閑話10-15 女子高生は異世界召喚される
「ふふふっ、殊勝なことを言っちゃって」
「きゃっ!?」
いきなり後ろから抱きつかれ、須藤さんは可愛らしい声を上げる。
もちろん、抱き着いたのは仁川さんである。
彼女も私たちと同じ参加組である。
ちなみに彼女の職業は【魔導士】──剣と魔法の異世界らしい職業である。
なんでもありとあらゆる魔法を使うことができる職業らしい。
といっても、その中でも適性があるようだが……
「ちょ、離しなさい」
「じゃあ、正直に言う?」
「何をよっ!」
仁川さんの行動に須藤さんが怒鳴る。
須藤さんが怒るのも理解できる。
なぜなら、仁川さんは背後から抱き着きながら、須藤さんの全身をまさぐっていたからである。
正直、女性の視点から見ても、この光景は艶めかしくて、背徳的に感じてしまう。
近くにいた男子たちが目線を逸らしていた。
私ですら背徳的に感じていたのだから、彼らにとっては見ることすら難しいようだ。
とりあえず、助け舟を出そう。
「仁川さん、どういうことかしら?」
「あんな殊勝なことを言っている灯だけど、本当の目的はもっと別のところにあるのよ」
「ちょ。何を言ってるのよっ!」
仁川さんをはがそうとするが、完全に背後から掴まれているせいでそれは叶わない。
むしろあがけばあがくほど、密着しているように思える。
ちょっと目線を逸らしたくなってきた。
「灯はね、好きな人と冒険するためにこっちに参加したようなものよ」
「あぁ……なるほど」
仁川さんの言葉に私は納得してしまった。
たしかに、こちらの方が須藤さんの目的っぽい。
いや、須藤さんの言っていたことが全くのでたらめではないと思うけど……
「一緒に冒険することになれば、必然的に料理をするのは適性のある灯になる可能性が高いわ。つまり、灯の手料理を常に食べさせることができるというわけよ」
「【男は胃袋を鷲掴み】作戦というわけね?」
「ええ、そういうことよ」
「うぅ……」
私たちの会話に須藤さんが顔を隠す。
おそらく恥ずかしさのあまり真っ赤に染まっているのだろう。
隠していたはずの自分の企みがばれてしまったからだ。
だが、私は別にいいと思う。
悪い事をしているわけではないのだから、堂々と振舞えばいいと思う。
むしろ、そうやって自分の本心を隠そうとしているから、相手にその気持ちが伝わっていないのだろうし……
「じゃあ、二人を誘わないといけないわね。でも、一緒に冒険してくれるかしら?」
とりあえず、彼女の恋を応援するために、そんな提案をしてみた。
だが、不安な気持ちがある。
果たして私たちの提案を受けてくれるのか、についてだ。
丸山くんたちと一緒に冒険をしたい人が他にいる可能性もあるだろうし……
「それは大丈夫じゃない?」
「どうして?」
「だって、召喚される前の話で高田くんが言っていたじゃない」
「何を?」
仁川さんの言葉に私は首を傾げる。
召喚される前に高田くんと話をしたのって、何の事だろう?
正直、一番印象に残っているのは、高田くんがかなり喧嘩慣れしていることと東郷くんが恐ろしい不良であるという噂があることだけど……
「丸山くんが嫉妬されている、ってことよ」
「ああ、そう言えばそんな話をしていたわね」
「そんな状況で同じ男子から誘われることも少ないだろうし、他の女生徒から誘われるほど親しくもないでしょ? だったら、簡単に誘えるでしょ?」
「ええ、そうね」
どうやら私の心配は杞憂だったようだ。
これで須藤さんの背中を押すことができるわね。
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