閑話10-2 女子高生は異世界召喚される
暗い雰囲気の部屋から私たちは広い部屋に連れていかれた。
といっても、日本人の感覚で言うと、部屋とは言えない気がする。
大きな扉から入ると、そこからまっすぐに赤い絨毯が敷かれており、その先には一段高くなっているところがあった。
イメージとしては、RPGとかによく出てくる城の謁見の間といったところだろうか?
現実で見るのは初めてなので、それが合っているのかはわからないけど……
そこには豪華な椅子が置いてあり、一人の男性が座っていた。
年齢は30歳前後だろうか、成人しているのは間違いないが、おじさんと呼ばれたりするほど年を取っているようには見えなかった。
それよりも気になるのが、その男性の雰囲気である。
まるで獲物を狙う獰猛な獣のようで、視線を向けられているだけで恐怖のような感情を覚える。
「エドワード様、こちらが異世界から召喚された勇者様方です」
「ほう、成功したか。よくやった」
「ありがたとうございます」
目の前の男性──エドワード様が最初に出会った男性にねぎらいの言葉をかける。
その言葉を聞いた男性は嬉しそうに頭を下げる。
そして、そのやり取りの後にエドワード様はこちらに視線を向けた。
「我が国の呼びかけに応じていただき、感謝するぞ。異世界の勇者たちよ」
「あの……少しいいですか?」
「なんだ?」
エドワード様の言葉を聞いた先生が手を上げる。
相手は皇帝という雲の上の存在──そんな相手にいきなり質問をするなど、本来は失礼なことのはずだ。
まあ、異世界と思われる場所ならば、地球とは常識が違うかもしれないけど……いや、だからといって、失礼なことには変わりないか?
とりあえず、先生はかなり危ない事をしている。
周囲にいる偉そうなおじさんたちが怪訝そうな表情を浮かべているので、それだけは理解できた。
しかし、そんな周囲の反応を気にした様子もなく──いや、気にしないようにしているのだろう、先生は口を開いた。
「その……異世界の勇者、ですか? それはなんですか?」
「む? 説明しておらぬのか?」
先生の言葉を聞いたエドワード様は驚いたような表情を浮かべる。
そして、先ほどの男性に視線を向けた。
エドワード様に視線を向けられた男性は慌てた様子もなく答えた。
「はい。召喚の場で説明をするより、こちらで説明をした方が納得してもらえるかと思いまして……」
「理屈はわからんでもないが、最低限の説明ぐらいはするべきではなかったのか?」
「二度説明するのも手間でしょうし、一刻も早くエドワード様に伝えるべきだと思っていたため、その考えには至りませんでした」
「……まあ、いい」
男性の言葉にエドワード様はため息をつく。
今さら指摘しても意味はないと思ったのだろう。
エドワード様は再びこちらに視線を向け、口を開いた。
「ここはカイザル帝国と呼ばれる国で、俺はこの帝国の皇帝であるエドワードだ」
「えっと……私はこの子たちの教師の雨宮 玲と申します」
「ふむ……レイというのだな。なかなかいい響きの名前ではないか」
「あ、ありがとうございます」
いきなり褒められ、先生が照れる。
獰猛な雰囲気ではあるがイケメンの皇帝にそんなことを言われれば、ドキッとしてしまうのは女性として当然の反応だろう。
アラサーの独身女性にとっては、かなり強烈な一撃だったのではないだろうか。
しかも、皇帝はそれを何の打算もなく、自然に口にしているのだ。
現に、すでに次の話題に移っているからだ。
「おそらく、お主等はこの帝国の名前を聞いたことがないだろう?」
「え? えっと……たしかに、聞いたことはないですが……私もすべての国を知っているわけでは……」
「そういうことではないだろう。さて、レイはどんな名前の国から来たのだ?」
「日本ですけど……」
「俺はその【ニホン】という名の国を聞いたことはない」
「え?」
皇帝の言葉に先生は驚く。
地球で生きているうえで、日本という名前を聞いたことがないなんてことはおかしいと思ったのだろう。
すべての人間とは言わないが、日本は地球ではトップクラスに有名な国だろう。
そう思っているからこそ、先生は皇帝のことに驚いたのだろう。
おそらく、先生はまだ状況を理解できていない。
教師という立場だからこそ、率先して会話をしてくれているに過ぎない。
責任感が強いのは立派なことではあるが、この状況はあまりよろしくないかもしれない。
こういう真面目な人は、イレギュラーな状況に陥ってもなかなか信じることはないからである。
とりあえず、私は口を開いた。
「発言、よろしいですか?」
「宮本さん?」
私が話し始めたことに先生が驚いた。
そんなに驚かなくてもいいのではないだろうか?
まあ、この状況で普通は話そうとは思わないか。
「お主の名は?」
「宮本 聖と申します」
「ヒジリ、だな。発言を許可しよう」
あっさりと発言の許可を貰うことができた。
何の説明を受けていないという話から、質問をしっかりと受けるべきだと思ったのかもしれない。
理由はわからないが、ありがたいことである。
「ありがとうございます。では、陛下は【地球】という言葉を聞いたことは?」
「え?」
私の質問に先生が驚いたような声を漏らす。
質問の意図が理解できないのだろう。
まあ、普通に考えれば、頭のおかしい質問だと思うだろう。
しかし、この質問は別に私の頭がおかしくなったわけではない。
とあることを証明するために、必要なことなのだ。
「聞いたことはないな」
「えっ!?」
「お答えいただき、ありがとうございます」
皇帝の答えに先生はさらに驚いた。
そして、私は予想通りの答えが返ってきたと思いつつ、感謝の言葉を告げた。
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