閑話10-18 女子高生は異世界召喚される
「こ、これは……」
先ほどまでとは違う自分の手を見て、宰相が驚きの声を漏らす。
まさか彼自身も自分の手の傷が治るとは思っていなかったのかもしれない。
だからこそ、その表情には喜びの感情があった。
「聖女様、ありがとうございます。私の手をここまできれいに治療していただけるなんて……一生ついていきましょう」
「い、いえ……そこまで言われるようなことは……」
「流石は聖女様だ。自身のしたことに驕らず、当たり前のことをしたと思うなんて……」
「別に私はそんなこと……あと、聖女と呼ぶのは……」
宰相はものすごく嬉しそうに詰め寄ってきた。
別に彼に下心があるわけではないだろう。
しかし、こういう風に男性に一気に近づかれるのは、かなり驚いてしまう。
私がそこまで男性になれていないからかもしれない。
そんな私の気持ちに気が付いたのか、助け舟が出された。
「おじさん、それぐらいにして。宮本さんが困ってるから」
「吉田さんっ!」
私を助けてくれたのは吉田さんだった。
彼女は私を抱き寄せ、宰相から引き離してくれた。
「だ、だが……私のこの感謝の気持ちはどうすれば?」
「それは行動で表せば? とりあえず、さっきのような行動はセクハラになるよ?」
「せく? はら?」
吉田さんの言葉に宰相は首を傾げる。
どうやら、翻訳は完ぺきではないようだ。
もしかすると、セクハラという概念がないのかもしれない。
このセクハラという言葉は女性の社会進出とともに権利が向上したことによって、できたような言葉だし……
「えっと……異性の嫌がることをする、という意味ですかね?」
「私は聖女様に嫌がられた、と?」
「そうですね……感謝していただけるのはありがたいですが、いきなりあのように近づかれるのは驚いてしまいます。できたら、やめていただけたら、と」
「聖女様の御命令なら、謹んでお受けしましょう」
「その【聖女様】もやめていただけたら、と。私はそこまでの人間ではないですし……」
「何をおっしゃる。先ほどの素晴らしき回復魔法──まさに、【聖女】と呼ぶべき素晴らしい魔法でしたよ?」
「そ、それは……」
宰相の言葉に私は言葉を詰まらせる。
まさか、私の行動がそんな結果になるとは……
助けないという選択肢はなかったが、それがここまでの感謝を引き出してしまうなんて……
「そこまでだよ、おじさん」
「む?」
「おじさんの感謝は断っている人に無理矢理受け入れさせるものなの?」
「……」
吉田さんの指摘に宰相は黙り込む。
今までの自分の行動を顧みているのかもしれない。
徐々に真剣な表情になっていた。
そして、少ししてから私に頭を下げた。
「どうやら、これは私が悪かったようだ。あまりにも素晴らしい魔法に感謝の気持ちがあふれてしまったようだ」
「い、いえ……わかっていただければ、それで」
「私は気持を押さえるために、少し他の所を確認していただけます。感謝の気持ちは少し落ち着いてから伝えさせていただきます」
「あ、はい」
そう言うと、宰相は他の人たちの元へと向かった。
彼は仕事熱心なようだ。
別に悪い人ではないと思われる。
ちょっと強引な感じがするだけで……
私の中では評価が高いが、あまり得意ではない人に分類されてしまった。
申し訳ないけど……
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