閑話10-12 女子高生は異世界召喚される
私の指摘に皇帝はしばらく悩んだ。
何か反論をしたいのだろうが、残念なことに彼にはそうすることはできない。
完全にこちらの方が言っていることは正しいのだから……
皇帝にも事情はあるだろうが、こちらにだって事情はある。
そもそも私たちは誘拐された被害者のような立場なのだ。
どうして加害者側の言うことを聞かないといけないのだろうか?
少なくとも、命令をされる謂れはないと思う。
そんなことを考えていると、意を決したのか皇帝が次の行動を起こした。
「すまなかった」
皇帝は深々と頭を下げたのだ。
一国のトップとしては、かなり思い切った行動ではなかろうか?
少なくとも、普通ならたとえ自分に非があったとしても、決して頭を下げることはないだろう。
トップが頭を下げるということは、それだけ評判が下がるのだから……
現に周囲にいた大人たちも慌て始めた。
だが、そんな大人たちの反応も意に介さず、皇帝は言葉を続ける。
「たしかに、君たちを召喚したことは完全にこちらの勝手だ。それを迷惑に思うのは当然だろう」
「やっと認めてくれましたか?」
「ああ。今になって、やっと気づかされたよ。たしかに、君たちにも元の生活があったのだろうに、我が国の勝手で呼び出してしまったのだな」
「そういうことです」
皇帝はどうやら愚かではないようだ。
しっかりと非を認めることのできる素晴らしい人間の様だ。
これは評価するべき点だろう。
こういう人の周りには自然といい人材が集まるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、皇帝は話を進めた。
「こんなことを言う立場ではないとは理解している。だが、失礼を承知で言わせていただく。我が帝国を救ってくれないか?」
「……」
皇帝は頭を下げながら、そう宣言した。
一国の王が頭を下げながら頼み込む、こんなことは普通あり得ないだろう。
自分達が頼み込む立場、完全に下だと認めていることになるのだから……
そんな覚悟を受け取った私は歩を進め、皇帝の肩に手をのせる。
「頭を上げてください。一国の王がそのように頭を下げる者ではないですよ」
「……もしかして、受けてくれるのか?」
私の行動に皇帝が期待に満ちた表情を浮かべる。
しかし、近づいたのは愚策だったかもしれない。
少し離れたところからでもイケメンだと感じたぐらいなのだ。
こんな近くで見れば、その魅力に当てられてしまいそうになった。
だが、今は恋愛をするつもりはない。
「ええ。流石に一国の王にここまでさせたのですから、勇者としての仕事はさせていただきましょう」
「すまない。恩に着る」
私が承諾したことを伝えると、皇帝は本当にうれしそうな表情を浮かべた。
見た目は少し怖めではあるが、このような表情を浮かべると大型犬のような雰囲気を感じさせる。
犬好きの私にとって、心を揺らされる。
実家で飼っていた犬が恋しくなってしまった。
今後はこのような表情を浮かべないようにしてもらわないと……
いや、今はそんなことはどうでもいいか。
とりあえず、伝えないといけないことがある。
「ですが、条件があります」
「条件?」
「はい。この頼みを受けたのはあくまで私個人です。ですので、今のところはこの国のために働くことが決まっているのは私だけ、ということです」
「ちょ、宮本さんっ、何を言っているのっ!?」
皇帝に告げた言葉を聞いた先生が驚いて話しかける。
まさか、生徒である私がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。
だが、考えればわかる話だろう。
いつになるかはわからないが、おそらく戦争になることは決定している。
皇帝の頼みを受けるということは、その戦争に参加させられるということ──つまり、死ぬ可能性のある場所に放り込まれるということだ。
そんな状況にクラスメートたちを巻き込むわけにもいかない。
だからこそ、先ほどのことは私個人ということにしたわけだ。
「む……」
「といっても、別に私だけという話ではないですよ」
「どういうことだ?」
「承諾が取れたのであれば、クラスメートたちを参加させるのは自由だということです」
「……いいのか?」
「承諾が取れれば、の話ですよ? もちろん、脅しなどで無理矢理従わせるのは駄目です。そんなことをするのであれば、私はこの話から降ります」
「……流石にそんな恥知らずなことはしない」
私の言葉に皇帝が小さくため息をついた。
自分達の信頼がそこまで落ちてしまっていることに落胆しているのかもしれない。
現状、私たちにとって、この帝国の人間は誘拐の加害者なのだ。
その信頼を回復するのは簡単な話ではないだろう。
正直、私が提案を受けたことすら異常なことだと思う。
「わかった。その提案を受けよう」
「ありがとうございます。あと、追加でですが、承諾をとれなかった人については生活を保障していただけると幸いです」
「それぐらいわかっているさ。国賓待遇でもてなしてやろう」
「いや、そこまではしなくていいです」
「なに?」
私の言葉に皇帝が驚く。
なぜ、そこで驚くのだろうか?
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