているような反応だった。
この状況でそんな対応をすれば、二人は確実に怒るだろう。
「いきなり溜め息なんて、失礼じゃないか?」
「俺たちを馬鹿にしているのか?」
当然のように二人が文句を言ってきた。
完全に敵意を向けている。
避けたかったクラス内での亀裂が生じてしまった。
これだけは避けたかったのに……
そんな私の心配をよそに、吉田さんは口を開いた。
「あなたたちが何もわかっていないから、ため息をついたのよ」
「「何?」」
吉田さんの言葉に二人が驚く。
一体、彼女は何を言おうとしているのだろうか?
「聖がどうして悩んでいたと思う? あなたたちがそれぞれ自分たちが選ばれる自信があるんだったら、即座に選ばれていると思わないの?」
「そ、それは……委員長がじっくりと考えるタイプだったからじゃ……」
「そんなことを言うようだから、馬鹿にされるのよ」
「ぐっ!?」
吉田さんにバッサリと切られ、西園寺くんが言葉を詰まらせる。
自分の言ったことをあっさりと切り捨てられたことにショックを受けているようだ。
「委員長にとって、どちらを選ぶのにも条件が足りなかったんじゃないのか? だからこそ、悩んでいたのだろう?」
「本当にそんな風に思っているの?」
「……違うのか?」
「ええ、そうね」
「だったら、その理由を言ってもらおうか?」
自分の考えを否定され、正しい答えを聞こうとする東郷くん。
だが、その表情は正しい答えが聞きたいという雰囲気が感じられない。
どちらかというと、相手の言うことを何が何でも批判しようとしているような……
しかし、そんな東郷くんの様子を気にすることなく、吉田さんは説明を続けた。
「【聖女】である聖がどちらか一方を選べば、パワーバランスが崩れるのよ。少なくとも、【聖剣】を扱う者が分かれている以上、その片方に【聖女】が入れば有利になるでしょう?」
「……それは仕方がない事だろう。それが委員長の選んだことであれば、従わざるを……」
「相手の方に入った場合、同じことが言えるかしら? その意見は自分たちの方に入ってくると思っているからこそ、言えているだけじゃないの?」
「……」
東郷くんは反論しようとするが、吉田さんの言葉に口を紡ぐ。
図星だったようだ。
東郷くんが黙ったのを見て、吉田さんは説明を続ける。
「聖がどちらに入ろうとも、入らなかった方から文句が出てくるのは絶対だったわけ。そこから聖を巡った対立が起こるでしょうね」
「そんなこと……」
「言い切れないと思う? 先ほどまで聖を巡って言い争いをしていたくせに?」
「うぐ……」
西園寺くんが反論しようとするが、あっさりと論破される。
否定する材料がまったくないせいである。
「委員長という立場上、クラス内で致命的な亀裂を作らないように立ち回らないといけなかったのよ。だからこそ、聖はその案を言うことはなかったの」
吉田さんがはっきりと言い放った。
それは明らかに先ほどの提案をしたクラスメートに言っているようだった。
現に、その娘はおずおずと吉田さんに話しかけた。
「それって、私が悪いってこと?」
「いいえ、そこまでは言ってないわ。たしかに、あなたはこの状況を解決できるように意見を言ったのだから……」
「でも、委員長はその提案をしなかったのよね? それが私のせいで……」
「まあ、もう少し考えて発言して欲しかったわね。そうすれば、少なくともこんなバカみたいな争いが今みたいに酷くはならなかっただろうし……」
「……」
吉田さんの言葉にクラスメートは黙り込む。
自分のせいで状況を悪くしたことにショックを受けているのかもしれない。
たしかに事実ではあるが、流石に言い過ぎだろう。
「吉田さん、言いすぎよ」
「友達をこんな状況に巻き込まれたのよ? 私だって、怒ってるんだけど?」
「……後で謝りに行くわよ」
「……わかったわ」
流石に言いすぎたとは思ったのか、私の言葉にあっさりと頷いた。
別に彼女は傷つけるためにあんなことを言ったわけではないのだ。
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