3-15 小さな転生貴族は獣王と魔王に感謝される
※3月5日に更新しました。
「まったく……少しでも目を離すと、すぐに問題を起こすんですから」
「いや、これは僕のせいじゃないような……」
「女の子から好意を持たれているのが自分のせいではない、と?」
「……すみません」
リュコの指摘に俺は謝罪する。
謝るようなことではないとは思うのだが、なぜか謝ってしまった。
現に彼女には助けられたのだし、下手なことは言えない。
そんな俺たちの様子を後ろで見ている人たちがいろんな会話をしている。
「ねぇ……あの二人はどういう関係なの?」
「えっ!? グレインとリュコですか? ただの主人とメイドの関係だと思うけど……」
「……どう見てもそうは思えない。ものすごく仲が良いように思う」
「ああ、たしかにそうかもしれませんね……グレインが赤ん坊のころからの付き合いですから」
「「付き合いっ!?」」
「ああ、そういう意味じゃないですよ?」
なんか後ろが騒がしい。
聞こえているが、下手に話に入らない方が良い気がした。
そんなことをすれば、リュコに何を言われるかわからない。
いや、別に悪い事はしていないのだが、なんか勘違いされそうで……
そんなことを考えていると、応接間に着いた。
流石にお客様をずっと屋敷の外で過ごさせるのはまずいので、とりあえず応接間にやってきた。
リュコが扉をノックする。
「旦那様、皆様をお連れしました」
「ああ、わかった。入ってくれ」
中から返事があったので、扉を開く。
そこでは、紅茶を飲みながら楽しそうに会話をしている親たちの姿があった。
その後ろにはそれぞれの王に文句を言っていた部下の女性の姿があった。
彼女たちがただただ立っているだけということは、二人の王は何の問題も起こしていないようだ。
「おう、どうやら親睦は深められたようだな」
「ええ、そうみたいですね」
二人の王たちはこちらを見て、そんなことを言ってきた。
一体、彼らには何が見えているのだろうか?
「まったく……グレインは仕方がないわね」
「……グレインは罪作りな男。アレンにそっくり」
「ええっ!?」
母親たちの言葉に俺は驚きの声を出してしまう。
なんで母親からそんなことを言われなければならないのだろうか?
もしかして、さっきの光景を見ていたのか?
「?」
いや、先ほどの光景は見ていないのかもしれない。
アレンだけが何の話か分からず、置いてきぼりを食らっている。
もしかして、俺たちの空気だけで4人は察したのか?
「父さん、ティリスが女の子らしくなったよ」
「父様、レヴィアも自分の意思を私たち以外にもはっきりと伝えるようになったわ」
リオナさんとリリムさんがそれぞれの父親に報告をする。
元々そういう心配事があったのだろう、それを俺が決闘することで解決した、と。
その報告を受け、父親たちは嬉しそうに話し出す。
「そうかそうか。これも坊主のおかげだな」
「ええ、本当です。娘への心配がこれで一つなくなりましたよ」
「「あとは……」」
「「?」」
二人の父親はもう一人の娘にも視線を向ける。
もしかして、そちらにも心配事があるのだろうか?
一癖も二癖もあるようだから仕方がないことかもしれない。
まあ、当の本人たちはそんな視線を受けても、全く気にしていないようだが……
そんなことを考えていると、アレンから話を振られる。
「そういえば、この二人はグレインに用があるようだ」
「僕に、ですか?」
理解できずに俺は首を傾げる。
どうして獣王と魔王の二人が俺に用があるのかがわからない。
彼らと出会ったのは今日が初めてなのだが……
「ああ。二人はチェスとリバーシを楽しんでいるようでな、ぜひ製作者のお前と会いたかったそうだ」
「まあ、理由はわかりましたけど、どうして僕が製作者だと? モスコさんには情報は流さないように言っていたんですけど……」
商人とは信頼が命、なので約束は守ると思っていたのだが……
「ああ、俺が聞いたらあっさりと答えてくれたぞ?」
「私の時も同様ですね」
「……」
どうやら約束はあっさりと反故にされてしまったようだ。
いや、この二人は簡単な事のように言っているが、実際には違う可能性もある。
流石に戦闘能力も魔力もあまりないモスコがこの二人に直接聞かれたのなら、口を割ってしまうのも仕方がないことかもしれない。
俺だって、少しは彼らに恐怖を感じているからだ。
彼等から発せられる威圧感はとんでもない。
俺の知る中で最強のアレンとほぼ同じ──むしろ上回っているぐらいだ。
アレンは一人で特級の魔物を倒すほどの実力者──それよりも強い威圧感を持つ者などそうはいないはずだ。
それが二人もいるのだから、少しぐらい恐怖を感じても仕方がないだろう。
「おう、娘たちとリバーシを楽しませてもらっているぞ。あんなゲームを思いつくなんてすごいじゃねえか」
「しかも、あれは土魔法を使ってますよね? あそこまで精巧なものを作れるなんて、本当にあなたは子供なんですか?」
それぞれの王たちが俺に感想を告げてくる。
リオンさんの方は素直に褒めてくれているようだが、ルシフェルさんの方は何となくけなされているような気がする。
いや、認めてくれているようではあるのだが、俺の異常なレベルの魔法の技術に疑問を感じているようだった。
まあ、魔王だからこそ思ったことなのかもしれないが……
「それで会ってどうするつもりだったんですか?」
俺は二人の感想を聞いて、気になったことを質問する。
たしかに俺が製作者であることは事実ではあるのだが、二人は俺と会ってどうするつもりだったのだろうか、それが気になったのだが……
「いや、別に何もないぞ」
「ただ会いたかっただけですから」
「ええっ!?」
二人の言葉に俺はただただ驚くしかなかった。
一国の王がわざわざやってきて、まさか会いに来ただけとは……
「とりあえず、感謝を伝えておこうと思ってな。お前のおかげで娘たちと楽しく遊べるようになったんだ。おかげで城の中が明るくなった」
「ええ、そうですね。娯楽が少なかったので、君のおかげでそういう文化が広まりそうだね」
「はぁ……なるほど?」
俺としては前世の知識で作っただけなので、そんな大したことをしたつもりはない。
ここまで人気になっていることに正直驚いているぐらいなのだ。
どれだけ娯楽が少なかったのだろう?
まあ、これで彼らの目的は達成されたということだ。
これで王様と直接話すという高難易度ミッションは終了する、そう思ったのだが……
「ところで気になったのですが……」
ふとルシフェルが視線をリュコの方に向ける。
魔王にいきなり視線を向けられたせいか、彼女はビクッと体を震わせる。
まさか自分に視線を向けるられとは思わなかったのだろう。
普通は意識されることなどないと思うのが当然だからだ。
そして、彼はこんなことを聞いてきた。
「彼女は……【忌み子】ですよね?」
「「「「「っ!?」」」」」
彼の言葉でその場の空気が一気に冷え切った。
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