閑話10-10 女子高生は異世界召喚される
「ですが、たった二人の人間で戦況がひっくり返るのですか? というか、こちらの国にもそれに対抗できる人員ぐらいいるのでは?」
私は再び疑問を投げかける。
相手側にそれほど強い存在がいるのであれば、負けることはあるだろう。
しかし、敵側だけにそんな存在がいるとは思えない。
この国にもいると思うのだけど……
「たしかに、我が帝国にも精鋭と呼ばれる存在がいたようだ。だが、そんなもの達でも奴らには太刀打ちできなかった」
「どうして? 精鋭なんですよね?」
「それほどの化け物だったのだよ。【武闘派】と呼ばれるほどだから、戦うことに喜びを見出すような者たちだったのだよ」
「それは……」
私は言葉を詰まらせる。
基本的に戦争に参加する者は無理矢理参加させられる者が多いだろう。
そして、戦うことを嫌だと思っているはずだ。
しかし、戦いを純粋に戦う者は嬉々として戦争に参加する。
戦力としてはかなり変わってくるのではないだろうか?
「30年前の戦争ですらそのような状況だ。現在はさらに状況が悪くなっている」
「どうしてですか?」
「もう一人、リクール王国には強力な戦力がいるからだ。こいつは先ほどの二人よりも恐ろしい存在だ」
「そんな人がいるんですか?」
皇帝の言葉に私は驚く。
先ほどの二人は戦争で【一騎当千】と呼ばれるほどの活躍をした武闘派のはずだ。
それなのに、そんな二人よりも恐ろしい存在なんて、本当に存在するのか?
「そいつはアレン=カルヴァドス──カルヴァドス男爵家の現当主だ」
「男爵、ですか?」
「もちろん、ただの男爵ではない。元冒険者で、かつてリクール王国で災害と見紛うほど暴れまわったギガンテスという魔物を討伐した功績で爵位を得た男だ」
「……確かに武闘派ですね」
平民が爵位を得ることはかなり難しいはずだ。
少なくとも、信じられないような功績を上げないとできるようなことではないと思っている。
といっても、日本に住んでいる普通の女子高生が詳しく知っているようなことではないが……
「【巨人殺し】──リクール王国では、英雄として扱われている存在だ」
「英雄なのに、男爵ですか?」
「まだ爵位を得て、20年も経ってないからな。いくら英雄と言えども、そんな簡単に爵位が上がることはないだろう。それに、元々権力にも興味もない人間だから、わざわざ活躍をするようなことはしていないようだ」
「そうなんですね……」
一体、どんな人間なのだろう?
普通の人間ならば、権力を持ちたいと思うのが普通だ。
それによるしがらみもあるかもしれないが、権力を持つことによってよりよい生活を送ることができるようになる。
日本でも権力を得るために、勉強をしたりするのだ。
しかし、その男爵は権力を得ることに興味がなく、貴族の中でも最も下の男爵であることに甘んじている。
そんな人間だからこそ、少し気になってしまった。
といっても、敵国にいる存在なので、会って話をすることは難しいだろうけど……
「これだけでもかなりまずいのに、向こうには【獣王】と【魔王】がいるからな」
「それがどうしたのですか?」
「この二人はアレン=カルヴァドスと同等の存在らしい。実際には、英雄が三人いると考えた方が良いだろう」
「……それ、勝てるんですか?」
私は思わずそんなことを聞いてしまう。
聞いた限り、かなり敵側が強いと感じてしまう。
かつての戦争で活躍した一騎当千が二人、それを上回る強さが三人──たった5人とはいえ、恐ろしいぐらいの戦力だと思うのだが……
「だからこそ、異世界から勇者を召喚させてもらったのだよ。我が帝国を救ってもらうために、な」
「……」
「どうした?」
いきなり黙り込んだ私に皇帝が聞いてくる。
先ほどまでは異世界転生したことにワクワクしすぎていたのかもしれない。
だが、本来はもっと別のことを考えるべきだった。
「……私たちでは、役に立てないと思いますが?」
「む? どうしてだ?」
「私たちは召喚される前は普通の学生でした。もちろん、戦争なんて参加するほどの力がある人間なんていません」
この帝国が危機に瀕しているのは理解できた。
そのために勇者を召喚した、ということも。
だが、それはあくまでもこの帝国の事情である。
そんな理由で一介の学生たちが呼び出されても、何もすることができないと思うのだけど……
「いや、そんなことはないはずだ。召喚された勇者には強力な力が与えられると言い伝えられているんだ」
「……どこの情報ですか? この世界では、異世界から勇者を召喚するのは当たり前のことなんですか?」
「いや、そう何度も行われることではない。現に過去に呼び出されたのも、数百年近く前の様だしな」
「なら、正しいかどうか、わからないのでは?」
「だが、現にヒジリは【聖女】ではないか。これは記述が正しい事の証明だろう?」
「……」
皇帝の指摘に私は黙り込んでしまう。
たしかに彼の言う通りである。
この世界において、【聖女】がどれほどの存在かはわからない。
だが、崇められるほどの存在であることは想像がつく。
否定はできない。
しかし──
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