閑話10-5 女子高生は異世界召喚される
「おそらくですが、私たちにはこの世界の人たちの言葉が自動的に変換されているようです」
「自動的な変換?」
私の説明に皇帝が首を傾げる。
どうやら理解が難しいようだ。
まあ、こんな突拍子もない事、いきなり信じることの方が難しい。
異世界転生なんてファンタジーな出来事に巻き込まれた私が言うことではないと思うが……
とりあえず、説明を続ける。
「本来、私たちの国の言葉とこの国の言葉──この二つは全く別の言葉です。発した言葉だけでなく、書かれた文字に至るまでです」
「そうなのか?」
「はい。それは私が書いた文字を陛下が読めなかったことで証明できます」
「ふむ、なるほど。だが、ヒジリが全くでたらめなことを書いたという可能性もあるのでは?」
流石にあっさりと納得はしてくれないようだ。
だが、この質問は想定の範囲内である。
これぐらいなら、簡単に証明することができる。
「先生、吉田さん」
「何かしら?」
「何?」
私は近くにいた先生と吉田さんに声をかけた。
二人に紙を渡す。
吉田さんにはペンも渡した。
先生は自分のペンを持っていたからである。
「その紙に【ステータスプレート】と書いてください。カタカナで」
「「え?」」
いきなりの頼みに二人は怪訝そうな反応をする。
どうして、そんなことを頼まれるのかわからなかったのだろう。
だが、私の言うことなので、素直に書いてくれた。
そして、その紙を回収した私は皇帝に渡した。
皇帝はその紙を確認する。
「どうですか?」
「ふむ……すべて、同じ文字を書いているな」
私の質問に皇帝は納得したように頷いた。
どうやら、私の伝えたいことがわかったようだ。
「これはヒジリたちの国の言葉なのだな」
「はい、そういうことです」
「これで、ヒジリがでたらめな言葉を書いていない、ということはわかった。だが、これはヒジリたちの言葉と俺たちの言葉が違うことが証明されただけでは?」
「それなのに、私たちは会話を成立させていますよね? おかしいとは思いませんか?」
「む?」
私の言葉に皇帝は言葉を詰まらせる。
今さらながら、気づいたようだ。
本来なら、もっと早くおかしいと気付くべきことだろう。
だが、あまりにも自然と会話していたせいで、気づくことが遅れたのかもしれない。
「まったく違う言語を使う者どうしがあっさりと会話をしている──これはどちらかの言葉が自動的に翻訳されていると考えるべきでしょう。そして、それは当然──」
「ヒジリたちの方、ということだな」
「はい、そういうことです」
「なるほど……それなら、筋は通っているな」
私の言葉に皇帝は頷いた。
これは納得してくれたようだ。
私は次の説明を移る。
「そして、これは皇帝の書かれた文字です」
「それがどうした?」
「当然、私はこの文字を読むことはできません。ですが、書いてある言葉の意味を理解することはできました」
「それはヒジリが書くように言ったからでは?」
私の説明に皇帝は反論してきた。
たしかにそうだ。
ここに書いてある言葉は渡妃が皇帝に頼んで書いてもらったものである。
それなら、文字が読めずとも意味が理解できてもおかしくはないか。
なら、同じように証明をすればいい。
「では、それぞれの紙に皇帝の思う言葉を書いていただけませんか?」
「この二枚に、か?」
「はい」
「同じ言葉を、か?」
「それはどちらでも構いませんよ。全く違う言葉でも、同じ言葉でも……あ」
「なんだ?」
「ですが、できたら同じか違う言葉かは伝えていただけると幸いです。同時に答えるか、一人ずつ答えるかは変わってくるので……」
「ふむ……では、違う言葉にするか」
私の言葉に皇帝はサラサラと紙に書いた。
相変わらず、何を書いてあるのかはわからない。
私はその紙を受け取り、先生と吉田さんに渡した。
「書かれてある言葉を読んでいただけますか?」
「常勝無敗?」
「帝国至上」
私の頼みで二人は書かれてある文字を読んだ。
もちろん、それは事前に私が見た内容と同じである。
私は再び皇帝に向き直った。
「どうですか? 見知らぬ言葉をあっさりと二人は言い当てました。これで私の言うことが正しいと証明できましたよね?」
「ああ、十分だ。たしかに、ヒジリの言う通りなのかもしれないな」
私の言葉に皇帝が両手を上げ、降参するような反応を示した。
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