3-14 小さな転生貴族は大岡裁きを経験する
※3月5日に更新しました。
「な、なにをして……」
「この人を好きになった」
「そんなこと聞いてないっ!」
質問にレヴィアが端的に答えるが、ティリスは納得がいかずに叫ぶ。
俺もどうしてこんなことになっているのかわからない状況ではある。
そんな中、リリムさんが説明してくれる。
「ティリスちゃん、それとグレイン君、ごめんなさいね?」
「えっと……これはどういうことですか?」
「どうやらレヴィアちゃんも君のことが好きになっちゃったみたいなの」
「……それは何となくわかりましたけど」
先ほどの言葉から俺に好意を抱いてくれているのはすぐに分かった。
この抱擁もそれを表すための行動なのだろう。
言葉はあまり多くないようだが、意外と行動派のようだ。
果たしてそれがいいのかは判断できないが……
「なるほど。レヴィアちゃんはグレイン君が好きになったか。仕方がないことね」
「ごめんなさい。せっかくティリスちゃんが好きになった相手なのに……」
「いやいや、気にしないよ。恋愛というのは障害があれば、より燃え上がると聞いたことがあるし、これも一つの障害でしょ」
「あはは、たしかにそうかもしれないわね」
二人の姉は楽しそうにそんな会話をしている。
だが、俺はそんな風に笑っていられる状況ではない。
「は~な~せ~よ~」
「嫌」
「先に私が仲良くなろうとしたんだ。譲ってよ」
「……こういうのに順番は関係ない」
「ちっ、なら実力行使よ」
「……望むところ」
「痛い痛い痛い痛いっ!」
二人の言い争いがエスカレートし、両側から引っ張られる。
真ん中から引き裂かれそうなぐらい痛いので、思わず悲鳴を上げてしまう。
だが、二人が止めることはない。
そういえば、この状況に似た話をふと思い出す。
たしか子供を相手にどちらが親かを確かめるために引っ張り合いをするが、片方が子供が痛がったことでかわいそうだと思い、手を離してしまうという話だったはずだ。
本来は勝った方が親ということだったが、子供のことを考えて手を離した方が親であることが決まったとかそういう話だったか?
まあ、異世界にそんな話があるはずがない。
しかも、彼女たちはまだまだ子供なので、自分たちの気持ちを優先させるだろう。
俺の状況を理解しているかすら怪しい気がする。
なので、この状況を脱するには外部の助けがいるわけだが……。
「リオナさん、リリムさん、助けてください」
当事者の姉たちに助けを求める。
妹の不始末は彼女たちに取ってもらうのが、筋と思ったからである。
「まだ女性を増やすつもりなの? 両手に花の状態なのに……」
「いや、そういうことじゃ……」
「流石に二人の邪魔をしたくないわね。この状況に割って入ると、私も同じだと思われそうだし……」
「いや、そんなことないでしょっ!」
二人ともおかしな理屈で俺の頼みを断った。
だが、彼女たちの口角が上がっていることに俺は気が付いた。
俺のこの状況を見て楽しんでいるのだろう。
とりあえず、彼女たちは頼りにならないので、違う人に頼むことにする。
「シリウス兄さん、助けてっ!」
「あはは……それは無理かな?」
「どうしてっ!?」
兄さんに頼むが、あっさりと断られてしまう。
といっても、兄さんも断りたくて断った様子ではなかった。
だが、断られたことには変わりないので、思わず理由を聞いてしまう。
「いや、言葉じゃなくて、力でどうにかしないといけないと思うんだけど……僕の力じゃ無理でしょ?」
「……そうかもしれないけど」
「それに子供とはいえ未婚の女性の体を勝手に触れるわけには……」
「たしかに……って、痛いっ!?」
理由を聞いて思わず納得してしまったが、現状は何の解決にもなっていない。
しかも、ずっと引っ張られているのでどんどん痛みが強くなってしまっている。
このままでは本気で引き裂かれ……
「何をしているんですかっ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
と、ここで俺に救いの手が差し伸べられる。
俺に救いの手を差し伸べてくれたのは……
「リュコっ!?」
俺のメイドであるリュコだった。
そういえば、彼女のことを忘れていた。
流石にリュコと一緒に屋敷に入っていれば、シリウスだけではなくアリスにもばれるだろうから屋敷の外で待機してもらっていたのだ。
呼ぶのを忘れていた。
だが、主である俺の危機に気付いて、助けに来てくれたようだ。
「ビスト第二王女のティグリス様、アビス第二王女のレヴィア様ですね?」
「誰?」
「私たちは忙しい。どちらがグレイン君にふさわしいか決めているところ」
話しかけてきたリュコに怪訝そうな表情を向ける二人。
その表情はまるで邪魔者が現れたといった感じの気持ちを感じることができる。
たしかに状況から見れば、そう思うのも仕方がないのかもしれないが……
「私はグレイン様専属のメイドのリュコスと申します。お二人とも、グレイン様を離していただけませんか?」
リュコは二人の身分にも屈することなく、はっきりとそう告げる。
その様子を見て、リオナさんとリリムさんが驚いたような反応をする。
まあ、普通は王女相手にそんなことが言えるメイドなどいるはずがないからな。
リュコは俺と過ごしてきたおかげ(せい?)で、身分で気おくれをしたりすることはないのだ。
「どうして?」
「一介のメイドがアタシたちに命令できるのか?」
リュコの言葉を二人は受け入れる様子はない。
彼女たちの目下のやるべきことは相手より先に手に入れることなのだ。
だからこそ、彼女たちは俺から手を離すわけにはいかないと思っているのだろう。
そんな二人の言葉に怒った様子もなく、淡々とリュコは説明を続ける。
「おそらくですが、そのままではお二人がグレイン様から好意を向けられることはないと思います」
「なんでよっ!」
「そんなことを言われるのは不本意」
リュコの言葉に反論する二人。
いきなりそんなことを言われて、女の子としてのプライドを傷つけられたのだろう。
だが、別にリュコが言っているのはそういうことではないと思う。
もっと単純なことで……
「痛がっていることに気付かず、自分たちの目的のみを達成しようとするお二人に果たしてグレイン様は好意を抱くと思いますか?」
「「っ!?」」
「そういう勝負で決めるよりは、痛がるグレイン様のことを心配した方が評価は高いと思いますけど?」
「「……」」
リュコの言っていることが正しいと思ったのか、二人はそのまま黙ってしまい、手を離してくれる。
「えっと……」
「「ごめんなさい」」
「ああ、別にいいよ。何とか無事だったし……」
二人が謝ってくれたので、とりあえず許すことにした。
流石に怪我でもしたら怒ろうとは思ったが、この程度で済んだのならそこまで言う必要はないだろう。
状況はどうあれ、俺に好意を向けてくれての行動なので怒るのはなんとなく駄目な気がするから……
とりあえず、助けてくれたリュコにお礼を言おう。
「リュコ、ありがとう。助かっ……」
「両手に花でしたね、グレイン様? 私を外で待たせておきながら、いい御身分ですね? あっ、貴族様でしたね」
「すみませんでしたああああああああっ」
お礼を言おうとしたが、彼女から発せられた毒に気付いた俺は即座に土下座した。
周囲の視線が痛いが、そんなことは気にしない。
とりあえず謝罪しなければいけないと思ったのだ。
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